甜甜的回億 ~甘い記憶~

 主人が仕事で不在の唐家では、有能な執事の監督の下、使用人たちが専用の食堂で昼食を摂っていた。
 今日は洋食で、バジルソースのパスタを中心に、有機野菜のサラダやチキンソテーが並んでいる。今日は特にカボチャのポタージュが好評だった。どれも、天才的と言われる、唐家お抱えの楊シェフの完璧なレシピだ。

 その時、電話が鳴った。

「私が…」

 立ち上がろうとしたメイドを、茅執事が制した。
 メイドに代わって立ち上がった執事が電話に出ると、それは思いがけず警察からのものだった。

「はい。はい、そうです。唐煜瑾さまは、唐家のご次男でございますが?」

 執事の反応に、使用人用の食堂にいた一同は、不思議そうにそちらを注視する。

「はい…。えっ!なんですって!」

 いつも冷静な茅執事の上げた声に、それまで和やかだった食卓がピタリと静まった。それほどまでに、ただならぬ様子だった。

「は…はい。はい、承知いたしました。すぐに伺います」

 明らかに動揺を見せる茅執事に、その場にいる全員に緊張が走った。

「茅執事、煜瑾さまに何かあったのですか!」

 煜瑾が幼い頃から長年「ねえや」として世話をしてきた、今の唐家の家政婦・胡娘が立ち上がり、緊迫した声で訊ねた。そこにいる使用人たちの気持ちも同じだと、茅執事にも分かっている。
 見た目の美しさだけでなく、心優しく、謙虚で、天使のような煜瑾から唐家の家族と同じ扱いを受ける使用人たちは、誰もが彼を愛してやまない。その煜瑾が唐家を出てからも、全員がその安否を気に掛けているのだった。

「今の電話は、浦東警察からでした。煜瑾さまが事故に遭われて、病院に緊急搬送されたとのことです」
「っ!」

 胡娘だけでなく、全員が声を失うほどの衝撃を受けていた。青ざめた部下たちを前にして、内心動じていた茅執事だったが、かえってスッと我に返ったようにいつもの冷静さを取り戻した。

「私は、すぐに病院に向かいます。お命に別状はないそうですが、今夜一晩、念のために入院とのことです。入院に必要なものを持参して下さい、とのことでした」

 端的に有能な茅執事は説明をし、次に部下への仕事を割り振った。

「私は手続きのために先に出ますが、胡娘は、入院に必要なお着替えや退院時の衣類などをまとめて、王運転手の車で後から来なさい。楊シェフは、有り合わせでいいので、煜瑾坊ちゃまのお好きなものを用意して下さい。少しでもお慰めになるかもしれません」

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