ひと夏の経験
時刻は、午後3時。
パーティーも終了間近だった。
パーティーへの参加が目的では無かった三条氏は、石一海を伴って会場を後にすることになった。
三条氏は、パーティーの受付に荷物を預けていて、これから宿泊先のホテルにチェックインをしに行くとのことだった。
「ホテルは、どちらデスカ?」
宴会場から1階のメインエントランスに降りて、一海は訊ねた。エントラスを出ればすぐにタクシー乗り場だった。
「ペニンシュラ」
外灘の最高級ラグジュアリーホテルの名前が出たことに、一海は少し意外だった。香港や北京で有名なこのホテルチェーンは、上海でもそのクオリティーの高さは知られているが、上海観光を目的とする宿泊先としては不便な立地であるし、ビジネス目的としては宿泊費が高額過ぎる。
「請去半島酒店(ペニンシュラホテルまで)」
石一海は、タクシーの後部座席に三条氏を座らせ、自分は運転席の隣に乗車すると、行先を告げた。
「三条サマは、上海は初めてではナイのデスね?」
初めての上海を楽しむなら、もっと他のホテルを選ぶだろうと一海は思った。ペニンシュラホテル上海は、上海を楽しむためのホテルでは無く、優雅なホテルライフを堪能するための本物のラグジュアリーホテルなのだ。
「わかるかい?」
優しく穏やかな声で三条氏が答えた。
「以前に来たのは10年近く前だ。1年来なければすっかり変わっていると言われる上海で、10年も前となれば初めても同じかもしれないけどね」
確かに10年前と言えば、万博があり、上海にとっては大きな転換期だった。あちこちで工事があり、伝統的な建物が破壊されるという社会問題もあったが、地下鉄も広がり、一気に近代化が進んだことも確かだ。それでいて、まだディズニーランドもなく、発展途中という猥雑さと勢いが混沌とした「上海らしさ」があり、未来への希望と活力があった、いい時代だったとも言える。
石一海は、まだ上海の下町の中学生だった。国際都市・上海に生まれて、外国人など珍しいとは思ったことも無かったが、初めての万博に、さすがに多くの外国人が訪れて驚いた覚えがある。
「上海エキスポで、来たのデスか?10年前?」
あの頃はまだ、ペニンシュラホテルは建設前だった。周辺の利便性よりも、初めて見るホテルが珍しくて、宿泊先に決めたのかもしれない。一海はそう思いついて、三条氏の好奇心に親近感を感じた。
「ああ。上海万博にも行った」
「デハ、市内観光はドウされマスか?」
確かに、街は変わった。けれど昔ながらの観光地である豫園や玉仏寺などは変わらずにそこにある。
「そうだな、上海で一番高いビルには行っておいた方がいいかな」
品よく笑いながら、三条氏は言った。
陸家嘴地区は、今や上海の名物ともなった高層ビル群で知られた地域である。特徴的な東方明珠に始まり、次々と競うように高いビルが建設され、現在は上海タワーとも言われる上海中心大廈が最も高いビルだ。その118階には展望フロアがあり、上海を眼下に一望することが出来る。
「ハイ。手配しマス。雑技やナイトクルーズなどは?」
一海は、必死で先輩の百瀬が提案しそうなことを思い出しながら言った。
「外灘の夜景は、ホテルの部屋から見えるんだ。雑技も、今回はいいよ」
タクシーはホテルを出て、茂名路(マオミン・ロード)を北に向かい、北京路(ベイジン・ロード)に入る。ここを真っ直ぐ東に向かえばペニンシュラホテルだった。
「オ食事は?」
ほんの少し緊張気味に一海は尋ねる。日本人好みの食事の手配は、一海は苦手なのだ。日本人は、最高級の中華料理を求めるかと思えば、日本より高いと文句を言い、地元のB級グルメを体験したいと言ったかと思えば、不潔だと文句を言い、なるべく平均的な日本人の満足を得るような、雰囲気と価格と味を保証するレストランをいくつも知っていなければ、目の前のクライアントを納得させるのは難しいのだ。
同じ日本人の百瀬たちなら、その「感覚」というのは肌で知っているので、自分の好みがクライアントを満足させることが可能だが、一海はなかなか好みを把握できずに戸惑うことが多い。
「今の季節、上海蟹は食べられるのかな?」
三条氏は、楽しそうに口を開いた。
今は9月の最終週。上海蟹は、10日ほど前に解禁になったばかりだ。
一海も三条氏の問いに、みるみる顔が明るくなる。特にリクエストが無ければ、自分から上海蟹を薦めようと思っていた。
「ハイ!先日解禁になったばかりデス」
そう言いながら、すでに一海は幾つかの上海蟹を食べられる、日本人向きのレストランを頭の中で数え始めていた。
「1人で食べるのはつまらないからね。できれば、君も一緒にテーブルについて欲しいな」
紳士らしい悠然とした態度で、さらりと三条氏は石一海を夕食に誘ってきた。
「私みたいな外国人の中年なんかとじゃ、君には気の毒だけど」
「とんでもナイ!」
自虐的なセリフも、まったくと言って良いほど当てはまらない三条氏が言うと、逆にユーモアさえ感じさせた。
確かに、三条氏は石一海よりも随分と年上の額田社長よりもさらに年上のはずだが、美魔女の名を欲しいままにする年齢不詳の社長同様、三条氏もまた、想定される年齢よりも若々しく見えた。
「三条サマこそ、こんなボクが相手で、申し訳ないデス」
一海は、三条のようにユーモアたっぷりというわけにはいかず、まさに自虐的な言葉に自分で傷ついていた。
「こんなボク?それって、どんなボクなのか、興味あるな」
職場で話題の「声優部長」こと加瀬部長に引けを取らないような、低音が優しい、うっとりとするような声で三条氏が言った。
「エ?あ、アノ…、それハ…」
余裕のある大人のセリフが、石一海をの落ち着きを奪ってしまう。
何を、どう返事をすべきか一海が戸惑っているうちに、タクシーはペニンシュラホテルの豪華なエントランスに滑り込んだ。
「いいんだ」
石一海がスマホアプリでタクシー代を支払おうとするのを、先に後部座席から下りて、助手席のドアを開けた三条氏が声を掛けた。
「デモ、今は上海のほとんどのタクシーがアプリ決済で…」
「これでいいだろう」
説明を始めた一海を、大きくキレイな左手で制し、右手で運転手に100元札を渡した。
ドライバーは、料金の3倍以上も受け取りながら、怪訝な顔をして手にした100元札を何度も裏返して確認してから言った。
「没有零銭(小銭がないね)」
お釣りは出せないと言う意味だった。
「I don't need change(釣りはいらない)」
英語が通じたとは思えなかったが、軽く手を振って不要だと伝えると、運転手は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに軽く「謝謝(ありがとう)」と言うと、身軽な動きで車を下りて、後部のトランクから三条氏の荷物を降ろした。
慌てて助手席から下りようとする一海に、三条氏は紳士的に手を差し出した。
「多過ぎマスよ!」
その手を借りながら、困惑と批判の入り混じった感情をうまく表せずに、結局泣きそうな顔をして一海は三条氏に訴えた。
「私は、構わない」
悪戯っぽい笑みを浮かべる三条氏が、大人の余裕とのギャップで堪らなくチャーミングに見える。その魅力に、一海はドキリと心臓が高鳴るのを感じた。
握った手が熱くなるのを感じて、慌てて一海は手を放した。荷物を素敵な制服のベルボーイに預けて、一海と三条氏はペニンシュラホテルに入って行った。
高級ホテルらしい、上品なフレグランスに包まれたロビーを抜け、フロントの手前まで来ると、三条氏は立ち止り、パスポートを取り出し、石一海に手渡した。
「予約はしてある。チェックインをお願いするね」
「ハイ!」
こういう事務的なことは、何度も経験しているので、石一海でも自信を持ってやれる。
「你好!我預訂了房間。这是他的护照…(こんにちは!予約してあります。こちらが彼のパスポートです)」
すらりとしたフロントマンに三条氏のパスポートを提出し、手続きをしようとしていたその時、石一海の背後に影が立ち、あまりにも自然に肩に手を回された。
「さ、三条サマ!」
石一海は170㎝に足りず、一方の三条氏は180㎝を越える長身だった。背後からそっと肩を抱かれると、そのまま三条氏の胸の中に納まりそうになる小柄な印象の一海だった。
「デポジットにカードが必要だろう?」
耳元で囁かれ、その距離の近さと声の良さに一海はドキドキする。
三条氏が出した国際ブラントのクレジットカードは、ゴールドだった。
「Use this card for deposit」
日本人らしからぬ発音の英語で、三条氏はゴールドカードをフロントマンに差し出し、直接英語で彼とやり取りをした。
宿泊カードも記入し、朝食時間やスパやレストランの説明を受け、最後にはフロントマンと三条氏の2人が笑顔を交わすのを、石一海が茫然と見守ることになった。
「で、では、三条サマ。夕食の手配をシマス。お時間は?」
部屋へ向かおうとする三条氏に、ロビーで待機するつもりだった石一海は慌てて声を掛けた。
「石(シー)くん。悪いけど、部屋まで着いて来てもらえないかな。何か不便があった時、中国語での交渉が必要になるかもしれないから」
ちょっと眉を寄せ、肩を竦める仕草は、日本人がやれば滑稽としか見えないはずだった。なのに、背が高く、肩幅が広く逞しく、スマートで、端正な顔立ちの三条氏がすると、驚くほどに石一海には魅力的に見えた。
断る理由も見当たらず、石一海は頷いて三条氏と荷物を持ったベルボーイの後に従った。
パーティーも終了間近だった。
パーティーへの参加が目的では無かった三条氏は、石一海を伴って会場を後にすることになった。
三条氏は、パーティーの受付に荷物を預けていて、これから宿泊先のホテルにチェックインをしに行くとのことだった。
「ホテルは、どちらデスカ?」
宴会場から1階のメインエントランスに降りて、一海は訊ねた。エントラスを出ればすぐにタクシー乗り場だった。
「ペニンシュラ」
外灘の最高級ラグジュアリーホテルの名前が出たことに、一海は少し意外だった。香港や北京で有名なこのホテルチェーンは、上海でもそのクオリティーの高さは知られているが、上海観光を目的とする宿泊先としては不便な立地であるし、ビジネス目的としては宿泊費が高額過ぎる。
「請去半島酒店(ペニンシュラホテルまで)」
石一海は、タクシーの後部座席に三条氏を座らせ、自分は運転席の隣に乗車すると、行先を告げた。
「三条サマは、上海は初めてではナイのデスね?」
初めての上海を楽しむなら、もっと他のホテルを選ぶだろうと一海は思った。ペニンシュラホテル上海は、上海を楽しむためのホテルでは無く、優雅なホテルライフを堪能するための本物のラグジュアリーホテルなのだ。
「わかるかい?」
優しく穏やかな声で三条氏が答えた。
「以前に来たのは10年近く前だ。1年来なければすっかり変わっていると言われる上海で、10年も前となれば初めても同じかもしれないけどね」
確かに10年前と言えば、万博があり、上海にとっては大きな転換期だった。あちこちで工事があり、伝統的な建物が破壊されるという社会問題もあったが、地下鉄も広がり、一気に近代化が進んだことも確かだ。それでいて、まだディズニーランドもなく、発展途中という猥雑さと勢いが混沌とした「上海らしさ」があり、未来への希望と活力があった、いい時代だったとも言える。
石一海は、まだ上海の下町の中学生だった。国際都市・上海に生まれて、外国人など珍しいとは思ったことも無かったが、初めての万博に、さすがに多くの外国人が訪れて驚いた覚えがある。
「上海エキスポで、来たのデスか?10年前?」
あの頃はまだ、ペニンシュラホテルは建設前だった。周辺の利便性よりも、初めて見るホテルが珍しくて、宿泊先に決めたのかもしれない。一海はそう思いついて、三条氏の好奇心に親近感を感じた。
「ああ。上海万博にも行った」
「デハ、市内観光はドウされマスか?」
確かに、街は変わった。けれど昔ながらの観光地である豫園や玉仏寺などは変わらずにそこにある。
「そうだな、上海で一番高いビルには行っておいた方がいいかな」
品よく笑いながら、三条氏は言った。
陸家嘴地区は、今や上海の名物ともなった高層ビル群で知られた地域である。特徴的な東方明珠に始まり、次々と競うように高いビルが建設され、現在は上海タワーとも言われる上海中心大廈が最も高いビルだ。その118階には展望フロアがあり、上海を眼下に一望することが出来る。
「ハイ。手配しマス。雑技やナイトクルーズなどは?」
一海は、必死で先輩の百瀬が提案しそうなことを思い出しながら言った。
「外灘の夜景は、ホテルの部屋から見えるんだ。雑技も、今回はいいよ」
タクシーはホテルを出て、茂名路(マオミン・ロード)を北に向かい、北京路(ベイジン・ロード)に入る。ここを真っ直ぐ東に向かえばペニンシュラホテルだった。
「オ食事は?」
ほんの少し緊張気味に一海は尋ねる。日本人好みの食事の手配は、一海は苦手なのだ。日本人は、最高級の中華料理を求めるかと思えば、日本より高いと文句を言い、地元のB級グルメを体験したいと言ったかと思えば、不潔だと文句を言い、なるべく平均的な日本人の満足を得るような、雰囲気と価格と味を保証するレストランをいくつも知っていなければ、目の前のクライアントを納得させるのは難しいのだ。
同じ日本人の百瀬たちなら、その「感覚」というのは肌で知っているので、自分の好みがクライアントを満足させることが可能だが、一海はなかなか好みを把握できずに戸惑うことが多い。
「今の季節、上海蟹は食べられるのかな?」
三条氏は、楽しそうに口を開いた。
今は9月の最終週。上海蟹は、10日ほど前に解禁になったばかりだ。
一海も三条氏の問いに、みるみる顔が明るくなる。特にリクエストが無ければ、自分から上海蟹を薦めようと思っていた。
「ハイ!先日解禁になったばかりデス」
そう言いながら、すでに一海は幾つかの上海蟹を食べられる、日本人向きのレストランを頭の中で数え始めていた。
「1人で食べるのはつまらないからね。できれば、君も一緒にテーブルについて欲しいな」
紳士らしい悠然とした態度で、さらりと三条氏は石一海を夕食に誘ってきた。
「私みたいな外国人の中年なんかとじゃ、君には気の毒だけど」
「とんでもナイ!」
自虐的なセリフも、まったくと言って良いほど当てはまらない三条氏が言うと、逆にユーモアさえ感じさせた。
確かに、三条氏は石一海よりも随分と年上の額田社長よりもさらに年上のはずだが、美魔女の名を欲しいままにする年齢不詳の社長同様、三条氏もまた、想定される年齢よりも若々しく見えた。
「三条サマこそ、こんなボクが相手で、申し訳ないデス」
一海は、三条のようにユーモアたっぷりというわけにはいかず、まさに自虐的な言葉に自分で傷ついていた。
「こんなボク?それって、どんなボクなのか、興味あるな」
職場で話題の「声優部長」こと加瀬部長に引けを取らないような、低音が優しい、うっとりとするような声で三条氏が言った。
「エ?あ、アノ…、それハ…」
余裕のある大人のセリフが、石一海をの落ち着きを奪ってしまう。
何を、どう返事をすべきか一海が戸惑っているうちに、タクシーはペニンシュラホテルの豪華なエントランスに滑り込んだ。
「いいんだ」
石一海がスマホアプリでタクシー代を支払おうとするのを、先に後部座席から下りて、助手席のドアを開けた三条氏が声を掛けた。
「デモ、今は上海のほとんどのタクシーがアプリ決済で…」
「これでいいだろう」
説明を始めた一海を、大きくキレイな左手で制し、右手で運転手に100元札を渡した。
ドライバーは、料金の3倍以上も受け取りながら、怪訝な顔をして手にした100元札を何度も裏返して確認してから言った。
「没有零銭(小銭がないね)」
お釣りは出せないと言う意味だった。
「I don't need change(釣りはいらない)」
英語が通じたとは思えなかったが、軽く手を振って不要だと伝えると、運転手は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに軽く「謝謝(ありがとう)」と言うと、身軽な動きで車を下りて、後部のトランクから三条氏の荷物を降ろした。
慌てて助手席から下りようとする一海に、三条氏は紳士的に手を差し出した。
「多過ぎマスよ!」
その手を借りながら、困惑と批判の入り混じった感情をうまく表せずに、結局泣きそうな顔をして一海は三条氏に訴えた。
「私は、構わない」
悪戯っぽい笑みを浮かべる三条氏が、大人の余裕とのギャップで堪らなくチャーミングに見える。その魅力に、一海はドキリと心臓が高鳴るのを感じた。
握った手が熱くなるのを感じて、慌てて一海は手を放した。荷物を素敵な制服のベルボーイに預けて、一海と三条氏はペニンシュラホテルに入って行った。
高級ホテルらしい、上品なフレグランスに包まれたロビーを抜け、フロントの手前まで来ると、三条氏は立ち止り、パスポートを取り出し、石一海に手渡した。
「予約はしてある。チェックインをお願いするね」
「ハイ!」
こういう事務的なことは、何度も経験しているので、石一海でも自信を持ってやれる。
「你好!我預訂了房間。这是他的护照…(こんにちは!予約してあります。こちらが彼のパスポートです)」
すらりとしたフロントマンに三条氏のパスポートを提出し、手続きをしようとしていたその時、石一海の背後に影が立ち、あまりにも自然に肩に手を回された。
「さ、三条サマ!」
石一海は170㎝に足りず、一方の三条氏は180㎝を越える長身だった。背後からそっと肩を抱かれると、そのまま三条氏の胸の中に納まりそうになる小柄な印象の一海だった。
「デポジットにカードが必要だろう?」
耳元で囁かれ、その距離の近さと声の良さに一海はドキドキする。
三条氏が出した国際ブラントのクレジットカードは、ゴールドだった。
「Use this card for deposit」
日本人らしからぬ発音の英語で、三条氏はゴールドカードをフロントマンに差し出し、直接英語で彼とやり取りをした。
宿泊カードも記入し、朝食時間やスパやレストランの説明を受け、最後にはフロントマンと三条氏の2人が笑顔を交わすのを、石一海が茫然と見守ることになった。
「で、では、三条サマ。夕食の手配をシマス。お時間は?」
部屋へ向かおうとする三条氏に、ロビーで待機するつもりだった石一海は慌てて声を掛けた。
「石(シー)くん。悪いけど、部屋まで着いて来てもらえないかな。何か不便があった時、中国語での交渉が必要になるかもしれないから」
ちょっと眉を寄せ、肩を竦める仕草は、日本人がやれば滑稽としか見えないはずだった。なのに、背が高く、肩幅が広く逞しく、スマートで、端正な顔立ちの三条氏がすると、驚くほどに石一海には魅力的に見えた。
断る理由も見当たらず、石一海は頷いて三条氏と荷物を持ったベルボーイの後に従った。