生まれ変わったら猫でした。
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無惨さまから名前(前世と同じ)を貰った私は、現在無惨さまに抱えられていた。
そしてその目の前には、琵琶を持った1人の鬼──鳴女ちゃんがいた。
無惨さまは何を思って私をここに連れてきたのだろうか。どうやら鳴女ちゃんも、無惨さまの意図が分からず困惑しているようだった。
「名前はなまえ、私の猫だ。今後この無限城で過ごさせる。これからはなまえが呼んだ時にも対応しろ」
「……分かりました。が、その時はどのように判断すればよろしいでしょうか」
「…… なまえ、私を呼んでみろ」
二人の会話に耳を傾けていたところ、無惨さまは何故か私に会話を振ってきた。しかし言われたことは無理難題ではなかった為、すぐに実行した。
「にゃおん(無惨さま)」
すると無惨さまはいきなり自分の胸を押さえ出した。いきなりの行動に、鳴女ちゃんは驚いたように無惨さまを見つめている。かくいう私も動揺が抑えられない。えっ、ちょ、大丈夫? 襲撃?
「なまえの声は初めて耳にしたが……予想通り好い声をしている」
なんて、あの血も涙もない冷酷無慈悲パワハラ上司無惨さまが絶対に口にする筈もない恐ろしい空耳が聞こえた気がしたが、気のせいだと思う。というか絶対に空耳だと思う。
「次に鳴女を呼んでみろ」
「にゃおん(鳴女ちゃん)」
「これだ」
「…………?」
無惨さまは大真面目にそう言っているが、対する鳴女ちゃんはとても微妙な顔をしている。きっと違いがまったく分からなかったのだろう。
でも普通はそれが正常な反応だと思う。私も人間の頃は、猫の鳴き声の聞き分けとか難しかったもんな。まあ、実際猫になってみると微妙な違いはあるんだけど……うーん。
無惨さまが本当に私の声を聞き分けられているのかは置いといて、せめて鳴女ちゃんが感覚を掴めるように何度か繰り返してみることにした。
「にゃおん、にゃおん(鳴女ちゃん、鳴女ちゃん)」
そうして何度か鳴いていると、何故か無惨さまの方が胸を押さえばたりと倒れた。一緒に倒れるわけにもいかないので、私はその腕からしょいと飛び出し地面に着地した。そうして私と鳴女ちゃんはぎょっとして無惨さまを見た。
……鬼って陽の光と日輪刀の他に猫の鳴き声でも死ぬのかな。なんて軽く現実逃避をしていると、無惨はいつかのように起き上がり、私を抱えた。前にもあったなこんなこと……。
「やはり鈴のように愛らしい声だ。なまえ、私の名を呼べ」
……!? 誰だこの人…………!?
もはや別人と言われた方がしっくり来るぐらいである。意味の分からない言動に困惑しつつ、別に減るものでもないので素直に命令に従い名前を呼ぼう……としたが、ここで少し悪戯心が働いた。
無惨さまが本当に私の言葉を聞き分けられているのか、試してみたくなったのだ。ほんのちょっとの出来心。無惨さまはあたかも自分は理解できているかのような態度をとっているが、果たしてそれは本当なのだろうか。いつも通り虚構とパワハラを振りかざしているだけではないのか。無惨さまの名前を呼べと言われているが、鳴女ちゃんの名前を呼んでみることにした。
「にゃおん(鳴女ちゃん)」
「違う、鳴女ではない。私の名だ」
いや本気で分かってんのかよ!!
ばっちり言い当てた無惨さまは、さも当然だというかのように顔を顰めている。私の言っていることが分かるというのは、嘘でも見栄っ張りでもなかったらしい。生意気なことしてすみませんでした……。貴方は猫語検定三級合格です。大変素晴らしい。花丸。
「にゃおん(無惨さま)」
その瞬間目の前から無惨さまが消え、代わりにお腹に軽い衝撃が走った。早すぎて何も見えないぞ、なんだなんだとそちらを見やれば、にわかには信じられないが、そこには私のお腹に顔を埋める無惨さまの姿があった。
「(え……えぇ……)」
もはや言葉にすらならなかった。何百年も生きてきた威厳ある鬼の首魁から、ただの猫好きに変わり果てた上司の姿を、鳴女ちゃんが若干冷めた雰囲気で見ていた。かく言う私も、記憶の中の姿と合致しない無惨さまの姿に非常に困惑していた。
そんな冷えた雰囲気の中、無惨さまは顔を上げると、
「愛いな、なまえ」
と、言い放ったのだった。
怖い……私、怖いよ。
***
その後、無惨さまは「やる事がある」と言って去っていった。
当然、連れて行かれる訳ではない私はその場に残った。つまり、今この部屋には私と鳴女ちゃんとで2人きりだ。
鳴女ちゃんとは是非とも仲良くなりたい。同じ女の子だし、きっと分かり合える筈!(※そもそも話せない)
私はすたすたと鳴女ちゃんのもとへと近寄る。近づいてきた私に鳴女ちゃんが気付き、こちらに顔を向けた。
「…………」
見つめ合ったまま、お互いに無言である。それもそうだ、猫と人──鬼では話せないのだから。
私だって元は人間なのに、会話すらできないことがなんとも悲しかった。曲を弾いたりするのかとか、なんでそんなに綺麗な髪をしているのかとか、いろいろ話したいこととかあるのに!
それでもなんとか交流を試みようと、更に近づき鳴女ちゃんの膝辺りまで寄る。膝に乗っても怒られないかな……? と伺うように鳴女ちゃんを見上げた。
「……何かご用ですか」
──!! 喋ってくれた!
私が言わんとすることを察してくれたのかは分からないが、鳴女ちゃんの方から声をかけてくれた。
話しかけてくれたことに嬉しくなった私は、前足を鳴女ちゃんの膝に乗せた。しかし、私が乗ろうとしても鳴女ちゃんは構えた琵琶を手放さなかった。私のことを不思議そうに見つめている。
きっといつ呼ばれてもいいようにずっと構えているのだろう。……ストレスとか溜まらないのかな。いつ上司の命令が来てもいいように、ずっと気を張ってるんだもんね。よし、ここは私がアニマルセラピーという名の邪魔でもしよう。ふんす、と息巻いたところではたと気付く。
……なんか私、猫になってから少し性格が……図太いっていうか、少し傲慢になった? 猫化の影響なのだろうか。前世はもう少しお淑やかだった気がしなくもない。人の膝に無理やり乗り込もうとするなんて、前世だったら絶対にしない。
鳴女ちゃんの腕辺りの隙間から、無理矢理鳴女ちゃんと琵琶の隙間へと入り込んだ。突然入り込んできた私に、鳴女ちゃんは驚いて少し体制を崩した。それにもお構いなく体をねじ込み、鳴女ちゃんと琵琶の間のスペースに体を収めこんだ。
「…………」
よし、これで第一関門(物理)突破だ。
鳴女ちゃんからは困惑しているような雰囲気が感じ取れたが、めげないしょげない構わない。
私は鳴女ちゃんの膝に腰を落ち着けた。なんだこれ、狭いところめっちゃ落ち着く!
そして大きな琵琶を支える腕に頭突き、もとい頭を擦り寄せた。その行動に鳴女ちゃんはびくりと跳ねて固まった。
ぐりぐりと頭を押し付けていれば、鳴女ちゃんはようやく琵琶から片手を離した。そうしてその手を私の頭へとゆっくりと伸ばしてきた。その手はいつかの無惨さまのように、少しだけ震えていた。なんだろう、皆猫が恐いのかな。確かに、集落でも現世ほど猫を可愛がる人はいなかったし、もしかしたら猫についてよく知らないのかもしれない。
伸ばした手がぽすり、と頭の上へと被さった。撫でられてはないけれど、それでも触ってくれた事が嬉しくて今度はその手に頭を擦り寄せた。
またも鳴女ちゃんは少し驚いたようだけど、やがてゆっくりと手を動かし撫でてくれた。少し遠慮しているような撫で方であったが、普通に気持ちよかった。
リラックスできてるだろうか、と反応を確認するために上目遣いで顔を見上げれば──鳴女ちゃんは口元に微笑を浮かべていた。
「(────!! やばいかなり美人だ──!)」
鳴女ちゃんの顔はその黒い髪で隠されていて、顔下半分しか見えなかったが、その下半分だけでもかなり美人であることが分かった。
鳴女ちゃんの瞳は確か一つ目だったけど、それも含め鳴女ちゃんは絶対に美人である。黒くて艶やかな髪の毛、琵琶を弾く細くもしなやかな手、ミステリアスな雰囲気、全てが魅力的だ。髪で顔が隠されている分、その形の良い唇が一層際立つ。
はあ、どこかの始祖に撫でられるよりもほわほわする。鳴女ちゃんは私を撫でてアニマルセラピーできるし(ただし職務妨害)、私は私で可愛い鳴女ちゃんの姿を見て癒される。これぞウィンウィンの関係だ。
そうして私たちは、会話は殆ど無かったものの無惨さまが帰ってくるまでほわほわと楽しく過ごしたのであった。
5(初めまして、琵琶の君)
(…………可愛いかった)
(けど、いなくなった後の毛がすごい)