群青の途
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暗い籠の中で何時間も過ごし、気付けばもう日が昇り朝になっていた。
男の人に連れられ、私はどこか知らない──お屋敷のような場所へと連れ出されていた。
感じるのは、蓋を開けたら駄目だということと──沢山の人の気配。
外でその人達が何か話しているのが聞こえた。
「冨岡、それが鬼の入った籠か?」
「む! ということはそれが例の鬼か!」
「……そうだ」
「まあ、ちゃんと連れてこれたんですね。冨岡さんなら連れて来る前に刺しちゃうかと思いました」
男の人や女の人が何やら会話している。その会話に出てくる『鬼』とは、私のことなのだろうか。
暗く光が遮断されている籠の中で、することもない私はただぼんやりとしているだけだった。
***
「お館様様の御成です」
屋敷の中から女の子供の声が聞こえた。その声が放たれた瞬間、今までの雰囲気はいっきに引き締まった。お館様に気付いた柱達は、瞬時に地へと膝をつき敬意を示した。
「やあ、皆。少し前に柱合会議があったのに、また集めてごめんね」
「いいえ、滅相もありません」
「ありがとう、天元。今日集めた理由は、きっと皆ももう分かっているとは思うけど──『人を助ける鬼』についてだ」
そんな会話が繰り広げられる中、なまえは未だ意識を宙へと飛ばしていた。すると、暗い籠の中でなまえは、鬼になってからというもの感じたことのない眠気に襲われた。目が乾き、ぱちぱちと瞬きをする。
──眠気? 鬼は眠らないと思っていたけど、ちゃんと眠くなるのか。最近はよく動いていたから、体力の限界が来ているのかな……。
そんな風に意識を飛ばしていると、何故か男の人の声が一層響き渡って聞こえてきた。
「どうして君は、同じ仲間である鬼を倒しているんだい?」
聞いていると何だかふわふわとした気持ちになるその声に、感じていた眠気が増加する。
その男の人の声──耀哉の声が一層響き渡っていた理由は、耀哉が喋った瞬間に柱達は一斉に黙り込んだ為である。
しかし、未だぼーっとしているなまえは、その問いが自分に向けられていることに気付かなかった。
誰も喋らない為に、産屋敷には沈黙が訪れた。
何も言わないなまえのその様子に、柱達は「こいつお館様を無視するとは……」と静かに憤慨する。
しかし、それを知ってか知らずか耀哉が、
「もしかして君は喋られないのかな。禰豆子も話すことができなかったから」
と助け舟を出した。
耀哉の言葉に、何か感じるものがあったなまえはその瞬間意識をはっきりとさせた。
柱達は尊敬するお館様の言葉に「そういうことか」と納得しかけるも、それは次の瞬間すぐに否定された。
「禰……豆子……?」
小さく籠から聞こえた少女のような声。いきなり話し始めたなまえに柱達は「喋れんじゃねーか!!!」と心中で再び怒りを露わにしたのだった。
***
──何故か、その単語だけが耳に入ってきたのだ。
「──、──。禰豆子────」
ぼんやりとした意識の中、その言葉だけはっきりと聞こえた。その言葉にどこか懐かしく、何故か胸が張り裂けそうな思いを感じた。
「禰豆子に興味があるのかな?」
再び男の人が何か言っていたが、それよりも私は、心中に浮かぶ“見知らぬ人々”の名前に困惑していた。私と何か関係があるのだろうか、と思い、口に出せば思い出すかもしれないとその名前達を声に出した。
「禰豆子……炭治郎、葵枝、竹雄、茂、花子、六太……炭十郎……」
しかし、口に出してもそれらが一体誰なのかは分からなかった。
私がその名前達を口にした途端、周りの雰囲気が固くなるのを感じた。すると、心地の良い声の男の人が私に話しかけてきた。
「……炭治郎のことを知っているのかい?」
「……わから、ない……だれ……」
その問いに、私は思うままに答えた。
──だって、本当に分からないんだ。その名前達が誰なのかも、どうしてそのことについて訊かれるのかも、何故かこんなにも懐かしさを感じているのかも。
「さっきの質問をもう一度するね。君はどうして鬼を倒すのかな?」
「ひとは……まもるもの……たべるもの、じゃない……から」
男の人の質問に、私は無意識にそう答えていた。きっと無意識でなくとも私はそう言っていただろう。
──私にとって、人は守るものだ。助けるものだ。決して食べるものなんかじゃない。
私が問いに答えると、大勢の人達が集まった箇所から動揺のようなものを感じた。
「──……そうか、君は偉い子なんだね」
「…………」
“偉い子”という言葉に、様々な思いが入り混じり返事ができなかった。
私は、偉い子なんかじゃない……『あの時』も『あの時』も、“彼ら”が止めてくれなければ、私は今頃──。
すると、何だか外の方が騒がしくなってきた。何人かの気配が、こちらへと向かってきているのを感じた。
「ちょ、ちょっと君! 今は柱が召集されて……!」
「こら、止まりなさい!」
「、禰豆子! 急にどうしたんだ! 日の下は危ない!」
──どうやら、何人かの人が乱入してきたようだ。微かな蓋の隙間から目を凝らすと、そこには白いシーツを被った何かと、それを追いかける赤みがかった髪の男の子、そして更にそれらを追いかける全身黒尽くめの人達がいた。
白いシーツを被る何かが此方へと走り寄って来る。そのままシーツを被る何かは、その大きなシーツごと籠へと覆いかぶさってきた。
──そこまで近づかれてようやく気付いたが、この子も……鬼だ。人を喰らう鬼の独特な匂いがしない為、分からなかった。
覆いかぶさるシーツの鬼の後に続く、赤みがかった髪の男の子は、はあはあと息を乱している。
そしてようやく自分たちが沢山の人に注目されていることに気付いたのか、慌てた様子を見せる。
「禰豆子、……す、すみません!! 今すぐ退出します! ほら禰豆子、行くぞ!」
そうして、私が入っている籠に覆いかぶさる鬼を連れ戻そうと手を伸ばした。
しかし、その様子はすぐに鳴りを潜めた。ぴくり、と何かに反応し、赤みがかった髪の男の子が動きを止めた。
「──なまえ……? そこにいるのか……?」
先程までの大きくはっきりとした声とは違い、それは弱々しく静かな声であった。
するとその赤みがかった髪の男の子も此方へと駆け寄ってきた。
シーツの鬼が蓋に手をかけ、そして蓋を開いた。暗い籠の中は、蓋が開けられたことにより明るさを取り戻した。大きなシーツに遮られ、日の光は入って来なかった。
──それだけで、何だか日の光も届かないような暗いどん底から、手を引かれ救われたような気がした。
蓋が開けられるよく見えたその二人の顔。一人は女の子、桃色のぱっちりとした瞳に、同じく桃色の髪飾り、そして竹を咥えている。もう一人は男の子、赤みがかった髪と瞳、花札のような耳飾りに、額には火傷の跡があった。
──なんだか、二人とも随分変わったな。
なんて、会ったことのない二人に何故かそう思った。
……何でだろう、もしかしたら私は過去に似たような人達と会ったのかもしれない。
しかしいくら考えてみても、霧の蔓延る頭ではやはり思い出せなかった。
9
(私達は、きっと初めましてだ。)