包文維&唐煜瑾エンディング   ※【オマケ】ストーリー付

 翌朝、羽小敏を除く3人の少年は朝食の席で顔を合わせたが、なんとなく気まずく、話したいことはあるのに、なかなか口火が切れない。
 こんな時に、無邪気で明るい小敏がいれば、話しやすかったであろうと、誰もが小敏の不在を寂しく思った。

「それで、小敏の怪我は?」

 文維は思い切って、食膳を運ばせる李豊に訊ねた。

「ご心配には及びません。軽い捻挫です。すぐにお医者様もお呼びしましたし、馬球大会までには完治いたしますよ」
「それは良かった…」

 文維が言うと、酷く沈んだ声で申玄紀が口を開いた。

「私のせいなのです。走っていて、小敏兄様を引っ張って転ばせてしまって…」
「あの暗闇の中です。転んでも仕方なかったでしょう。玄紀公子も、あまり気に病まれますな」

 その事実には多少驚いたが、それでも英明な文維は、眼に見えて落ち込んでいる玄紀を責めることはしない。

「うん、ありがとう、文維公子…」

 そう言いながらも玄紀は、力のない様子で、ゆっくりと箸を進めている。いつものように会話が弾む小敏がいないのも原因だろうが、昨夜の出来事が暗い重荷となっているのは間違いがない。
 そのまま文維は煜瑾の方に目をやるが、煜瑾もまた箸が進まないようだ。もちろん、煜瑾も昨夜の釈然としない出来事が、自分の中で整理がつかずに考えこんでいるのだろう。

「李豊さん」

 心を決めた文維は、李豊に声を掛けた。

「何でございましょうか、包家の公子?」
「出来れば、昨夜のことを廷振王子にご報告するのは、私一人で参りたいのですが」
「え?」

 文維の申し出に驚いたのは、李豊だけでは無かった。申玄紀も唐煜瑾も不思議そうに顔を上げる。

「私たちはほとんど一緒におりましたし、見聞きしたものも同じです。何があったか、何を見たかについては、私一人で説明がつくかと存じます。羽小敏は怪我をしておりますし、お2人の公子もお疲れのご様子。ここは私だけで済むことではないかと…」

 確かに、最後の最後ではぐれてしまったものの、あの「紅蘭亭」で何を見たかについては、怯えた年下の公子たちよりも、文維1人のほうが無駄に騒ぎ立てせずに、要領よく話せるだろうと李豊は思った。

「文維公子…」「文維…」

 玄紀と煜瑾は不安そうな、それでもどこかホッとしたような顔をして文維を見詰めている。

「心配はいりませんよ。昨夜のことを思い出すのも、お2人には楽しい事では無いでしょうから、もう忘れておしまいなさい」

 そう言って文維はニッコリとして、年下の2人を安心させた。

「李豊さん、廷振王子にお伝え願います」

 包文維に頭まで下げられ、李豊も断れない。

「さようでございますね。ではそのように、廷振王子にお伝えして参ります」

 そう言って李豊は退室した。



 朝食後、いつものように勉強部屋へ移り、玄紀と煜瑾の課題を確認した文維は、その足で小敏の様子も見に行った。

「小敏?」
「文維兄上~!」

 もっと落ち込んでいるかと思っていた小敏が、思ったよりも明るい顔で、嬉しそうに迎えてくれたことに文維は安堵した。

「痛みは無いのか?」

 そう言って、文維は寝台の端に腰を下ろした。

「うん。今日1日は動いてはいけないと言われたけれど、ボクはもう平気。でも…」

 急に小敏が顔を曇らせた。

「ん?どうした?」
「昨日は、ボクが幽霊を見たいと言ったせいで、みんなに迷惑を掛けてごめんなさい…」

 素直で責任感の強い小敏は、あれからずっとこんな風に自分を責めていたのかと文維は可哀想になった。

「いや。お前を止められなかった私も悪い。みんな無事だったのだし、お前はこうして怪我もした。もう自分を責めるのはやめなさい。これからは、もっと好奇心を抑え、周囲の迷惑にならぬよう、行動するようにしようね」
「文維兄上~」

 宿舎に帰ってからというもの、ずっと反省していた小敏だったが、文維に優しく言われてようやくホッとした。叱られなかったのが嬉しくて、ギュッと文維の胸に縋りついて、今まで我慢していた涙を流した。

「兄上たちとはぐれた時、ずっと、兄上と煜瑾に何かあったら、ボクのせいだって、思ってた…」
「大丈夫だよ。心配してくれたのだね」
「本当に、本当に文維兄上と煜瑾が無事で良かった~」

 すっかり安心して文維に泣き縋り、文維もしっかりと抱き留めた。

 その様子を廊下から見ていた煜瑾は、声を掛けるきっかけを失い、どうしたものかと立ち尽くしていた。

「おや、唐家の公子?」

 戻って来た李豊の声に文維が振り返り、煜瑾を見つけた。

「ほら、小敏、煜瑾侯弟も心配してお見舞いに来て下さいましたよ」
「あ!煜瑾!」

 顔を上げ、急いで涙を拭くと、小敏は煜瑾に手を振った。

「入っても、よいのか?」

 煜瑾は心配そうに李豊に確かめ、それに応えるように李豊が御簾を上げた。

「おはよう、小敏。足の怪我は大丈夫なのか?」

 煜瑾は、チラリと文維を見ながら小敏に訊ねる。

「うん。ごめんね、心配かけて」
「いや、それより、私の方こそ。昨夜、確かめに行こうと部屋を出たのは私の一言のせいだった」

 あ、と文維は表情を変えた。あの時、煜瑾が「確かめに行こう」と言い出したことを、気に病んでいたとは全く気付かなかった。

「煜瑾侯弟…」

 言いかけた文維に李豊が声を掛ける。

「包家の公子、廷振王子がお待ちでございます」
「あ…はい」

 煜瑾と小敏のことが気がかりではあったが、文維は年下の公子たちがいない所で、廷振王子と話さなければならないことがあり、仕方なく立ち上がった。

「今、参ります」




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