生まれ変わったら猫でした。
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それは、突然のことだった。
鳴り響くクラクションに、迫り来る大きな鉄の塊。
それが自分に向かって迫るのを、ただ他人事のように見ていることしかできなかった。あまりに突然のことすぎて、走馬灯とか、そんなものは浮かばなかった。事故なんて、いつもテレビの向こう側の話だったのに、それをまさか自分が体験することになるなんて思いもよらなかったのだ。
大きな鉄の塊がすぐそこまで来ていた。自分の呼吸音以外何も聞こえない。それと接触した瞬間、目の前が真っ暗になった。
そうして私の“人”生は、呆気なく幕を閉じたのだった。
***
それがまさか、こうなるとは。
木々が生い茂り、暖かな日が差し込み、鳥の鳴き声が聞こえる森の中で私は微睡んでいた。
前の回想通り、私はあの日事故に遭い、その短い人生に幕を下ろした。ある日確かに私は撥ねられ── 正直事故の時の感触はよく覚えていない。だが、覚えていなくてもいいのだ。覚えていたら……きっと一生のトラウマになっている──死んだのだ。
──しかしどういうことなのか、気づいたらもう一度生を受けていた。
だが生を受けたとは言っても、前世と同じ人間ではなかった。前世の記憶が残ってるから初めはとても驚いた、なぜなら私は今世では──猫として生まれていたからだ。
まず、始めて見た光景が森だった時点で少し違和感があったが、成る程私は捨て子なのかと推測をしていた。
するといきなり首元を掴まれ、そのまま何かに掴まれながら水溜りまで連れてこられた。ぺしゃりと地面に落とされた先、水溜りで見たものは、まん丸な瞳に尖った耳、そしてもふもふとした毛を持つ──猫であった。
その瞬間、全てを悟った。
──あ、私人じゃないんだ。
それからはかなり辛かった。人として生きてきた私には、野良猫の生活が合わない。まあ、当然だ。今まで狩りをしたりだとか、わざわざ寝床を確保したりだとか、天敵を警戒する、なんてしたことがなかったのだから。
特に、食事なんかは本当にショックを受けた。鳥やネズミをそのまま食べ、時には虫を食べることさえあるくらいだ。しかし出来るだけそうはしたくなかった私は、人間の集落で食べ物を貰ったりとズルをしていた。
そして猫に転生した、ということ以外にもう一つ分かったことがあった。それは、私が転生したと思われるこの時代のことだった。
集落では、会う人間全員が着物を着ていた。最初は「辺鄙なところなのかな」なんて思っていたが、生活様式などを見る限りそういう次元の話ではないことに気づいた。まずスマホどころか携帯がないし、洗濯機やらもない為洗い物は手洗いだったし、話し言葉に横文字を使う人なんていなかった。
なんとも信じがたい話ではあるが、どうやらここは未来どころか現世でもない、過去であるようだった。
元の世界に戻る方法を探してもいいが、戻れる望みはほぼないと言っても過言ではないだろう。何故なら前世の私は間違いなく死んでいる為、きっと魂の入る体はもう無いだろうから。
こんなところでこれから生きていけるのだろうか、と不安な気持ちに駆られる。しかし生まれたからには生きていくしかないのだ。
吾輩は猫である。名前はなまえ。これから猫ライフを満喫……したい所存である。
1(猫生の始まり。)