文維くんのこいびと

 無邪気な煜瑾の「大いなる苦悩」に、恭安楽は声を出して笑った。

「おほほ。では、バナナミルクと、ブラウニーを1つだけですよ」
「は~い!」

 ご機嫌な煜瑾は、包夫人に手を引かれてキッチンへと消えた。

 1人リビングに取り残された文維は、仕方なく唐家へ電話を掛ける。

「はい、唐家でございます」

 電話には、やはり唐家ご自慢の優秀な執事が出た。

「包文維です。実は今夜、唐家にお伺いして、煜瓔お兄さまとお話がしたいのですが」
「?…包先生だけで、ございますか?煜瑾坊ちゃまはご一緒ではないのですか?」

 文維と煜瑾が唐家に来るという連絡は、これまで煜瑾がしてくるものだった。それが文維からの電話とあって、茅執事は腑に落ちない。

「煜瑾も…、一緒ではありますが…」

 なんとなく歯切れの悪い文維の口ぶりに、茅執事はますます不審を覚える。

「とにかく、煜瓔お兄さまは、何時ごろにお帰りですか?」

 話を逸らすつもりではないが、文維は直接に唐煜瓔の帰宅時間を尋ねた。

「旦那様は、ちょうど明日の朝が早いということで、今夜は定時にお戻りの予定です」
「分かりました。6時ごろ、伺います。お兄さまがお戻りになるまで、お待ちしてもよろしければ」

 何もかもが茅執事には納得がいかない文維の態度だが、あと数時間で煜瑾も一緒に唐家に戻るということであれば、やぶさかではない。

「では、煜瑾坊ちゃまの分も合わせて、お夕食の支度をさせていただきます」
「あ…、は、はい」

いつもの文維とのあまりの違いに、茅執事は違和感しかない。

「包先生、煜瑾坊ちゃまに何かございましたか?」
「……」

言い出しかねている文維に、茅執事はこれ以上聞くことは無いと思った。

「では、6時にお待ちしております」

丁重にそう言って、茅執事は電話を切った。


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