甜甜的回億 ~甘い記憶~

「私が寝ている間に、荷造りも終えたのですね?」

 寝室のドアの傍にシルバーのスーツケースを見つけて、煜瑾はまた気持ちが沈む。

「ええ。昨夜はたっぷり煜瑾をチャージしましたからね。元気が有り余っているので、ササっと準備出来ましたよ」

 茶目っ気たっぷりに文維が言うと、煜瑾は恥ずかしそうにしながらも、自分が恋人の役に立ったことが素直に嬉しくて、ふんわりと微笑んだ。

「1人が寂しいなら、宝山の唐家や小敏の家に泊まりに行きますか?」

 どこか心細い目をしている愛しい人が急に心配になり、文維は思わずそんなアドバイスをしてしまう。
 寂しいながらも、文維の心遣いが嬉しくて、煜瑾は元気な顔を見せることにした。

「文維がいなくて寂しいのは本当ですけれど、私も、もう大人ですよ。子供のようにお世話してくれる人など必要ありません」
「そうですね。誰かが煜瑾の傍に居るとなれば、それはそれで私も嫉妬してしまいますからね」

 文維はそう言って、煜瑾の額にチュッと音を立てて口付けた。

「もう…、文維ったら…」

 頬を赤くしながら煜瑾が抗議すると、文維は声を上げて、幸せそうに笑った。

「さあ、煜瑾。当分は2人での朝食はできませんからね。今朝はゆっくりいただきましょう」
「はい」

 朝からごきげんな煜瑾は、文維の誘いに、跳ねるようにバスルームに向かい、身支度を急いだ。

 小走りで煜瑾がキッチンに向かうと、すでに文維がお得意のパンケーキを焼き上げたところだった。

「わあ~、今朝はパンケーキなのですね。文維の焼いたパンケーキ、私は大好きなのです」
「知っていますよ。煜瑾に喜んで欲しくて焼いたのですからね」

 ふと文維は、かつて煜瑾が言っていたことを思い出した。

(こんなに美味しいパンケーキを…、文維はこれまでどれほどの人に焼いてあげたのですか?)

 他人に対する妬みや嫉みというような、悪い心を知らずに育った煜瑾だった。けれど、文維を好きになってからの煜瑾は、嫉妬という感情を知ってしまった。
 そんな煜瑾の小さな嫉妬心を、文維は愛らしいと思い、嬉しくさえ思った。けれど煜瑾は慣れない感情に戸惑い、思い悩み、そんな天使を可哀想に思った文維が、最愛の人に約束したのだ。

「これから、煜瑾以外の誰かのために、私がパンケーキを焼くことはありませんよ」

 そう言った時の満ち足りた煜瑾の笑顔を、文維は一生忘れないと思った。

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