甜甜的回億 ~甘い記憶~

「まもなく、唐煜瑾さんが検査から戻られます。病室でお待ちになりますか」

 梁看護師に促され、3人はいそいそと今夜煜瑾が泊まることになる特別病室へと向かった。

「唐煜瑾さんは、記憶が混乱している状態です。彼のほうから声をかけるまで、待っていただいたほうがいいと思います」

 梁看護師からのアドバイスに、茅執事は相変わらず端然として静かに頷き、恭安楽は不安そうにしていた。

「煜瑾ちゃんに、忘れられていたらとっても悲しいわ」

 力を落とした様子の叔母が気の毒で、小敏わざと明るく言った。

「煜瑾を待っている間に、何か飲む?ボク、そこの自販機で買ってくるよ」
「そうね…、ありがとう」

 恭安楽も何とか笑顔を作り、自分の肩に労りをもって添えられた甥の手をポンポンと優しくたたいた。
 小敏が廊下に出たのと入れ替わりに、先ほどの警官たちが病室に入ってきた。

「先ほど、ドライバーの意識が戻りました。供述は取れました。唐煜瑾さんの病状も伺いましたが、……供述を取るのは難しそうなので、今日はこれで引き取ります」

 警官の言葉に恭安楽は、胸を押さえて立ち上がった。

「煜瑾ちゃんにお会いになったの?」
「ええ。検査室の前で。ですが…、事件発生時のことは覚えていないようなので、供述はまた改めて」

 そう言われ、恭安楽は煜瑾の症状が本当にいつもの状態ではないのだと思い知らされ、胸を痛めた。

 廊下の先の自販機で、飲み物を買った小敏が振り返ると、廊下の向こうから車椅子に乗って、男性看護師に押されてこちらに向かってくる煜瑾の姿を認めた。

「煜瑾!」

 思わず、いつもと変わらない明るいトーンで小敏は声をかけた。
 その声に、ぼんやりしていた煜瑾がゆっくりと顔を向け、小敏が見慣れた天使の笑顔を浮かべた。

 小敏は、ぱあっと心の中が暖かくなるのを感じた。それが煜瑾という天使の癒しの力なのだ。
 親友が自分のことを覚えていてくれたのだと、小敏は嬉しくなって車椅子に近づいた。

「煜瑾、大丈夫?」

 しかし、返ってきた言葉に、小敏は愕然とした。

「ご心配ありがとうございます。お会いしたことがありましたか?」
「!」

 嘘偽りのない純粋な眼差しで、煜瑾は初対面の人間に向かって言うように、「親友」に挨拶をしたのだ。

「煜瑾…」

 茫然とした小敏をよそに、煜瑾は軽く会釈をして、車椅子で押されながら、小敏を残して一足先に病室へと向かった。
 ショックを受けた小敏は、しばらくその場に立ち尽くしていたが、ハッと気づいた。

(叔母さま、煜瑾に忘れられてたら、ショックを受けちゃうよ)

 小敏は慌てて煜瑾を追った。


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