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もっと撫でて

「仕方ない、スネイプ先生のところに行こう!」
「え!?ちょっとまって、駄目だって!」
「じゃあどうすんの、それ!試せることは試したし、これ以上私たちだけで何とかしようとしたって埒があかないよ!」
「う…」

はぁ…とため息が漏れる。なんでこんな事になってしまったのだろうか。
3時間ほど前、寮で友人達と楽しくお喋りしていた時ーーー

「あ、そうだ、これ見て!」

友人が取り出したのは、小瓶が数本収まったケース。

「この前ゾンコのイタズラ専門店で半額になってたんだ!」

どうやらそれは仮装用のグッズで、飲めばその人物に合う動物の耳としっぽが出現する、という物だった。
恐らく子ども向けのおもちゃのような物だろう。

「へぇ、その人に合う動物、ねぇ」
「ちょっと試してみない?」

友人達と輪になり、「せーの」の掛け声で一気に呷った。
するとたちまち、動物の耳やしっぽが現れた。
皆で鏡の前に立ち、きゃいきゃいと盛り上がる。

「たしかにあんた猫似合うわね」
「私…ハムスターって…」
「だって食べてる時口にいっぱい物詰め込むとこハムスターに似てるよ」

私は…犬だった。しかも母国の犬。

「ユウはシバイヌね!」
「似合う〜」
「スネイプ先生にいつもしっぽ振ってるもんね〜」
「な…っ!振ってないし!」

口では否定するもの、急に出てきたユウの想い人の名に思わず耳がピクリと反応した。
そんなユウの姿を見て、友人達はクスクスと笑う。


そこまではよかった。


「どうして…」

何故か、いつまで経ってもユウの耳としっぽが消えないのだ。
友人達はとっくの前に消えている。
あのジョークグッズの説明書には、30分~1時間で効果は切れると書いてあった。
もうかれこれ3時間は経っている。

「う〜ん…売れ残りで半額になってたし、腐ってたのかな」
「腐るとかあるの…?これ」
「とにかく元に戻す方法を調べなきゃ」



そして、出だしの場面に戻る。
「こんな事でスネイプ先生を頼るなんて怒られちゃうよ!」
「え〜そうかな?他の生徒ならまだしもユウだから許してくれそうだけど?」
「なんでよ!」
「だってこの学園であんたほどスネイプを慕ってる生徒なんていないし、スネイプもそれ分かってるじゃん」
「絶対そんなことないって!」

どんな厳しい課題を言い渡されようとも、減点をされようともいつもユウは健気にいつもは見えないしっぽを振って「先生、教えてください!」とスネイプの部屋を訪ねている。そんな生徒もちろん他にはいないし、スネイプも表情にはもちろん出さないが、ユウにはちょっぴり甘くて優しい…気がする。
その優しさにユウは全く気づいていないようだが。

「ほら行くよ」
「ほ、ほんとに行くの…??」
「行くしかないじゃん」

結局友人達にずるずると引きずられ、スネイプの部屋の前まで来てしまった。

コンコン。友人がノックをする。
「ユウ・カンザキです」
「ちょっと、勝手に!」

いつもは「入りなさい」と杖をひと振りして扉を開け中で待っているスネイプだが、明らかにユウの声ではないことを不審に思ったのか、いつもより一層顔を顰め、自ら扉を開けた。

するとそこにはフードを被り、ローブで隠すように身を包んだユウと、彼女の友人数名がいた。

「このジョークグッズで遊んでたらユウだけ元に戻らなくなっちゃって!」
「もう3時間経ってるんですけど」
「いろいろ方法は試しました」
「でも私たちでは無理だったので!」
「先生、よろしくお願いします」
「では!これで失礼します」

スネイプが口を挟む暇もないほど嵐のように捲し立て、ジョークグッズとその説明書をスネイプに押し付けると、ユウの背中を強くドンっと押して友人達は去っていった。
ガチャン、と扉が閉まる頃には背中を押された勢いでスネイプの胸に飛び込んでいた。
スネイプから香る薬品の匂いと、体温、その胸の逞しさに思わず顔から火を噴く。

「す、すみません!」

慌ててスネイプから離れる。

「…これはどういうことかね」

ユウはもう一度事の顛末をスネイプに説明した。

「ローブを脱いで見せてみなさい」

大人しくローブを脱いだユウだったが、ある問題に気付く。

「スネイプ先生にいつもしっぽ振ってるもんね〜」

そんな友人の言葉を思い出した。

そう。しっぽが止まらないのだ。

スネイプ先生に会えて嬉しい!の気持ちが抑えられない。
ちぎれんばかりにぶんぶん!と揺れるしっぽに、ユウは慌てた。
両手でしっぽを掴み、なんとか止めようとするが手に収まりきらないしっぽがこれでもかと揺れている。スネイプの「なぜこの状況でしっぽを振っている?」と言わんばかりの視線が痛い。

「こ、これは…」
「…これは、何だ」

ええいやけくそだ!

「先生に会えて嬉しくて!!」

スネイプは片眉をぴく、と動かした。

「…大変素直ですな」

そしてふい、とスネイプは目を逸らした。

あ、あぁ〜…言ってしまった…
でもあの状況で他になんて言えばよかったのか!
ユウが一人悶々としている間にスネイプはジョークグッズの説明書を読んでいた。
どうやら成分表を見ているらしい。

「…ふむ。特に特効薬を作る必要性はない」
「えっ?」
「君は少々薬がよく効く体、というだけの事だ。この成分を見るにどれだけ持ってもあと1時間から2時間経てば自然と効果は切れる。分かりましたかな?」
「…はい」

なんてこった。スネイプをわざわざ訪ねる必要はなかったのだ。
体の力がへろへろと抜け、へにゃりと耳が垂れた。

「では、これで失礼します。先生、お忙しいのにこんなことで頼ってしまってすみませんでした」

スネイプを背に、部屋を出ようとした。

「まあ、待ちたまえ。お茶でも淹れよう」

思わぬ呼び止めに、しっぽが一際強く揺れた。



「念の為、効果が早く切れるように薬が入っている」
「わぁ…ありがとうございます」

ユウがティーカップを持ち紅茶を飲もうとすると、いつもはテーブルを挟んで向かい側の椅子に座るスネイプが、ユウが座るソファに腰掛けてきた。
自然と近くなるスネイプとの距離にどきんと心臓が跳ね、しっぽも一瞬ぎこちない動きになった。
心を落ち着けるようにティーカップに口を付けた。
「…!すごく美味しいです」
ユウはへにゃりと笑うと、再びぶんぶんとしっぽを揺らし始めた。
隣に座ったことによって揺れる度にふさふさと当たるしっぽを、スネイプは何気なく触った。

「ひぁ…!」
「どうしたのかね」

聞いた事のない声がユウから漏れ、思わずスネイプは手を引っこめた。

「す、すみません…!あの、何だか初めての感覚というか、その、えっと、犬だからか気持ちよくて…!」

赤面のあまり涙目になりながら必死に正直に説明するユウに、スネイプは心の奥にぞくり、とした感覚を覚えた。

「触られると気持ちいいのか。…ふん、可愛いですな」
「か、かわ…!?」

スネイプの衝撃発言にユウは開いた口が塞がらない。ユウはこの人、何かを可愛いと思う感情があったんだといろいろキャパオーバーすぎて一周まわって冷静な心の中でそう思った。

スネイプは口の片端を僅かに上げ、楽しげな様子でユウの頭やしっぽを撫で始めた。
初めは赤面しながらも「これ、私の母国の犬なんですよ、シバイヌっていいます!」とスネイプと会話していたユウだったが、だんだん撫でられる気持ちよさから、何も考えられなくなってきてしまっていた。

「うぁ…ん…っそこ、きもちいいです…っ」

スネイプは初め、耳としっぽのふわふわな感触とユウの反応を単純に楽しんでいたが、途中から自分の理性が少しずつ崩れるのを感じていた。
ユウを押し倒してしまいそうになる前に、すっと手を引いた。

「まぁ…もうすぐで効果は切れるだろう。そろそろ寮に」
「先生…」

スネイプの言葉を遮ったユウはぐい、と体の向きを変えた。片手をスネイプの股の間につき、とっくに力が入らなくなりスネイプに寄りかかっていた体を更に密着させ、至近距離でスネイプの顔を覗き込んだ。

「先生、もっと撫でてください」

「…。これ以上我輩を煽るな」

ついにユウをソファに押し倒した瞬間、シュン、と耳としっぽが消え、ユウは気を失った。
ジョークグッズの成分は大したものではなかったが、薬の効きやすいユウには体への負担が大きかったためか、はたまた興奮と緊張の限界だったのか…理由は分からないが、まさかのお預けをくらったスネイプは、やり場のない衝動を奥歯で「ぐぅ…」と噛み締めた。




「う…」
ユウは目を覚ました。
回らない頭のまま腕時計を見ると、夜中の12時をちょうどまわる頃だった。
私…スネイプ先生と紅茶を飲んで…それから…
数時間前のことを思い出し、じわじわと顔が熱くなるのを感じる。

「目が覚めたのかね」

静かな部屋に響く低い声にびくりと肩を震わせる。

「あ、あの、すみません、私…」
急いで起き上がり、謝罪の言葉を述べようとすると数時間前のようにスネイプがユウの隣に座った。
そして、ユウの腰に手を回し、ぐっと引き寄せた。
「先生…!?」
そのまま反対の手でユウの頭や顎の辺りを撫で出す。

「もっと撫でて欲しい、と君が言ったのではないですかな?」

ニヤリ、と余裕たっぷりの笑みを浮かべられ、ユウはくらくらした。

完全に腰が砕けたユウは、ぎゅっと目を閉じ、あぁ、スネイプ先生には一生敵わない…と思いながら体を委ねた。

その後たっぷり撫でられ可愛がられたユウは、寮でいつ帰ってくるのかと寝ずに待っていた友人達の怒濤の質問攻めに会うのであった。
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