上海の高級ホテルの最上階ラウンジバーで、主人公気分でイケメン紳士に口説かれる体験が出来ます。多分…。
【夢小説】一夜相遇 ~ある夜の出来事~
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「干杯!」
徐雷が言うと、向かいに座るオトコは目の高さにグラスを持ち上げ、一瞬見つめ合い、そしてロゼのスパークリングワインを飲み干した。
ホテルの最上階バーで出会い、食事に誘われた徐雷だったが、まさかその行先が同じホテルの下にある広東料理レストランだとは思わなかった。
先ほど徐雷に地元の人間かと聞いたことといい、このオトコはここに宿泊する旅行者なのかもしれないと思う。
ならば…ホテルの客室でコト足りる。
そう思い、徐雷は思わず口元が緩む。
「怎么了(どうかした)?」
徐雷の表情に、オトコが興味深そうに徐雷の顔を覗き込んだ。
「不,没什么(いや、何でもない)」
オトコが好みそうな上目遣いで、含み笑いをしながら徐雷は言った。
「我不知道你的名字(あなたの名前も知らないんだけど)」
「哦,是的(あ、そうか)」
やっと思い出したような振りをして、オトコは正面から自信ありげな表情で徐雷を見据えて名前を告げた。
「我是王吉雲(私は王吉雲)。你呢(君は)?」
「我是徐雷。请多关照(私は徐雷、よろしく)」
そう言って徐雷は少しの媚びを含んだ笑みを浮かべた。その意味を十分に理解している様子の王吉雲は、フッと笑って目を逸らした。
テーブルには見た目も美しい料理が並んだ。エビのマヨネーズ和え、セロリとイカの炒め物、豚肉の角煮がメインで、そこに数品の点心と香港風の焼きソバを注文していた。
オトコの食べ方は品があったが、食欲は旺盛で、互いにいくつかの質問をしてはポツリポツリと答えるものの、ほとんどはにこやかに料理を口に運んだ。
相手の食べる様子を見て、視線で会話するような食事は、むしろ言葉の多い関係よりも、より早く距離を縮めるような気がする。
徐雷は、食欲旺盛なオトコは大好きだ。食欲は性欲にも通じて、ベッドの中の貪欲さも期待できる。
しかも、王吉雲の上品で丁寧な食事マナーは、優しい愛撫を思わせて徐雷の胸が高鳴る。
激しい行為は嫌いじゃない、と徐雷は思う。ただ、それは夢中になれるということで、けっして暴力を求めているのでないのだ。優しく愛され、高められ、その上で激しく突き上げられ、求められるのが徐雷の好みだった。
果たして、この王吉雲は?徐雷を満足させることは出来るのだろうか。
食事も終盤に近付き、徐雷の期待が高まる。
「这之后想做什么?(この後、どうする)?」
デザートのフルーツ杏仁豆腐を食べながら、徐雷は訊いてみた。 ちょっと誘惑的に見えるように、口にくわえたスプーンをゆっくりと舐めながら、ほんのわずかに舌を覗かせ、物欲しげな視線で王吉雲を見詰める。
「和我一起来吗(一緒に来るかい)?」
「……」
てっきりホテルの部屋に行くのだと思っていた徐雷だったが、まさかホテルを出て南京東路を東へ、夜景で有名な外灘に向かって歩くことになろうとは思いも寄らなかった。
レストランでの支払いを、ホテルの宿泊カードで部屋に付けていたのを見て、王吉雲がこのホテルに宿泊しているのは間違いない。なのに、部屋に行かずに迷うことなく南京東路に出たことで徐雷は混乱している。
王吉雲の考えていることが分からない。
ホテルのバーにいた頃は薄暮の上海も、今は空が暗い。それでも賑やかな繁華街である南京東路は昼のように明るいのだ。
その中を並んで歩いた。
どちらかというと小柄で華奢な徐雷の隣で、スーツの似合うセクシーな体つきと精悍な顔立ちの王吉雲は人目を引く。
これではすっかり引き立て役だな、と徐雷は苦笑する。すると、隣で似たような笑い声が漏れ聞こえた。
「怎么了?(なに?)」
徐雷が隣のイケメンを振り仰ぐと、王吉雲は大人の男を感じさせる苦み走った笑みを浮かべていた。
「和美人一起散步很有趣(美人と一緒に歩くと楽しいね)。每个人都看起来很羡慕我(みんなが私を羨ましそうに見ているよ)」
う~ん、と徐雷は眉を寄せる。
「他们在看的是你(見られているのはあなたでしょう)」
呆れたように言って、徐雷はふいと顔を背けた。
「哦、 生气的(あれ、怒った)?」
ふざけた様子で王吉雲が徐雷の顔を覗き込む。その仕草にドキリとして、徐雷は少し頬を染める。
そんな徐雷に、王吉雲は優しく微笑んだ。その笑顔にも徐雷は心を掴まれる。本気になりそうな自分に、ちょっぴり切なくなる。
こんな出会いで、互いの名前しか知らない関係で、何かが始まるはずが無かった。あるとすれば、たった一夜の快楽だけ。それさえも今は贅沢な望みかもしれない。
黄浦江を臨み、ライトアップされた歴史的建造物を横目に見ながら、徐雷と王吉雲はしばらく黙って観光遊歩道を歩いた。周囲は記念撮影をする観光客で一杯だ。それを避けるように、2人は川沿いの手すりの方へ逃げた。
「真是美丽的景色啊(美しい景色だ)」
王吉雲は立ち止り、黄浦江の向こうの高層ビル群のイルミネーションを見つめながらそう言った。
徐雷は見慣れた景色を前に、何も言うことが無かった。
「…真漂亮啊(キレイだ)」
繰り返す王吉雲に、不思議に思った徐雷は振り仰ぐ。すると景色でなく徐雷を見詰める王吉雲と目が合った。
「你是真漂亮(君はキレイだ)」
熱のこもった真摯な眼差しに、徐雷は嬉しいような、切ないような複雑な気持ちだった。
「这是上海的一个美好的回忆(上海でのいい思い出になったよ)」
王吉雲が、これ以上の思い出を作る気が無いのだと徐雷は正直ガッカリした。
だが次の瞬間、徐雷は愕然とした。
「下次在北京见面吧(続きは北京で、ね)」
「啊!那么…(あ、そういえば…)」
今日の商談は北京の会社が上海の中小企業を買収した件だった。
上海の会社相手だからと、北京の大企業が交渉役に上海で開業する徐雷を臨時に雇ってくれたのだ。徐雷の細やかな配慮で、上海側の意を汲みながら、北京サイドも納得のいく契約だった。
北京サイドからはベテランの顧問弁護士とお飾りの役員が来ていただけだが、確かに契約書の社長欄にあった名前が…。
「王吉雲!」
驚いた徐雷の表情がよほど面白かったのか、王吉雲社長は声を上げて笑った。
「我在北京等你(北京でまってるよ)」
そう言われて、キョトンとしていた徐雷も笑いが込み上げてきた。来週早々に北京へ行くことになっているのだ。再会は目の前だった。
「在北京让你满足我(北京では満足させてくれ)」
急に耳元で囁く王吉雲社長に、徐雷弁護士は真っ赤になって突き放し、その後で目と目が合うと互いに吹き出して笑い出した。
この恋は、北京から始まることになるようだ。
~ようやく、おしまい~
徐雷が言うと、向かいに座るオトコは目の高さにグラスを持ち上げ、一瞬見つめ合い、そしてロゼのスパークリングワインを飲み干した。
ホテルの最上階バーで出会い、食事に誘われた徐雷だったが、まさかその行先が同じホテルの下にある広東料理レストランだとは思わなかった。
先ほど徐雷に地元の人間かと聞いたことといい、このオトコはここに宿泊する旅行者なのかもしれないと思う。
ならば…ホテルの客室でコト足りる。
そう思い、徐雷は思わず口元が緩む。
「怎么了(どうかした)?」
徐雷の表情に、オトコが興味深そうに徐雷の顔を覗き込んだ。
「不,没什么(いや、何でもない)」
オトコが好みそうな上目遣いで、含み笑いをしながら徐雷は言った。
「我不知道你的名字(あなたの名前も知らないんだけど)」
「哦,是的(あ、そうか)」
やっと思い出したような振りをして、オトコは正面から自信ありげな表情で徐雷を見据えて名前を告げた。
「我是王吉雲(私は王吉雲)。你呢(君は)?」
「我是徐雷。请多关照(私は徐雷、よろしく)」
そう言って徐雷は少しの媚びを含んだ笑みを浮かべた。その意味を十分に理解している様子の王吉雲は、フッと笑って目を逸らした。
テーブルには見た目も美しい料理が並んだ。エビのマヨネーズ和え、セロリとイカの炒め物、豚肉の角煮がメインで、そこに数品の点心と香港風の焼きソバを注文していた。
オトコの食べ方は品があったが、食欲は旺盛で、互いにいくつかの質問をしてはポツリポツリと答えるものの、ほとんどはにこやかに料理を口に運んだ。
相手の食べる様子を見て、視線で会話するような食事は、むしろ言葉の多い関係よりも、より早く距離を縮めるような気がする。
徐雷は、食欲旺盛なオトコは大好きだ。食欲は性欲にも通じて、ベッドの中の貪欲さも期待できる。
しかも、王吉雲の上品で丁寧な食事マナーは、優しい愛撫を思わせて徐雷の胸が高鳴る。
激しい行為は嫌いじゃない、と徐雷は思う。ただ、それは夢中になれるということで、けっして暴力を求めているのでないのだ。優しく愛され、高められ、その上で激しく突き上げられ、求められるのが徐雷の好みだった。
果たして、この王吉雲は?徐雷を満足させることは出来るのだろうか。
食事も終盤に近付き、徐雷の期待が高まる。
「这之后想做什么?(この後、どうする)?」
デザートのフルーツ杏仁豆腐を食べながら、徐雷は訊いてみた。 ちょっと誘惑的に見えるように、口にくわえたスプーンをゆっくりと舐めながら、ほんのわずかに舌を覗かせ、物欲しげな視線で王吉雲を見詰める。
「和我一起来吗(一緒に来るかい)?」
「……」
てっきりホテルの部屋に行くのだと思っていた徐雷だったが、まさかホテルを出て南京東路を東へ、夜景で有名な外灘に向かって歩くことになろうとは思いも寄らなかった。
レストランでの支払いを、ホテルの宿泊カードで部屋に付けていたのを見て、王吉雲がこのホテルに宿泊しているのは間違いない。なのに、部屋に行かずに迷うことなく南京東路に出たことで徐雷は混乱している。
王吉雲の考えていることが分からない。
ホテルのバーにいた頃は薄暮の上海も、今は空が暗い。それでも賑やかな繁華街である南京東路は昼のように明るいのだ。
その中を並んで歩いた。
どちらかというと小柄で華奢な徐雷の隣で、スーツの似合うセクシーな体つきと精悍な顔立ちの王吉雲は人目を引く。
これではすっかり引き立て役だな、と徐雷は苦笑する。すると、隣で似たような笑い声が漏れ聞こえた。
「怎么了?(なに?)」
徐雷が隣のイケメンを振り仰ぐと、王吉雲は大人の男を感じさせる苦み走った笑みを浮かべていた。
「和美人一起散步很有趣(美人と一緒に歩くと楽しいね)。每个人都看起来很羡慕我(みんなが私を羨ましそうに見ているよ)」
う~ん、と徐雷は眉を寄せる。
「他们在看的是你(見られているのはあなたでしょう)」
呆れたように言って、徐雷はふいと顔を背けた。
「哦、 生气的(あれ、怒った)?」
ふざけた様子で王吉雲が徐雷の顔を覗き込む。その仕草にドキリとして、徐雷は少し頬を染める。
そんな徐雷に、王吉雲は優しく微笑んだ。その笑顔にも徐雷は心を掴まれる。本気になりそうな自分に、ちょっぴり切なくなる。
こんな出会いで、互いの名前しか知らない関係で、何かが始まるはずが無かった。あるとすれば、たった一夜の快楽だけ。それさえも今は贅沢な望みかもしれない。
黄浦江を臨み、ライトアップされた歴史的建造物を横目に見ながら、徐雷と王吉雲はしばらく黙って観光遊歩道を歩いた。周囲は記念撮影をする観光客で一杯だ。それを避けるように、2人は川沿いの手すりの方へ逃げた。
「真是美丽的景色啊(美しい景色だ)」
王吉雲は立ち止り、黄浦江の向こうの高層ビル群のイルミネーションを見つめながらそう言った。
徐雷は見慣れた景色を前に、何も言うことが無かった。
「…真漂亮啊(キレイだ)」
繰り返す王吉雲に、不思議に思った徐雷は振り仰ぐ。すると景色でなく徐雷を見詰める王吉雲と目が合った。
「你是真漂亮(君はキレイだ)」
熱のこもった真摯な眼差しに、徐雷は嬉しいような、切ないような複雑な気持ちだった。
「这是上海的一个美好的回忆(上海でのいい思い出になったよ)」
王吉雲が、これ以上の思い出を作る気が無いのだと徐雷は正直ガッカリした。
だが次の瞬間、徐雷は愕然とした。
「下次在北京见面吧(続きは北京で、ね)」
「啊!那么…(あ、そういえば…)」
今日の商談は北京の会社が上海の中小企業を買収した件だった。
上海の会社相手だからと、北京の大企業が交渉役に上海で開業する徐雷を臨時に雇ってくれたのだ。徐雷の細やかな配慮で、上海側の意を汲みながら、北京サイドも納得のいく契約だった。
北京サイドからはベテランの顧問弁護士とお飾りの役員が来ていただけだが、確かに契約書の社長欄にあった名前が…。
「王吉雲!」
驚いた徐雷の表情がよほど面白かったのか、王吉雲社長は声を上げて笑った。
「我在北京等你(北京でまってるよ)」
そう言われて、キョトンとしていた徐雷も笑いが込み上げてきた。来週早々に北京へ行くことになっているのだ。再会は目の前だった。
「在北京让你满足我(北京では満足させてくれ)」
急に耳元で囁く王吉雲社長に、徐雷弁護士は真っ赤になって突き放し、その後で目と目が合うと互いに吹き出して笑い出した。
この恋は、北京から始まることになるようだ。
~ようやく、おしまい~
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