申玄紀&羽小敏エンディング ※【オマケ】ストーリー付
手足も洗い、捻挫した足も手当てを受け、念のためにと用意された薬湯を飲んで、やっと小敏は眠りについた。
小敏は、森の中を1人で走っていた。
振り返ると後ろは真っ暗なのだが、誰かが…、「何か」が追って来るのが分かる。
必死で逃げようと前を見るが、前方もまた暗闇で自分がどこへ向かっているのか分からない。
(助けて!父上、助けて下さい!)
必死で父将軍の顔を思い浮かべて救いを求める小敏だったが、この祈るような気持ちは将軍には届かないようだ。
何も見えないし、何も聞こえないのだが、小敏を追う「何か」は、すぐそこまで迫っているのが何故か分かる。
それが恐くて、怖くて、小敏は必死で逃げるのだが、もう「何か」は小敏の腕を捕えようとしている。
(イヤ~!誰か、助けて!)
その瞬間、小敏は「何か」に手首を掴まれた。
「いやあ~っ」
悲痛な悲鳴が響いたが、それが自分の声なのか、そうでないのか小敏には分からなかった。
痛いほど握られた手首を引かれ、小敏は「何か」に後ろから抱きかかえられた。
それは期待するような、小敏を守るためではなく、もっと邪悪な意図を感じさせた。
「放せ!放せよ!」
逃れようと小敏は力の限りに暴れるが、背後の邪悪な存在はビクともしない。
「イヤだっ!」
次の瞬間、小敏には信じられないことが起きた。背後から伸びた手が、小敏の帯に掛かり、一瞬の内に衣類が引きはがされたのだ。
「やめろ~!」
素肌に冷ややかな魔物の手が触れ、小敏はゾッとして大声で泣き叫んだ。
「ヤダ、やめてっ~!」
これほどの大声で助けを求めているのに、誰一人助けには来てくれない。このまま自分は殺されてしまうのかと、小敏は絶望し、ただ悲鳴を上げ、泣くことしか出来なかった。
そして、小敏は自分の身体が引き裂かれた気がして、その苦痛に意識を失った。
「羽家の公子?」
目が覚めると、そこには世話係の李豊が心配そうに見つめていた。外はもう明るい。いつもと変わらぬ朝が来たのだと分かった。
「随分と、うなされておいででしたよ、羽家の公子」
そう言うと李豊は手にした布で、小敏の額の汗を拭った。
「朝でございますよ、羽家の公子。足の痛みはいかがですか?」
「ん…、大丈夫。とても怖い夢を見たんだけど…。なんだか恐いだけでなく、悲しい感じもした」
難しい顔をして、小敏は起き上がった。浮かない顔で俯いてしまう。その様子に、李豊が優しく声を掛けた。
「ご学友がお見舞いをしたいとお申し出ですよ。いかがされます?」
李豊に言われ、小敏が顔を上げると、廊下の御簾の向こうから3人が様子を窺っているのが見えた。
「公子がたは、こちらに朝食を運んで、羽家の公子とご一緒に召し上がりたいそうですよ。いかがなさいますか?」
「一緒に食べたい!ねえ、李豊さん、食事を運ばせて!」
仲間の顔を見てホッとしたのか、小敏は急に元気になって、廊下の3人を招き入れた。
「文維兄上!煜瑾!無事で良かった!」
顔を見るなり小敏は満面の笑みで手を伸ばし、文維に抱き付いた。
「怪我はどうです?まだ痛みますか?」
文維に言われて、小敏は元気な笑顔で首を横に振った。
「兄上が持たせたくれた、我が家の痛み止めがあるから、さっきお医者様にお渡ししておいた。あとで薬を塗って、包帯を交換してくれるそうだからね」
心配そうに煜瑾も小敏の手を握った。
「ありがとう。ボクが幽霊を見たいと言ったせいで、みんなに迷惑を掛けてゴメンね」
そして、隠れるように後ろにいた玄紀に気付いた小敏が、覗き込む。
「玄紀、昨日はありがとう。重かったでしょう?」
「ううん」
気まずそうにモジモジしている玄紀に、文維が近寄り、そっと背中を押して小敏の傍に行かせた。
「玄紀公子はね、ボクが怪我をして歩けないからって、負ぶってここまで帰ってきてくれたんだよ」
小敏は嬉しそうに言うが、玄紀は情けない顔をしていた。かと思うと急に、ギュッと小敏に抱き付いた。
「ごめんなさい、小敏兄様!私が手を引っ張ったせいで、兄様に怪我をさせてしまって…」
「玄紀…」
そのことをずっと気に病んでいたのか、玄紀はギュッと唇を噛み、悔しそうな顔をして小敏に縋りついている。
そんな幼馴染の様子に、煜瑾はそっと近寄り小敏と共に背中をさすってやる。
「あの白い影を確かめに行こうと言い出したのは私です。そのせいで小敏が怪我をしたのですから、私も謝らねばなりません」
「違うよ、ボクが!」
反駁しようとした小敏の目を見て、文維は黙って首を横に振った。それを見た小敏はそれ以上何も言わず、3人はギュッと抱き合った。
「みんなこうして無事で良かった」
小敏はそう言って、文維を見上げ、ニコリと微笑み合った。
「さあ、朝ごはんですよ」
李豊が先頭に立ち、侍女たちが公子たちの食膳を運んできた。
「食事が済んだら、それぞれ蘇老師の課題が残っていますよ」
文維に言われ、3人は顔を見合わせた。げんなりした表情をしていたが、すぐに目を合わせるとクスクスと楽しそうに笑う。
「さあ、早くいただきましょう」
小敏は寝台の上に食膳を置かれ、侍女が付き添って食事を始める。他の3人は、寝台から少し離れた場所に食卓を用意してもらい、全員が顔を見ながら、いつも通りに楽しく朝食を始めた。
小敏は、森の中を1人で走っていた。
振り返ると後ろは真っ暗なのだが、誰かが…、「何か」が追って来るのが分かる。
必死で逃げようと前を見るが、前方もまた暗闇で自分がどこへ向かっているのか分からない。
(助けて!父上、助けて下さい!)
必死で父将軍の顔を思い浮かべて救いを求める小敏だったが、この祈るような気持ちは将軍には届かないようだ。
何も見えないし、何も聞こえないのだが、小敏を追う「何か」は、すぐそこまで迫っているのが何故か分かる。
それが恐くて、怖くて、小敏は必死で逃げるのだが、もう「何か」は小敏の腕を捕えようとしている。
(イヤ~!誰か、助けて!)
その瞬間、小敏は「何か」に手首を掴まれた。
「いやあ~っ」
悲痛な悲鳴が響いたが、それが自分の声なのか、そうでないのか小敏には分からなかった。
痛いほど握られた手首を引かれ、小敏は「何か」に後ろから抱きかかえられた。
それは期待するような、小敏を守るためではなく、もっと邪悪な意図を感じさせた。
「放せ!放せよ!」
逃れようと小敏は力の限りに暴れるが、背後の邪悪な存在はビクともしない。
「イヤだっ!」
次の瞬間、小敏には信じられないことが起きた。背後から伸びた手が、小敏の帯に掛かり、一瞬の内に衣類が引きはがされたのだ。
「やめろ~!」
素肌に冷ややかな魔物の手が触れ、小敏はゾッとして大声で泣き叫んだ。
「ヤダ、やめてっ~!」
これほどの大声で助けを求めているのに、誰一人助けには来てくれない。このまま自分は殺されてしまうのかと、小敏は絶望し、ただ悲鳴を上げ、泣くことしか出来なかった。
そして、小敏は自分の身体が引き裂かれた気がして、その苦痛に意識を失った。
「羽家の公子?」
目が覚めると、そこには世話係の李豊が心配そうに見つめていた。外はもう明るい。いつもと変わらぬ朝が来たのだと分かった。
「随分と、うなされておいででしたよ、羽家の公子」
そう言うと李豊は手にした布で、小敏の額の汗を拭った。
「朝でございますよ、羽家の公子。足の痛みはいかがですか?」
「ん…、大丈夫。とても怖い夢を見たんだけど…。なんだか恐いだけでなく、悲しい感じもした」
難しい顔をして、小敏は起き上がった。浮かない顔で俯いてしまう。その様子に、李豊が優しく声を掛けた。
「ご学友がお見舞いをしたいとお申し出ですよ。いかがされます?」
李豊に言われ、小敏が顔を上げると、廊下の御簾の向こうから3人が様子を窺っているのが見えた。
「公子がたは、こちらに朝食を運んで、羽家の公子とご一緒に召し上がりたいそうですよ。いかがなさいますか?」
「一緒に食べたい!ねえ、李豊さん、食事を運ばせて!」
仲間の顔を見てホッとしたのか、小敏は急に元気になって、廊下の3人を招き入れた。
「文維兄上!煜瑾!無事で良かった!」
顔を見るなり小敏は満面の笑みで手を伸ばし、文維に抱き付いた。
「怪我はどうです?まだ痛みますか?」
文維に言われて、小敏は元気な笑顔で首を横に振った。
「兄上が持たせたくれた、我が家の痛み止めがあるから、さっきお医者様にお渡ししておいた。あとで薬を塗って、包帯を交換してくれるそうだからね」
心配そうに煜瑾も小敏の手を握った。
「ありがとう。ボクが幽霊を見たいと言ったせいで、みんなに迷惑を掛けてゴメンね」
そして、隠れるように後ろにいた玄紀に気付いた小敏が、覗き込む。
「玄紀、昨日はありがとう。重かったでしょう?」
「ううん」
気まずそうにモジモジしている玄紀に、文維が近寄り、そっと背中を押して小敏の傍に行かせた。
「玄紀公子はね、ボクが怪我をして歩けないからって、負ぶってここまで帰ってきてくれたんだよ」
小敏は嬉しそうに言うが、玄紀は情けない顔をしていた。かと思うと急に、ギュッと小敏に抱き付いた。
「ごめんなさい、小敏兄様!私が手を引っ張ったせいで、兄様に怪我をさせてしまって…」
「玄紀…」
そのことをずっと気に病んでいたのか、玄紀はギュッと唇を噛み、悔しそうな顔をして小敏に縋りついている。
そんな幼馴染の様子に、煜瑾はそっと近寄り小敏と共に背中をさすってやる。
「あの白い影を確かめに行こうと言い出したのは私です。そのせいで小敏が怪我をしたのですから、私も謝らねばなりません」
「違うよ、ボクが!」
反駁しようとした小敏の目を見て、文維は黙って首を横に振った。それを見た小敏はそれ以上何も言わず、3人はギュッと抱き合った。
「みんなこうして無事で良かった」
小敏はそう言って、文維を見上げ、ニコリと微笑み合った。
「さあ、朝ごはんですよ」
李豊が先頭に立ち、侍女たちが公子たちの食膳を運んできた。
「食事が済んだら、それぞれ蘇老師の課題が残っていますよ」
文維に言われ、3人は顔を見合わせた。げんなりした表情をしていたが、すぐに目を合わせるとクスクスと楽しそうに笑う。
「さあ、早くいただきましょう」
小敏は寝台の上に食膳を置かれ、侍女が付き添って食事を始める。他の3人は、寝台から少し離れた場所に食卓を用意してもらい、全員が顔を見ながら、いつも通りに楽しく朝食を始めた。