群青の途
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※流血・グロ注意
走れ。走れ。守るために。
走り続ける私に、夜風が吹き付ける。戦い続けて温まった体には、丁度良い涼しさであった。
そして私は漸く、鬼の元へと辿り着いた。
足を止め目を向けた先、そこにいたのは──体中に青い線の痣の入った無傷な鬼と、燃え上がる炎のように堂々としている男の隊士。
──しかし、男の隊士の方は満身創痍で、今にも死んでしまいそうな程血を流していた。
炎の男の人はぼろぼろになりながらも刀を構えた。
「やはりお前は鬼になれ! 杏寿朗!」
鬼の放ったその言葉を引き金に、考える間もなく私は足を動かしていた。
もう鬼の言葉も、草木が騒めく音も、風の音も聞こえなかった。
「俺と永遠に戦い続けよう!」
青い線の痣が入った鬼が体を構え、地面を砕くほど勢いをつけて飛び出す。同時に炎の人も鬼へと向かい技を放つ。
迎撃じゃ敵わない、いなすのも失敗する可能性が高い……だから──受け止めるのだ。
それが一番、“人を守る”のに適している。
そして──、
──鬼と炎の人がぶつかり合う、その合間に私は入り込んだ。
凄まじい衝撃が私に襲いかかるが、足を踏ん張り吹き飛ばされないようにする。ごぱん、と肉が爆ぜる音が耳に入った。それが誰からの音なのか、一瞬理解できなかった。
一瞬の間を空け、私は鬼の拳が己の腹を貫通しているのを理解した。
意識した途端、貫かれた腹がじくじくと熱くなる。でも、それだけ。『上弦の弐』に体を両断された時程の痛みは感じなかった。その感覚に、私は私が人からどんどん外れた存在になっていっているのだと痛感した。
技と技のぶつかり合いによる土煙が、段々と晴れていく。見えていなかった周りの景色が見えるようになっていく。
「なっ……!? なまえッ……!!」
「──!?!?」
「お前、何をして……」
離れた所から炭治郎の声が聞こえた気がした。しかしそれにも構わず、私は己の腹を貫くその腕を力一杯爪を喰い込ませて握った。
もうすぐ、夜明けが来る。
──絶対に離さない。
その意志が背後にいる炎の人にも伝わったのか、炎の人が瞬時に刀を振るう。
振るわれた刀は鬼の頸に喰い込む。しかし、頸を切断するまでには至らない。
頸を脅かされていることに焦りを感じたのか、鬼は自由な左腕を振るう。それを炎の人が、なんと素手で止めた。満身創痍であり、尚且つ相手は鬼だ。なんて凄まじい力なのだろうか。
横目に、山から日が覗きでようとしているのが見えた。このまま鬼をここに固定して、焼き殺すのだ。たとえ私が共に死んでしまうとしても。
鬼もそれに気づいたのか、私の腹から腕を抜こうと手を引いた。私は深く爪を立て、腕に筋を浮き上がらせながら全力でそれを阻止する。貫かれた腹の傷が再生しかけているせいもあり、鬼の腕は抜けない。
「っ、この女……!!」
ここには辺り一辺陽光が差す。隠れる場所など無い、絶対に逃がさない。
腹の中で鬼の腕が動こうとするたびに、痛みを感じる。私はそれに、目を細め汗を流しながらも耐える。
「オォォオオオオオ!!!」
突然鬼が叫び声を上げる。私は鼓膜がびりびりと痛むのを感じた。大声を出したせいか、びきびきと筋を浮き上がらせながら鬼の力が強まっていく。
「退けぇぇぇ!!!」
「あああああ!!!」
鬼の腕を掴む私の後方で、炎の人も雄叫びを上げる。鬼の頸に喰い込む刃が、頸の真ん中程まで来ていた。
「伊之助、動け──っ! 煉獄さんのために動け──!!」
しかし、鬼は──。
「っ……!!」
地面にヒビが入る程に足を踏み込み、鬼が宙へと飛び上がった。
しかし、私の腹には未だ鬼の腕が刺さったままだ。何で、と私が上を向けば、鬼は──自ら腕を引きちぎり脱出していた。
そして鬼は距離の離れたところで着地すると、一目散に森へと向かい駆け出した。
山々の隙間から日が昇り始め、日が差し出す。
「ゔぅ、っ……!」
じゅうう、と音を立てて私の額が焼かれる。それに、鬼に腹を貫かれた時よりも激しい痛みを感じた。
──その時、焼かれゆく私を何かが覆った。それに日光が遮られ、燃焼が止まった。
上を見上げると、それは所々に血の滲みがあるものの、本当は白いであろう布。
それは──炎の人の、羽織りであった。
驚く私の横で、鬼を追う炭治郎が刀を投げていた。そして、辛うじて聞き取れていた音が、また段々と薄れていくのが分かった。
「逃げるな卑怯者!!」
燃焼が止まった私の体は、焼かれた箇所や他の怪我を再生しようと機能しだす。それと同時に、私の体が自然と小さくなり始めた。
私は羽織りの中で、ふーっとふーっと荒くなる息を収めようと呼吸を繰り返す。
「逃──る──!!!」
小さくなった私は、更に力が抜けてその場に立っていることすら困難になる。ぱたりと倒れる小さな私を炎の人が受け止めてくれた。そんな私に、耐えきれない程の眠気が押し寄せてくる。
それはまるで、今まで寝食をしてこなかった分の疲労が、今襲いかかって来ているかのようだった。
──今寝たら、だめだ……。まだ怪我人がいるの、全員助けないと……。
段々と瞼が重くなり、目が開けられなくなってきた。意識がぼんやりと霞んでいく。
眠気に耐えきれなかった私は、とうとうその瞳を閉じてしまった。
16
(煉獄、さん……。もういいですから、呼吸で止血をしてください……。傷を塞ぐ方法はないですか?)
(……正直、止血をしても生存できるかは五分五分なところだ。しかし、やらないことには生きる未来もない。)
(が、本当にどうか分からないんだ。だから、喋れるうちに喋ってしまうから聞いてくれ。)
走れ。走れ。守るために。
走り続ける私に、夜風が吹き付ける。戦い続けて温まった体には、丁度良い涼しさであった。
そして私は漸く、鬼の元へと辿り着いた。
足を止め目を向けた先、そこにいたのは──体中に青い線の痣の入った無傷な鬼と、燃え上がる炎のように堂々としている男の隊士。
──しかし、男の隊士の方は満身創痍で、今にも死んでしまいそうな程血を流していた。
炎の男の人はぼろぼろになりながらも刀を構えた。
「やはりお前は鬼になれ! 杏寿朗!」
鬼の放ったその言葉を引き金に、考える間もなく私は足を動かしていた。
もう鬼の言葉も、草木が騒めく音も、風の音も聞こえなかった。
「俺と永遠に戦い続けよう!」
青い線の痣が入った鬼が体を構え、地面を砕くほど勢いをつけて飛び出す。同時に炎の人も鬼へと向かい技を放つ。
迎撃じゃ敵わない、いなすのも失敗する可能性が高い……だから──受け止めるのだ。
それが一番、“人を守る”のに適している。
そして──、
──鬼と炎の人がぶつかり合う、その合間に私は入り込んだ。
凄まじい衝撃が私に襲いかかるが、足を踏ん張り吹き飛ばされないようにする。ごぱん、と肉が爆ぜる音が耳に入った。それが誰からの音なのか、一瞬理解できなかった。
一瞬の間を空け、私は鬼の拳が己の腹を貫通しているのを理解した。
意識した途端、貫かれた腹がじくじくと熱くなる。でも、それだけ。『上弦の弐』に体を両断された時程の痛みは感じなかった。その感覚に、私は私が人からどんどん外れた存在になっていっているのだと痛感した。
技と技のぶつかり合いによる土煙が、段々と晴れていく。見えていなかった周りの景色が見えるようになっていく。
「なっ……!? なまえッ……!!」
「──!?!?」
「お前、何をして……」
離れた所から炭治郎の声が聞こえた気がした。しかしそれにも構わず、私は己の腹を貫くその腕を力一杯爪を喰い込ませて握った。
もうすぐ、夜明けが来る。
──絶対に離さない。
その意志が背後にいる炎の人にも伝わったのか、炎の人が瞬時に刀を振るう。
振るわれた刀は鬼の頸に喰い込む。しかし、頸を切断するまでには至らない。
頸を脅かされていることに焦りを感じたのか、鬼は自由な左腕を振るう。それを炎の人が、なんと素手で止めた。満身創痍であり、尚且つ相手は鬼だ。なんて凄まじい力なのだろうか。
横目に、山から日が覗きでようとしているのが見えた。このまま鬼をここに固定して、焼き殺すのだ。たとえ私が共に死んでしまうとしても。
鬼もそれに気づいたのか、私の腹から腕を抜こうと手を引いた。私は深く爪を立て、腕に筋を浮き上がらせながら全力でそれを阻止する。貫かれた腹の傷が再生しかけているせいもあり、鬼の腕は抜けない。
「っ、この女……!!」
ここには辺り一辺陽光が差す。隠れる場所など無い、絶対に逃がさない。
腹の中で鬼の腕が動こうとするたびに、痛みを感じる。私はそれに、目を細め汗を流しながらも耐える。
「オォォオオオオオ!!!」
突然鬼が叫び声を上げる。私は鼓膜がびりびりと痛むのを感じた。大声を出したせいか、びきびきと筋を浮き上がらせながら鬼の力が強まっていく。
「退けぇぇぇ!!!」
「あああああ!!!」
鬼の腕を掴む私の後方で、炎の人も雄叫びを上げる。鬼の頸に喰い込む刃が、頸の真ん中程まで来ていた。
「伊之助、動け──っ! 煉獄さんのために動け──!!」
しかし、鬼は──。
「っ……!!」
地面にヒビが入る程に足を踏み込み、鬼が宙へと飛び上がった。
しかし、私の腹には未だ鬼の腕が刺さったままだ。何で、と私が上を向けば、鬼は──自ら腕を引きちぎり脱出していた。
そして鬼は距離の離れたところで着地すると、一目散に森へと向かい駆け出した。
山々の隙間から日が昇り始め、日が差し出す。
「ゔぅ、っ……!」
じゅうう、と音を立てて私の額が焼かれる。それに、鬼に腹を貫かれた時よりも激しい痛みを感じた。
──その時、焼かれゆく私を何かが覆った。それに日光が遮られ、燃焼が止まった。
上を見上げると、それは所々に血の滲みがあるものの、本当は白いであろう布。
それは──炎の人の、羽織りであった。
驚く私の横で、鬼を追う炭治郎が刀を投げていた。そして、辛うじて聞き取れていた音が、また段々と薄れていくのが分かった。
「逃げるな卑怯者!!」
燃焼が止まった私の体は、焼かれた箇所や他の怪我を再生しようと機能しだす。それと同時に、私の体が自然と小さくなり始めた。
私は羽織りの中で、ふーっとふーっと荒くなる息を収めようと呼吸を繰り返す。
「逃──る──!!!」
小さくなった私は、更に力が抜けてその場に立っていることすら困難になる。ぱたりと倒れる小さな私を炎の人が受け止めてくれた。そんな私に、耐えきれない程の眠気が押し寄せてくる。
それはまるで、今まで寝食をしてこなかった分の疲労が、今襲いかかって来ているかのようだった。
──今寝たら、だめだ……。まだ怪我人がいるの、全員助けないと……。
段々と瞼が重くなり、目が開けられなくなってきた。意識がぼんやりと霞んでいく。
眠気に耐えきれなかった私は、とうとうその瞳を閉じてしまった。
16
(煉獄、さん……。もういいですから、呼吸で止血をしてください……。傷を塞ぐ方法はないですか?)
(……正直、止血をしても生存できるかは五分五分なところだ。しかし、やらないことには生きる未来もない。)
(が、本当にどうか分からないんだ。だから、喋れるうちに喋ってしまうから聞いてくれ。)