群青の途
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澄んだ青空に眩しい日差しが差すその日、産屋敷では裁判及び柱合会議が行われていた。
鬼を連れた隊士──炭治郎と、人を食わぬ鬼の少女──禰豆子はそこで裁判にかけられた。
結果、禰豆子は風柱の稀血にも食らいつかず、禰豆子が人を襲わないことが証明されたのだった。
「ちょっと待ってください!! その傷だらけの人に頭突きさせてもらいたいです、絶対に! 禰豆子を刺した分だけ絶対に!! 頭突きなら隊律違反にはならないはず──はぶぇ!!」
どうしても禰豆子を刺した風柱のことを許すことができなかった炭治郎は屋敷の柱にしがみつき大きく叫んだ。
そんな炭治郎へと、屋敷内に敷かれた小石が数個飛ぶ。見事炭治郎の顔面へと当たったそれは、霞柱により投げられたものであった。
「お館様のお話を遮ったら、駄目だよ」
霞柱の冷たい視線が炭治郎達へと刺さる。その恐ろしさに、炭治郎を運ぼうとしていた隠達が慄く。
その後、炭治郎達は騒がしくも産屋敷から去っていった。
「では、柱合会議を始めようか」
微かに緩んでいた空気が、その言葉により再び引き締まった。
***
「──報告は以上です」
「ありがとう。鬼と協力している可能性のある旅館については、もう少し詳しく調査が必要だね」
柱達の各担当区域についての報告が終わり、いつもであればここで会議が終わる筈であったが、今回は違った。
「今日は皆に、話しておくべきことがある。というのも、前に少し話題になった『人を助ける鬼』についてなんだ」
その話題に、柱達がぴくりと反応する。
そう、鬼殺隊では何ヶ月か前に少し騒ぎになった事案があった。──それがまさに、『人を助ける鬼』の話である。
少し前に大勢の隊士達が向かった任務、その討伐相手が『下弦の参』であった時。殆どの隊士は十二鬼月に力及ばず殉職してしまった。それが残り二人となり絶体絶命というところで、件の『人を助ける鬼』が現れた。その鬼は、隊士達を襲う『下弦の参』を拘束した上、生き残っていた隊士に対し『頸を斬ってくれ』と頼んできたというのだ。それに従い隊士は下弦の頸を斬れたのだという。件の鬼はというと、その後隊士や亡くなった隊士達を食べることもせず暗い山奥へと逃げていったらしい。
あまりに信じ難く、まるで御伽噺のような体験談。殆どの隊士はそれを信じず、当然柱達もその話を信じなかった。
その、ただの噂──あるいは世間話程度の『人を助ける鬼』について、お館様が正式に話を出してきたのだ。その話が笑い事で済ませられるただ事ではないのだと柱達は瞬時に理解した。
「その鬼についてなのだけど──皆も、前にカナエが『上弦の弐』と戦い、その際重症を負ったことは知っているね」
その鬼と、花柱が『上弦の弐』と戦ったことに何の関係があるのか、柱達は疑問を抱く。が、すぐにまさか、とありえないであろう予想を立てた。
「その際も、その『人を助ける鬼』が現れたらしいんだ。前に『下弦の参』と戦った子──獪岳から聞いた鬼の特徴と、カナエが言っていた特徴が同じでね。恐らくは同一の鬼であると考えて間違いないだろう。そして、その鬼は──またしても人を守った。怪我を負っていたカナエを抱え、鬼の来られない日のあたる場所へと送り出したんだ」
花柱が上弦の鬼との戦いで重症を追い、呼吸に後遺症が残った為柱を引退したのは周知の事実だ。しかしまさかそれに『人を助ける鬼』が関与しているとは──しのぶを除く柱達は知らなかった。
「よもや、人を喰らう鬼が人を助けるなど有り得るのだろうか!」
「そりゃあただの鬼同士の喧嘩じゃねーの?」
「俺は信じない。たまたま人を守ったように見えただけだろう。どうせ偶然に過ぎない」
「さあ、どうでしょう……。姉さんは、確かに助けられたと言っていましたが」
にわかには信じられないその話に、訝しがる柱達が騒めく。しかしその騒めきも、耀哉がその細い人差し指を口元に持っていけば水を打ったように静かになった。
「そこで、皆には理解してほしいんだけど──その鬼を鬼殺隊に連れてこようと思っているんだ」
「なっ……あの兄妹に続いて、また鬼を匿うのですか!?」
「南無……鬼を本部に連れてくるのは危険だ」
「僕は別に、どちらでもいいです」
「わ、私はお館様に賛成です!(人を守る鬼だなんて、本当に存在するのならキュンキュンしちゃうかも……でも、人を食べているのならキュンキュンできないわ……!)」
「…………(あの兄妹の他に、人を守る鬼……)」
自分の見解を告げる耀哉に対し、柱達の反応は様々だ。反対する者もいれば、賛成、意見がない者もいる。そんな柱達に、耀哉は再び口を開く。
「禰豆子のことが証明された今、人を食わない鬼が他にいないとは断言できない。もしかすれば、無惨への更なる手がかりになるかもしれない。……分かってくれるかな?」
耀哉の言い分に柱達は口を噤んだ。鬼殺隊の悲願である、鬼舞辻無惨を討ち取ることに一歩近づけるという、鬼殺隊にとってはこの上ない好機。その可能性をドブに捨てる訳にもいかないのである。
無惨への手がかりとなるかもしれないのならば、と柱達は皆耀哉の意見に賛成した。
「ありがとう。それじゃあ、義勇。那田蜘蛛山の任務後に悪いけど、件の鬼が目撃された山──狩罷山に向かってくれ」
「御意」
「では、これで柱合会議は終わりにしよう」
まだ眩しく日が昇っている中、そうして柱合会議は無事に終了したのだった。
7
(実際に見ていない人達は気付かない。『人を助ける鬼』の見目が、『人を守る鬼』──禰豆子に恐ろしく似ていることを。)