群青の途
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特訓を受けていた炭治郎達が、どうやら全ての特訓を終えたみたいだ。“じょうちゅう”とやらを会得し、負っていた怪我も完治した炭治郎達は、新たに任務と向かうことになるらしい。私もそれについて行くのだ、としのぶに言われた。それには炭治郎達も賛成していた。私も、反対はしなかった。
しかし連れて行くにあたり、禰豆子と同じく日の下に出られない私をどうやって連れて行くのかが問題となった。
小さくなれるとはいえども、流石に禰豆子と同じ箱に入るのは無理だし、何よりそれだと炭治郎一人の負荷が増えてしまう。
結局、考えた末出た案は、
「というわけで善逸、なまえの入った箱を背負ってくれないか?」
炭治郎以外の誰か他の人に背負ってもらう、というものであった。誰かとは言っても、任務に同行するのは善逸と伊之助の二人しかいないのだが。
「ええーーー!! 俺でいいの!? 俺でいいなら是非!! いやむしろさせてください!! ……うふふ、なまえちゃんが俺の背中に……」
頼まれた善逸はとても楽しそうであった。そんな善逸に炭治郎は、少し冷めた目つきになり言い放つ。
「……いや、やっぱり伊之助に頼むことにするよ」
「ねぇ待ってよ!! 俺ただ喜んでただけじゃんか! それに彼奴には絶対無理だよ!」
なんやかんやと騒いだ一行であったが、結局私のことは善逸が運んでくれることに決まった。いつも少々賑やかすぎる善逸だが、これに限っては素直に有難いことだ。
そうして私達は任務へ向かうべく、きよ、すみ、なほにお見送りされながら、蝶屋敷を旅立ったのだった。
***
どうやら普段、禰豆子は箱の中にいるときは寝て過ごしているらしい。しかし私は寝ることもしないためやることがない。そんな訳でいつも通りぼんやりとしながら私は暗い箱の中に収まっていた。
外からはがやがやとした声が聞こえ、沢山人がいることが感じられた。それに混じり、時折炭治郎達の声も聞こえる。
一層大きな伊之助の声が聞こえた後、ぴぴーっと何かの甲高い音が鳴った。その音の後、いきなり箱が揺れ始める。訳は分からないが、善逸が走り出したみたいだ。
暫くすると、周りが静かになった。とはいえ、静かになったが人の気配はまだ多い。
叫ぶ伊之助の声が響き、それに対して善逸が怒鳴っているのが聞こえた。
その後、「うまい! うまい!」という誰かのハキハキとした声が大きく耳に入った。伊之助にも引けを取らない大きな声だ、と思っていると、かたんと小さく振動がした後心地よかった揺れが止まった。恐らくであるが、善逸は私が入っている箱を降ろしたみたいだ。
箱の外から聞こえる炭治郎達の声は中々に大きく、最初はそれらに意識を取られていた私であったが、それも暫くすれば慣れるもので。再び箱の中でぼんやりとし始めた私には、それらがもはや雑音となんら変わらなかった。
しかし暫くして、私は周りが異常な程静かであることに気付いた。先程までの賑やかな雰囲気は跡形もなく、まるで誰も彼もが“眠っている”かのような静けさが辺りを包んでいた。
何かがおかしい……? と私が不思議がっていると、突然近くからかたっと小さな音がした後、ぼとっと床に何かが落ちる音がした。
それが何の音なのか気になった私は、収まっている箱の扉を開け、辺りを確認した。
まず初めに目に入ったのは、地面に転がる禰豆子。そしてその次に──ぐっすりと眠っている炭治郎達の姿であった。
私も箱から這い出て、禰豆子の方へと近寄る。するとそこで見たものは、炎のような人が三つ編みの女の人の頸を掴んでいるところであった。
この人は一体何をしているんだ!
苦しむ女の人を助けるため、掴んでいる手を離してあげようと己の手を伸ばしかけ、私は気付いた。
──二人とも、寝てる?
よく見るとその二人は目を瞑り眠っていた。何故眠ってまでこんなことになっているのだろうか。これは寝相が悪いうちに入るということなのか。
その光景を禰豆子と共に「??」となりながら見つめていたが、ふと寝言を言う炭治郎に目を向ける。
「起きないと……夢だ……。起きないと……はぁ、はぁ」
悪夢を見ているのか、とても苦しそうに魘されている炭治郎。椅子に横たわり魘されている炭治郎に近づいた禰豆子が、炭治郎を起こすべくその体を揺らす。
私も寝ている炭治郎の頬をぺちぺちと軽く叩くが、依然炭治郎の様子は変わらない。
それでも炭治郎は起きず、いつものように頭を撫でてくれないことに腹を立てたのか、むーっと眉間にシワを寄せた禰豆子が眠りこける炭治郎に──頭突きをした。
ごちん! という大きな音が静かな空間に響いた。
それにぎょっとした私は、思わず禰豆子の方を見遣る。思いっきり頭突きをした禰豆子の額からは、ぼたぼたと血が流れ出てきていた。
やはり痛かったのであろう、禰豆子はぽろぽろと泣き出してしまった。
そんな禰豆子の頭を撫で、私はよしよしと慰める。
すると禰豆子はやけになったのか、目をぎゅっと瞑った。──次の瞬間、横たわる炭治郎がぼっと火を上げて燃え出した。
「──!?!?」
も、燃えてる!! と、私はいきなり燃え出した炭治郎を目を見開きただ見つめる。
どうしよう、火を消さないと、とは思いつつも衝撃の出来事に硬直した手足は、かちこちに固まりまったく動かなかった。
「──あああああ!!!」
しかしその硬直も、いきなり叫び声をあげた炭治郎により解放された。
静かな辺りに響いた唐突な大声に驚いた私達は、思わず縋るように椅子の手すりを握った。
飛び起きた炭治郎は、自らの頸に手をやり青ざめた顔をしている。
そして自らの腕に巻いてあった千切れた縄──私はその時それの存在に気付いた──を一瞥し、懐から出した切符の匂いを嗅ぐ。
炭治郎は、未だ起きない仲間達の名前を叫ぶが、それでも彼らは起きない。相当深い眠りのようだ。
座っていた座席の下にあった刀を取ると、炭治郎は他の人の腕にも巻かれている縄に目を向ける。
「禰豆子頼む、縄を燃やしてくれ!」
難しい顔をした炭治郎は、体の大きさを元に戻した禰豆子にそう頼む。
頼まれた禰豆子が手から血を流すと、たちまち眠りこけている人々に繋がれた縄が焼け落ちて行く。縄が燃え上がり、同時に彼らの持つ切符も塵と化す。
その様子を見て、私は理解した。どうやら先程炭治郎が燃えていた原因は自然発火などではなく、禰豆子の力──血鬼術であったことに。
私は自らの手を見て、思う。
「(私、役に立ててない……)」
戦えるだけじゃ、守るだけじゃ、駄目なんだ。
禰豆子のように、人を“救える”力も必要なのだと、その時自分の無力さを思い知った。
私が己の手を見つめている間、禰豆子は「むっー」と声を上げ炭治郎の服を掴んでいた。困り顔をした炭治郎は「よしよし。ごめんな、ありがとう」と禰豆子の頭を撫でてあげていた。「ほら、なまえも」と言った炭治郎は私の頭も撫でた。
しかし縄を燃やしてもまだ起きない善逸達に、不可解そうな顔をする炭治郎が声をかける。すると、先程まで眠っていた──炎のような人に頸を掴まれていた──人が手に持った錐を振り回してきた。この人は人間なのに……なんで同じ人間に攻撃をしかけるのだろう。
驚いた炭治郎がそれを回避すると、錐を構える女の人が焦った顔で叫ぶ。
ふと周りを見れば、同じく先程まで眠っていた他の人々も錐を手に構えていた。
炭治郎は私と禰豆子を背後に庇い、様子を見ている。
「ごめん。俺は戦いに行かなきゃならないから」
そう言った炭治郎は、錐を構えた人々を手刀で気絶させた。倒れゆく人達を座席に持たれさせ、彼らに対する共感の言葉をかける。
一人、炭治郎に気絶させられなかった男の人は、泣いたのだろうか、赤らんだ目で優しく炭治郎を見つめると「ありがとう。気をつけて」と感謝と気遣いの言葉をかけた。
それに対し炭治郎は「はい!」と元気よく返し、だっと勢いよく走り出した。
「禰豆子、なまえ!」
名前を呼ばれた私と禰豆子は、走り出した炭治郎に続く。
列車の扉から外へ出た炭治郎は、一瞬苦しそうに鼻を抑えるが、すぐ元に戻った。そしてこの大きな物体──列車──の窓枠を使い、これの上へと登りあがる。私と禰豆子がそれを見上げると、炭治郎が強風の中叫んだ。
「禰豆子、なまえ、来るな! 危ないから待ってろ! みんなを起こせ」
と手短に指示を伝えると、私達が乗るこの大きな物体の先頭の方へと走って行った。
残された私と禰豆子は互いに顔を見合わせて頷き、善逸達の元へと戻るべく駆け出した。
13
(それぞれの力。)