文維くんのこいびと

 煜瑾は、恭安楽が用意した、美味しい桃のジュースを堪能すると、少し愚図り始めた。

「おかあしゃま~、おかあしゃま~」
「はいはい」

 これからのことを、包夫人と文維は話し合いたいとは思うが、構って欲しい煜瑾が、包夫人に甘えて抱き付いたり、お話をねだったりと2人の邪魔をする。

「煜瑾ちゃんは、もうお昼寝の時間ね」
「イヤでしゅ~、お昼寝したくないの~」

 そう言いながらも、眠そうに眼をこすりだした煜瑾に、包夫人は柔らかな笑顔で抱き寄せた。

「じゃあ、ベッドの上でお話をするだけ、ね。それとも文維お兄ちゃまに、ご本を読んでいただきましょうか」
「お、お母さま」

 母のムチャぶりに、慌てる文維だが、煜瑾の耳にはもう届かないようだ。

「おかあしゃま~、抱っこ~」
「はい。煜瑾ちゃんは、イイ子ですね」

 包夫人が3歳児をその胸に抱えなおした時には、もう煜瑾は寝息を立てていた。

 その穢れの無い美しい寝顔に、包夫人の表情は緩みっぱなしだ。

「子供って、本当に可愛いわね。見ていて飽きない…」

 そう言いならがも、包夫人は身振りで息子にブランケットを取りに行かせた。

「お母さま…」

 戻った文維は、母の腕の中から、眠り込んでいる幼児を起こさないように受け取り、ソファに寝かせ、ブランケットをソッと掛けた。

「本当に、子供の寝顔って可愛らしくて、崇高だわ。穢れを知らない天使そのものだもの」

 健やかに眠っている幼子から目を離すことなく、恭安楽が言った。

「煜瑾ちゃんだからじゃないのよ。文維、あなただってこのくらいの頃は、本当に…『寝顔だけは』天使だったわ~」
「どういう意味ですか」

 せっかくのお昼寝の邪魔をしないように、小声でツッコみながら、恨めし気に母を見やる文維だった。





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