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室賀くんと眞壁さん(仮)

【価値観の相違】



 世の中は不思議で満ち溢れている。
 
 以前はそんなこと思い付きもしなかったが、とある事故で昏睡状態に陥って回復し、リハビリを経て日常生活に戻り、再就職先で出会った人間は前世で殺し合った相手だったとかなれば話は別だ。
 そもそも、前世の記憶って何だ、と思う方が先かもしれない。
 しかもそんな相手と出会って早々、一緒に暮らすハメになっているし、その相手からは飯を作ってくれと言われている。

 不思議と言わずしてなんと言うか。

「……一緒に暮らす間だが、家賃や光熱費の折半なんてものはいらない。代わりに飯を作ってくれればそれでいい」
 昔々に殺し合いをした男はそう言い放った。相変わらず、偉そうな態度は変わっていない。
「…それは条件が平等じゃないような気がするが」
「……手料理にはそれだけの価値がある」
「!?」
 あれほど冷徹で残忍な男が手料理に価値を見出していることに心底驚いてしまった。生きる時代が変われば、人が変わるのかもしれないとはいえ、予想外の言葉に返す言葉を失う。
 なんと言えばいいか悩んでいるところへ彼はたたみかけてきた。
「……お前が人並に衣食住を確保し、明日からも何食わぬ顔をして出勤できるのに、悩む道理など無いはずだが」
「……」
 全くもってその通りである。
 そもそもこの男の家に転がり込むハメになったのは、住宅に強盗が入り放火までしてくれたからだ。たまたま仕事中だったこともあり命は無事だったが、自分以外の全てを一瞬にして失ったのである。
 なれない土地で頼れるのは前世の記憶持つ者同士、事情を理解してくれる彼しかいなかったのも事実だった。
「……おれの、新たな生活の基盤が構築できるまでの間、何があっても追い出したりしないという責任を持ってくれるなら」
「誰がそんな無責任な事をするか」
「……でも、手料理を条件に出してくるのは意外だったな」
 素直な感想を言えば、彼は眉間にシワを寄せて押し黙る。そして何かを諦めたかのようにため息をついた。
「……ずっと、惣菜やコンビニ、外食で生きてきたんだ……誰かが俺の為に作ってくれるものを欲したっていいだろうが」
「それは、構わないが……」

 その相手がおれでいいのか、と聞くことはできなかった。
 
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