包文維&唐煜瑾エンディング ※【オマケ】ストーリー付
小敏たちとはぐれたと気付き、思わず文維も足を止め、震える煜瑾をギュッと抱き締める。
「いいですか、煜瑾。この先、一言たりとも言葉を発してはなりませんよ」
「…は…ぃ」
返事をしかけて、慌てて煜瑾は口を閉じて大きく頷いた。
煜瑾を片腕に抱き留めながら、文維は慎重に歩みを進める。周囲の様子を窺うが、小敏たちの足音は聞こえない。早くも馬場へ出たのだろうか。いや、そうは思えない。
深刻な表情の文維は、やがて足を止めた。
深刻な表情で考え込んでいた包文維だったが、唐煜瑾を抱きかかえたのとは反対の方の手を胸中に差し入れ、何かを取り出した。
(手巾?)
声を出すなと言われていた煜瑾は、何も言わずに文維のすることをジッと見ている。
文維は取り出した白い手巾を、手近な枝に器用に片手で結び付けた。
そして煜瑾を励ますように見つめ、優しく微笑んで頷いた。
2人はゆっくりと前へと歩き出した。
暗い道を、体を寄せ合って歩くと、相手の心臓の鼓動が大きく聞こえる。特に文維の胸に抱かれた煜瑾の耳には、文維の冷静な心音が頼もしく思えた。
(私の心音が大きすぎて、文維公子に臆病だと笑われないだろうか)
そんなことを考えると、余計に煜瑾の鼓動が早くなる。
ただ静かに、2人は寄り添って歩いた。
しかし、先ほどと同様にいくら歩いても馬場には出られない。
そして急に文維が足を止めた。
(?)
どうしたのかと声を掛けようとして、慌てて煜瑾は唇を噛んだ。決して口を開いてはいけないと言われたのを思い出したのだ。
立ち止った文維が指を伸ばすのを、煜瑾は目で追った。
(え?)
文維が触れたのは、枝に結ばれた白い手巾だった。
驚いた煜瑾が背の高い文維の顔を見上げると、文維は見たことが無いほど険しい顔をしていた。
それは間違いなく、先ほど文維が枝に結んだ手巾だった。
確かに真っ直ぐに一本道を歩いていたはずだった。それなのに、なぜ元の場所に戻って来るのか煜瑾には分からない。
暫く考えこんで動かなくなった文維だったが、ハッと気が付いて煜瑾の方を見て慌てて優しく微笑んだ。言葉にこそ出さなかったが、文維のその笑顔は「大丈夫ですよ、煜瑾」と言っているように見えた。
思わず煜瑾もぎこちなく笑い返した。
やがて、文維はフウ~と息を整えると、眼を瞑り、何か呪文のようなものをブツブツと唱え始めた。
それを不思議そうに見ていた煜瑾だったが、次に文維の顔が迫ってくると驚いて動けなくなった。
文維はブツブツ言いながら煜瑾に迫り、その白い額にフッと唇を押し当てた。
(!)
何が起きたか分からず、身を堅くした煜瑾だったが、真剣な文維の眼差しに何も言えなかった。
「さあ、もうこれで話しても大丈夫ですよ」
「え?」
いつもの優しく穏やかな笑顔を浮かべる文維に、煜瑾はホッとして気が緩み、文維の胸に縋りつくとギュッと服を握り、そのまま静かにその胸で泣いた。
「っう…うっ…」
怖くて仕方がなかったはずなのに、必死で我慢していた優しい煜瑾が健気で、泣いている間中、文維は何も言わずに温かな掌でその背中を撫でていた。
「怖くない。私がいれば、何も怖くないからね」
2人はしばらくそのままでいた。
やがて煜瑾も泣き疲れたのか大人しくなり、落ち着いたのを確かめて、文維は煜瑾を抱いたまま地面に腰を下ろした。
「疲れたでしょう?少し休みましょう、煜瑾侯弟」
泣き疲れ、ぼんやりと文維の胸に身を任せていた煜瑾が、ふと気付いて寂し気に言った。
「先ほどみたいに、呼んでくれたらいいのに」
「はい?」
思わぬ一言に、文維は半笑いで聞き返す。
「先ほどは、侯弟などと言わず、煜瑾と呼んでくれました」
「!…そ、それは失礼いたしました」
高貴な煜瑾侯弟を呼び捨てにするなどという無礼を指摘され、文維は慌てて恐縮した。
「違います。煜瑾、と呼んで欲しいのですっ」
懇願や要求と言うよりも、ちょっと拗ねたような甘えた言い方の煜瑾に、文維は戸惑いを隠せない。
「ええっと…」
困った様子の文維に、煜瑾はちょっと俯いて顔を背けた。
「私も、今から文維と呼びます。いいですね」
「ええ、それは構いませんが…」
言い分はかなりの上から目線だが、口調が可愛らしくて文維は思わず笑ってしまう。
2人はしばらくそのまま抱き合って休んでいたが、ふと煜瑾が口を開いた。
「あの…文維。先ほどの…あれは、なんですか?」
「あれ、と申しますと?」
「…つ、つまり…あの、私の額に…」
言いにくそうな煜瑾の言葉の意味を推し量り、文維は頷いた。
「実は、恭王殿下は一時『呪術』や『巫術』に興味を持たれましてね。たくさんの書籍や資料を買い集められました。なので、恭王府に伺った時に全て読ませていただいたのです」
何でもないことのように文維は言ったが、常日頃の私塾での勉強量といい、今回の夏休みの宿題といい、あれだけの物をこなしてなお、さらに呪術や巫術の勉強をする余裕があるのかと、煜瑾は驚いた。
「あれは、たまたま覚えていた魔よけの呪文です」
「魔よけ?」
「まあ、気休めですが…」
相変わらず穏やかな笑みで文維はそう言うが、もっと自慢してもいい事だと煜瑾は思った。
そしてハッと気づいて煜瑾は急いで文維に確かめる。
「文維は?」
「え?」
「私に魔よけの呪文を掛けてくれたけれど、文維は自分で自分に呪文を掛けられるのですか?」
そして文維は、優しい貴公子が自分のことを心から心配してくれているのだと気付いた。
「大丈夫。煜瑾…が無事なら、それでいいんですよ」
優しく慈愛に満ちた文維の眼差しに、煜瑾は胸の奥がじんわりと熱くなり、急にドキドキとしてどうしていいか分からなくなった。
そしてそのままの勢いで、良く考えもせずに煜瑾は文維の腕の中から抜け出し、起き上がった。
「煜瑾?」
不思議そうな文維のこめかみのあたりに、白い指先を伸ばすと、煜瑾は文維の頭を両手で引き寄せた。
「文維も、無事でありますように…」
そう願いを込めると、煜瑾は文維を真似て、その額に唇で触れた。
「!」
「いいですか、煜瑾。この先、一言たりとも言葉を発してはなりませんよ」
「…は…ぃ」
返事をしかけて、慌てて煜瑾は口を閉じて大きく頷いた。
煜瑾を片腕に抱き留めながら、文維は慎重に歩みを進める。周囲の様子を窺うが、小敏たちの足音は聞こえない。早くも馬場へ出たのだろうか。いや、そうは思えない。
深刻な表情の文維は、やがて足を止めた。
深刻な表情で考え込んでいた包文維だったが、唐煜瑾を抱きかかえたのとは反対の方の手を胸中に差し入れ、何かを取り出した。
(手巾?)
声を出すなと言われていた煜瑾は、何も言わずに文維のすることをジッと見ている。
文維は取り出した白い手巾を、手近な枝に器用に片手で結び付けた。
そして煜瑾を励ますように見つめ、優しく微笑んで頷いた。
2人はゆっくりと前へと歩き出した。
暗い道を、体を寄せ合って歩くと、相手の心臓の鼓動が大きく聞こえる。特に文維の胸に抱かれた煜瑾の耳には、文維の冷静な心音が頼もしく思えた。
(私の心音が大きすぎて、文維公子に臆病だと笑われないだろうか)
そんなことを考えると、余計に煜瑾の鼓動が早くなる。
ただ静かに、2人は寄り添って歩いた。
しかし、先ほどと同様にいくら歩いても馬場には出られない。
そして急に文維が足を止めた。
(?)
どうしたのかと声を掛けようとして、慌てて煜瑾は唇を噛んだ。決して口を開いてはいけないと言われたのを思い出したのだ。
立ち止った文維が指を伸ばすのを、煜瑾は目で追った。
(え?)
文維が触れたのは、枝に結ばれた白い手巾だった。
驚いた煜瑾が背の高い文維の顔を見上げると、文維は見たことが無いほど険しい顔をしていた。
それは間違いなく、先ほど文維が枝に結んだ手巾だった。
確かに真っ直ぐに一本道を歩いていたはずだった。それなのに、なぜ元の場所に戻って来るのか煜瑾には分からない。
暫く考えこんで動かなくなった文維だったが、ハッと気が付いて煜瑾の方を見て慌てて優しく微笑んだ。言葉にこそ出さなかったが、文維のその笑顔は「大丈夫ですよ、煜瑾」と言っているように見えた。
思わず煜瑾もぎこちなく笑い返した。
やがて、文維はフウ~と息を整えると、眼を瞑り、何か呪文のようなものをブツブツと唱え始めた。
それを不思議そうに見ていた煜瑾だったが、次に文維の顔が迫ってくると驚いて動けなくなった。
文維はブツブツ言いながら煜瑾に迫り、その白い額にフッと唇を押し当てた。
(!)
何が起きたか分からず、身を堅くした煜瑾だったが、真剣な文維の眼差しに何も言えなかった。
「さあ、もうこれで話しても大丈夫ですよ」
「え?」
いつもの優しく穏やかな笑顔を浮かべる文維に、煜瑾はホッとして気が緩み、文維の胸に縋りつくとギュッと服を握り、そのまま静かにその胸で泣いた。
「っう…うっ…」
怖くて仕方がなかったはずなのに、必死で我慢していた優しい煜瑾が健気で、泣いている間中、文維は何も言わずに温かな掌でその背中を撫でていた。
「怖くない。私がいれば、何も怖くないからね」
2人はしばらくそのままでいた。
やがて煜瑾も泣き疲れたのか大人しくなり、落ち着いたのを確かめて、文維は煜瑾を抱いたまま地面に腰を下ろした。
「疲れたでしょう?少し休みましょう、煜瑾侯弟」
泣き疲れ、ぼんやりと文維の胸に身を任せていた煜瑾が、ふと気付いて寂し気に言った。
「先ほどみたいに、呼んでくれたらいいのに」
「はい?」
思わぬ一言に、文維は半笑いで聞き返す。
「先ほどは、侯弟などと言わず、煜瑾と呼んでくれました」
「!…そ、それは失礼いたしました」
高貴な煜瑾侯弟を呼び捨てにするなどという無礼を指摘され、文維は慌てて恐縮した。
「違います。煜瑾、と呼んで欲しいのですっ」
懇願や要求と言うよりも、ちょっと拗ねたような甘えた言い方の煜瑾に、文維は戸惑いを隠せない。
「ええっと…」
困った様子の文維に、煜瑾はちょっと俯いて顔を背けた。
「私も、今から文維と呼びます。いいですね」
「ええ、それは構いませんが…」
言い分はかなりの上から目線だが、口調が可愛らしくて文維は思わず笑ってしまう。
2人はしばらくそのまま抱き合って休んでいたが、ふと煜瑾が口を開いた。
「あの…文維。先ほどの…あれは、なんですか?」
「あれ、と申しますと?」
「…つ、つまり…あの、私の額に…」
言いにくそうな煜瑾の言葉の意味を推し量り、文維は頷いた。
「実は、恭王殿下は一時『呪術』や『巫術』に興味を持たれましてね。たくさんの書籍や資料を買い集められました。なので、恭王府に伺った時に全て読ませていただいたのです」
何でもないことのように文維は言ったが、常日頃の私塾での勉強量といい、今回の夏休みの宿題といい、あれだけの物をこなしてなお、さらに呪術や巫術の勉強をする余裕があるのかと、煜瑾は驚いた。
「あれは、たまたま覚えていた魔よけの呪文です」
「魔よけ?」
「まあ、気休めですが…」
相変わらず穏やかな笑みで文維はそう言うが、もっと自慢してもいい事だと煜瑾は思った。
そしてハッと気づいて煜瑾は急いで文維に確かめる。
「文維は?」
「え?」
「私に魔よけの呪文を掛けてくれたけれど、文維は自分で自分に呪文を掛けられるのですか?」
そして文維は、優しい貴公子が自分のことを心から心配してくれているのだと気付いた。
「大丈夫。煜瑾…が無事なら、それでいいんですよ」
優しく慈愛に満ちた文維の眼差しに、煜瑾は胸の奥がじんわりと熱くなり、急にドキドキとしてどうしていいか分からなくなった。
そしてそのままの勢いで、良く考えもせずに煜瑾は文維の腕の中から抜け出し、起き上がった。
「煜瑾?」
不思議そうな文維のこめかみのあたりに、白い指先を伸ばすと、煜瑾は文維の頭を両手で引き寄せた。
「文維も、無事でありますように…」
そう願いを込めると、煜瑾は文維を真似て、その額に唇で触れた。
「!」
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