文維くんのこいびと

「違いますよ。私は煜瑾が大好きです。誰よりも、何よりも煜瑾が大好きで、大切な宝物だと思っています」
「文維お兄ちゃま…」

 煜瑾も満足したのか、幸せそうに文維に頬を寄せギュッと縋りついた。

「文維お兄ちゃまも、煜瓔お兄ちゃまと一緒」
「え?」

 嬉しそうな煜瑾の言葉を、文維は聞き咎めた。

「今、なんと言いました?」

 優しくも深刻な文維の声に、煜瑾はキョトンとしている。

「煜瓔お兄さまを覚えているのですか?」

 文維の言葉に、煜瑾は声を上げ、文維に抱かれたまま背中を反らして、心から楽しそうに笑った。

「煜瓔お兄ちゃまは、煜瑾のお兄ちゃまですよ」

 そう言って、また大きな声を上げて無邪気に笑う。実の兄を忘れるはずが無いと言いたいのだろう。

 文維は腕の中で笑い転げる小さな子供に気付かれないよう、眉を寄せていた。

「あのね…」

 煜瑾は、内緒話をするように、そっと文維の耳に小さな手と口を寄せて囁いた。

「煜瓔おにいちゃまも、煜瑾のことを『宝物』だっておっしゃるのでしゅ」

 そして、煜瑾は文維と秘密を共有したのが嬉しいかのようにクスクスと笑った。

(次に会うべき相手が決まったな…)

 苦手な相手の美貌を思い浮かべ、文維の知的で端正な顔も歪んだ。

 そこへ、難しい顔をした恭安楽が戻った。
 煜瑾のためのグラスに入ったジュースだけではなく、息子のためのコーヒーも運んできた。

「あ!煜瑾のジュースでしゅね」
「そうですよ、煜瑾ちゃん。お利口だから、こちらにお座りしていただきましょうね」
「は~い」

 幼い子供の明るく澄んだ声に、包夫人も慈しみ深い母の顔になる。
 そして苦悩する愛息の前に、熱いコーヒーを置いた。
 文維は母の厚意に笑顔で謝意を示し、熱いコーヒーカップを手にして幼い煜瑾から少し距離を取った。






11/31ページ
スキ