生まれ変わったら猫でした。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日、私は特に目的もなく無限城を徘徊していた。足音も立てずに歩いていると、私の行く道に人が立っていた。……正しくは、鬼。
その鬼は、紫色の着物に袴、腰には刀を携え、長く黒い髪が結われていた。そしてもっとも特徴的なのは、その目。
その鬼の目は六つあった。
「(六つ目……黒死牟だ!)」
特徴的な容姿のおかげですぐに誰なのかが分かった。
目の前に立つ黒死牟は、何か動作をする訳でもなく私をじっと見つめている。
対する私も特に何かを仕掛けることもせず、黒死牟を見つめ返す。
「…………」
「…………」
そのままお互いに見つめあったまま固まる。何故だか、目を逸らしたら負けな気がした。絶対逸らすもんか。
というか……私が小さいのもあるけど、黒死牟めちゃくちゃ大きいな……威圧感がやばい。
堂々としたその出で立ちに、どこぞの始祖よりも威圧感を感じた。てか私は二つの目しかないのに、あっち六つ目で見つめてくるのずるくない?
私がじーっと見つめ続けていると、黒死牟は徐に私に向かって手を伸ばしてきた。撫でてくれようとしてくれてるのだろうか。しかし、手を伸ばす黒死牟は立ったままだ。
──えっ、まさかそのまま!? 待ってそれは猫的にすごく怖い!
上から迫りくる手に恐怖を感じた私は、猛ダッシュで黒死牟から距離を取る。そして廊下の曲がり角まで走り、己の身を隠した。無意識のうちに耳がぺたんと折れ、尻尾を体の内側に丸めていた。
「(うわー、思わず逃げちゃった。でもあれは怖い)」
何故猫や犬が上から撫でられるのを怖がるのか、少し分かったかもしれない。自分よりも大きいものに上を取られる感覚に、ぞわりと毛が粟立っていた。
微かに震える体を落ち着かせ、猫らしくなくため息をつく。そして陰から黒死牟の方を伺った。
当の黒死牟は、何故か床に倒れ伏せていた。
「(……???)」
何がどうなってこうなった??
状況がよく理解できなかった私は、一度壁から覗き込むのをやめ一呼吸つく。
でも、困惑するのも仕方ないと思うんだ。だって壁から覗き込んだら、この世で二番目に強い鬼が床に倒れてるんだもん……。
しかし思い返してみれば、そういえば私は鬼の始祖も殺しかけた(唾液で)こともあった。
自分では至って普通の猫だと思ってたけど、もしかしたら特別な猫なのかも? 鬼殺しの猫的な。
今度は理解に苦しむ脳を落ち着かせ、再び壁から黒死牟の方を覗き込んだ。しかし再度見てもやはり状況は変わっていなかった。
なんかこの状況見たことあるな……。
どこか見覚えのある光景にデジャヴを感じながら私は動かない黒死牟を見つめた。
……しかし、一向に起き出そうとしない黒死牟に段々と不安が募りゆく。
これちょっとまずくない? まじで黒死牟大丈夫??
あまりにも動かない黒死牟を本気で心配した私は、隠れていた壁から歩みを進めた。
恐る恐る倒れている黒死牟へと近づくと、黒死牟の手元に何か赤色で文字が書いてあることに気付いた。
“ねこ”
血のような赤色で書かれたそれは、さながら殺された被害者が残したダイニングメッセージだった。いや待って犯人にしないで!!
そもそもこの文字、何使って書いてあるの? まさか……。
すると、私が近寄ってきたことに気付いたのか、伏せていた黒死牟が顔をあげた。その顔は、人よりも目が四つ多いだけで、あとは何も変わらなかった。
顔だけを上げこちらを見つめる黒死牟の表情は変わらず真顔であったが、私にはどこか悲しそうに感じた。
もしかして、黒死牟はただ触らせてほしかっただけだったのかも。
だったら少しくらい我慢して触らせてあげよう。
そう情けをかけることに決めた私は、頭を少し傾けて黒死牟に向けた。上目遣いで目の前の黒死牟を見てみると、黒死牟は少しだけその瞳を見開いていた。ほのかに感動的な雰囲気を感じた。
そして、倒れたまま(いい加減起きなよ)ゆっくりと私の頭に手をかざした黒死牟は、
──あろうことか、ぐわしと力強く頭を鷲掴みしてきたのだ。
「(……〜〜!?!?)」
強い衝撃を予期していなかった私はそれにとても驚き、反射的にバッと手を上げた。
そのまま猫パンチを繰り出そうとしたその時、私はある問題に気付いてしまった。
この人──ほっぺ面積が少ない!!
そう、六つの目を持つ黒死牟は人より多い目が場所をとっている為に、その分ほっぺの面積が少なかったのだ。
人間のほっぺの位置を基準に猫パンチを繰り出そうとしてしまった為に、このままでは黒死牟の目にパンチしてしまう。いくら扱いが酷いからといって、流石に目をパンチするのは申し訳なかった。
急遽私はパンチの狙いを額へと変更した。因みにこの間、約0.5秒だ。
──ぺちん!!!
狙いを変更したパンチは、勢いを失うこともなく見事黒死牟の額にクリーンヒットしたのだった。私悪くない。仕方ないの、本能的に動いちゃったんだ……。
8(おやおや黒死牟殿! その額の腫れはどうしたんだい?)