群青の途
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幸せの壊れる時にはいつも、血の匂いがする。
***
その日炭を売りに一人で町へと出かけた俺は、人々の手伝いをして家に帰るのが遅くなってしまった。
そんな俺を「鬼が出るから」と三郎爺さんが泊めてくれた。
そこで一夜を明かし、翌朝家へと帰った俺は、家の惨劇を見て絶望した。
荒らされた家の中、血塗れで倒れる家族たち。
でも、その中になまえの姿は無かった。
そんな中、唯一まだぬくもりがあった禰豆子を医者に診せるため山を下った。
何故こんなことになったのか。熊だとしたら、あの場にいなかったなまえはもう……。
人一人を運び下る山は酷く苦しかった。息が苦しく、凍てついた空気で肺が痛んだ。けれども、家族達はこの倍も苦しんだのだ、だからせめて禰豆子だけでも──。
そのとき、背負った禰豆子が叫び声を上げ、俺は雪で滑り落ちた。しかし怪我はなく、逆に雪のおかげで助かった。
慌てて一緒に落ちた禰豆子に目を向ければ、禰豆子はすぐ側で雪の上に立っていた。禰豆子に無理をさせる訳にはいかない、と再びおぶろうと声をかけると、禰豆子はいきなり襲いかかってきた。
目をかっ開き牙の伸びたその姿は、まるで人喰い鬼のようだった。
匂いはいつもの禰豆子と違っていたが、禰豆子は生まれた時から人間だ。
けれど、あの家の惨劇──あれは禰豆子がやったことじゃない。六太を庇うように倒れていたし、口や手に血はついていなかった。
そしてもう二つ、あの場にいない人間の匂いがした。一つは嗅ぎ慣れたなまえの匂い。もう一つは──。
原因を考えているうちにも禰豆子の力は強くなり、掴まれた肩がみしみしと悲鳴をあげる。
それに対して俺は、必死に声をかけた。
頑張れ、禰豆子。しっかりするんだ、鬼になんかになるな──。
しかしその後、知らない男の人が現れて禰豆子が斬られそうになった。
その男に禰豆子のことを弁解すれば、男は言った。
──禰豆子は人を喰う鬼だから頸を刎ねる、と。
けれど、禰豆子は誰も殺してなんかいない。皆を殺したのは、家に残っていた嗅いだことのない匂い──その匂いの人物だ。
しかしそれでも男は禰豆子を許してはくれない。
俺が土下座をして頼めば、男は怒鳴り出した。
そして、男は手に持つ刀で禰豆子の肩を刺した。
やめろ、と叫び俺は禰豆子を助けるため動き出した。
しかし、俺は男に刀の柄で背中を強く殴られて意識を失った。
***
──暗闇で、声がした。
──意識がはっきりしないけど、沢山の気配がした。
「──置き去りにしてごめんね、炭治郎。禰豆子となまえを頼むわね」
***
はっと目を覚まし、目の前の布を掴めば、それは眠る禰豆子にかけられた羽織であった。
するといきなり先程の男から声をかけられ、また斬られるのではないかと禰豆子を抱き守ろうとした。
しかし男──冨岡義勇という人物は、もう斬りかかってくる気配はなく『鱗滝左近次』という人物を尋ねろと言った。
そして妹を太陽の下に連れ出すなよ、と言い残しその場から消えた。
一瞬の間のその出来事に、俺は暫く困惑していた。
***
その後、目を覚ました禰豆子は襲いかかる気配もなく、その禰豆子を連れて家族を埋葬するために家へと戻った。
雪を退け、土を掘り冷たくなった家族達を埋めた。
やっぱりその中に、なまえの姿はなかった。微かに匂いは残っていたから、なまえも昨夜はここにいたはずなのだ。
初めは熊に巣穴へと連れ去られたのかと思ったが──家を襲ったのが人喰い鬼ならば、なまえはきっと、鬼に、──。
埋めた家族達に手を合わせた後、宙を見つめぼーっとしている禰豆子を連れて俺は歩き出した。
2
(助けてやれなくて、ごめん。喪った家族の分まで、せめて禰豆子だけでも、)