生まれ変わったら猫でした。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
先日めでたく家猫へと昇格した私は、無限城の一室で特に不満もなく日々を過ごしていた。
初めは、襖の合間から見た景色に『うわ高いなこれ落ちたら怖いなー』とか、『確か無限城って他にも鬼沢山住んでたよね、食べられないかな』など心配事もあったが、今となっては完全にリラックスできており、もうほぼ自分の家である。自分の適応力の高さに驚かされた。
そして、そんな中私は密かに一つの目標を立てていた。
それは「原作の人々──鬼殺隊を救いたい」というものだった。正直、初めに無惨と会ったときにはそれで終わりだと思っていたし、物語には関わらないつもりであった。
しかし、まさかの鬼の根城に住むというアクシデントが発生した為に、物語に関わってしまった。敵のボスのペットとか、もう無関係ではいられないだろう。アニメとかでいうと、最後にバケモノ化してボスの助太刀に入るタイプだ。
そういう理由から、出来ることならば原作の彼らを救いたいと考えたのだ。
しかし、それを目標にするのは勝手だが、一つ問題があった。
それは──私が人を救うにあたり、私自身が人ですらないということについて。
特殊能力等の所持はおろか、人ですらない私に出来ることは限られてくる。そんな中で救済などできるのだろうか。
うーん。いつかここから出て鬼殺隊に拾ってもらうとかしか……いやでもそもそも言葉通じないもんな。どうしたものか。
私があーでもない、こーでもないと唸り悩んでいると。
──べべん。
透き通るような琵琶の音が鳴り響き、その音にはっとして前を見れば、そこには洋装の無惨さまがいた。
「なまえ」
少しだけ、ほんの少ーしだけ、不機嫌な顔をしている無残さま。あ、いやこれデフォルトの真顔か? まだまだ親密度が足りないのでそういうのは分かりません。
名前を呼ばれ、無惨さまのもとにてくてくと歩き寄れば、私は無惨さまに抱き抱えられ視線が高くなった。良い素材の服を着た無惨さま、その抱かれごこちだけは最高だ。
何か用かと私が上の無惨さまを見上げれば、無惨さまはこう言った。
「今日はお前を鬼達に紹介する。……本当は紹介なんぞしたくもないが、訳も知らずにお前を殺されては困るからな」
わお、まさかのペットお披露目会!
どうやら無惨さまは、私を危険に晒させないために私を紹介するらしい。たかがであろうペットにここまでするなんて、もうこの人ただの猫好きだな……。
「分かったか?」
「にゃお」
「ぐっ……では行くぞ」
私が返事をすれば、無惨さまは小さく呻いた後すぐにきりりとした顔に戻った。
その直後再び琵琶の音が聞こえ、気づけば私達は先程とは別の部屋へと移動していた。
それを認識した途端下の方から、たんっと何かを畳に叩きつけたような音が聞こえた。
何だろう、と無惨さまの腕の中から少し身を乗り出し見てみれば、そこには──“七人”の上弦の鬼達がいた。
先程の『何かを畳に叩きつけたような音』は、どうやら彼らが無惨さまに跪いた音らしかった。
「今日はお前らに言っておくことがある」
お元気ですか、とかそういう確認の挨拶等もなく、いきなり本題に入ろうとする無惨さま。
いや唐突すぎない? 鬼の会議ってまじでこんな感じなの?? 鬼殺隊では毎回会議でお館様にご挨拶とかしてるみたいだったけどなぁ。それも、『今日こそは俺が!』と言った具合に張り合うほどには柱に大人気(?)の行事だ。
「むむ、それは無惨様の腕に抱かれている猫についてのことでしょうか!」
そんな本題をいきなり始める無惨さまに、動じもせず元気よく声を上げたのは、上弦の弐──童磨だ。
童磨は子供のように目を輝かせながら無惨さまの返答を待つ。
「誰が喋っていいと言った? お前は私が言うことを黙って聞くことも出来ないのか」
しかし、きらきらとした瞳で返答を待っていた童磨に返ってきたのは、何ともつれない返事だった。
そこまで言わなくとも……と私が心中で思っていると、次の瞬間童磨の頸が、ごぱん、と聞いたこともない音を立てて破裂した。辺りには血が撒き散らされ、猫になってから感度のよくなった鼻が血の匂いを嗅ぎ取った。
あまりに衝撃の出来事に、私はびたりと無惨さまの腕の中で硬直した。毛が少し逆立つのを感じる。
う……グロ耐性皆無じゃなくてよかった……! 皆無だったら今この場で確実に吐いてるところだった……!
いきなり何て事するんだ、童磨は特に何も悪くないし、私の心臓に悪いだろ! と、私は無惨さまに向けてしゃーっと威嚇をする。
すると無惨さまは先程の私と同じようにぴたっと動きを止めた。飼い主とペットはだんだん似てくるって? まったく冗談じゃない! そして私が怒っていることを感じ取り機嫌を治そうとしているのか、私の頭に手を伸ばしてきた。だめ! 撫でても許さん! とその手にも威嚇をすれば、たちまちショックを受けた顔になった無惨さまは、
「なまえが怖がっている。そのふざけた態度を改めろ」
と、部下に八つ当たりをし始めた。
いや、私が怒ってるのは貴方にですからね!? 何で童磨に責任転嫁してるの!? これが港に聞いた理不尽パワハラ……!?
「おやおや、怖がらせて申し訳ありませぬ! どうかお許しください!」
そんな理不尽な上司に対し、既に頸上を再生し終えていた童磨は何も気にしていない風に、にへらと笑っている。この理不尽さにはもう慣れているかのような対応だ。
謝る童磨に対し、無惨さまは私のことをまるで機嫌を伺うかのように見下ろした。いや、鬼の始祖が一介の猫の機嫌を伺うってどういう状況だよ。
私はもう威嚇はせずに、かといって返事もせずに、すんとした態度をとった。
「……お前たちのせいで話が逸れた。本題に戻す」
許す、という明確な言葉はなかったが、きっと童磨のことは許したのだろう。話を戻した無惨さまが私について説明する。
「これは私の飼い猫だ。名はなまえという。もう一度言うが、“私の”猫だ。手を出せばどうなるか、言わなくとも分かるだろう」
そう言い周りに睨みをきかせる無惨さま。
ひぃ〜私の紹介も忘れずに、ちゃっかり部下へ圧力もかけていく合わせ技……!
「これからは無限城で過ごさせる。万が一怪我をさせたりなどしたら──お前の頸は飛ぶと思え」
これからの過ごし方について無惨さまが説明をする。
……んんんん!? その言い方だと、猫>鬼達みたいな優先順位に聞こえましたけど大丈夫なんですかね!? 自分にとって役に立つ上弦の鬼よりも猫を優先するんですか!?
物事の価値観が若干可笑しくなってきている無惨さまの言葉に、鬼達は「御意」と返事を返す。
「無惨様……ひとつ……宜しいでしょうか……」
ようやくこの可笑しなお茶会ならぬ可笑しなお披露目会から出られると思っていれば、一人の鬼が無惨様へと声をかけた。
まだ続くのか……と私は少々落胆する。
声をかけたその鬼は、刀を携え六つの目を持つ──上弦の壱、黒死牟だった。
「何だ、言ってみろ」
それに対し、無惨さまが質問の許可を出した。一体何を言うのだろう、と私は不思議に思った。
「このことは……他の鬼達……下弦などには……伝えないのでしょうか……」
「伝えない。毎度毎度入れ替わる下弦になど、教える価値も知る権利もない」
自分達以外には教えないのか、と問う黒死牟に、無惨さまはばっさりと『教えない』と返した。
いやいやはっきりしすぎでしょ! まあ確かに“すぐに入れ替わる”ってことは、“そういうこと”だしいちいち教えても意味がないっていうのは分からないこともないけど……。
上弦に比べ、あまりに適当な扱いの下弦を少し気の毒に思った。
無惨からの返答を貰った黒死牟は、「ありがとうございます……」と感謝の意を述べた。
「今日言ったことを忘れるなよ」
そして無惨さまが唐突にそう言うと、べん、という音と共に目の前の景色が変わり、私達はもといた部屋へと戻っていた。
……う〜ん流石無惨さま! 終わり方も自分勝手だ!(褒めている)
締めの言葉もなく──いやさっきのが締めな言葉だったのだろうか──唐突に終わった会議。流石は無惨クオリティである。
「これからは無限城内を好きに彷徨いてもいい。但し何かあったらすぐ私に言え」
「にゃー」
「……良い子だ」
無惨さまの言葉に返事をすると、無惨さまは薄く笑い私の頭を撫でた。
なんかちょっと過保護すぎて、飼い主とペットってよりはオカンと息子みたいになってない? いやこれじゃ性別逆か。オヤジと娘?
こうして、私の『ドキドキ(命の危機)猫ライフイン無限城』が始まったのだった。
6(これからどうぞ、よろしくね)