異国を走れば厄介に当たる
銃を乱射する男は、人を狙っているようではなく、威嚇射撃のように天井や壁などありとあらゆる方向に銃弾を飛ばしていた。様子を伺いながら、物陰にいれば助かる可能性が高そうだと判断する。逆に、逃げようと下手に動けばケガをしかねない。
あとは早く警察による制圧が入るのを待つのみである。
息を潜めてやり過ごそう、店内にいる客たちもきっとそう願った頃、銃を乱射していた男が発する言葉でそれは叶わなくなる。
「いるんだろォ!? チリ人のナンバーセブン野郎がよォ! 俺はお前がここに入るのを見たんだ!」
「!?」
レースのゼッケンナンバーで呼ばれ、ハンバーガーを食べ終わったイグナシオは椅子の陰から男の方を伺い見た。彼のことは見覚えがある。
「……大変デス、あの男を知っていマス」
「…マジかよ……」
お前は一体、何に関わってこうなっているんだ、と言ってやりたかったが、オリヴェールは言葉を飲み込む。
「……ワタシが出ていかないと、周りが危険デス。でも仕方ありマセン、そうなっていマス。オリヴェールサン、この手紙を託します。ワタシに何かあったら、差出人と連絡をとってクダサイ。集落の学校建設、お願いシマス」
「……おい……!」
イグナシオは一方的に話し、持っていた封筒をオリヴェールの手に握らせるとテーブルの下から姿を現す。銃の男はイグナシオに銃口を向けて何やら喚き散らしている。
「やいやい、ヘタクソなガンマン!」
イグナシオにヘタクソと言われ、更に男は逆上し銃を振り回して近付いてくる。通路を真っ直ぐこちらに向かってくる男に対し、イグナシオは軽く跳んでテーブルの上に乗った。
「ワタシは用がありマス。手短に」
テーブルの上に立ち、見下ろすようにして言い更に男を煽ると、割れた窓から外に飛び出した。男は怒りに身を任せ、イグナシオが乗ったテーブルによじ登り、同じように窓から外に出て追っていく。
狂った男がいなくなったことに安堵した客達は、ようやく物陰から姿を現し思い思いに電話を始めた。オリヴェールは改めて握らされた封筒を見て驚きに言葉を失った。その差出人は、彼のよく知る男の名前だったからだ。
トーマス・スミス。同姓同名などごまんといる名前の組み合わせだが、電話番号はオリヴェールの古くからの友の連絡先である。もはや疑問しかない。
「……おい、てめぇ、トム! これは一体どういうことだ!」
『……開口一番それ? 全くわからないんだけど!』
電話をしながらオリヴェールは店を飛び出し、イグナシオを探しながら、レースが終わってからここまでの経緯をかいつまんで話した。
『…あ、あぁー、そんなことになっているとは……。いや、こっちも話すと長くなるんだよ……』
「…詳しいことは後だ。今はイグナシオと狂った野郎を見つけねぇと!」
『そうだな。イグナシオと合流したら、飛行機に乗ってアメリカに入ってくれ! 空港まで迎えにいくから』
飛行機の座席を確保しておく、と言われた後すぐさま電話を切る。そこでオリヴェールは走るのを一旦止め、切れた息を整えながら耳を済ませる。時々聞こえる銃声の方向へ、向きを変えながらオリヴェールは走り続けた。
