群青の途
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「……あら?」
任務により傷ついた隊士達を癒し、その機能回復を手伝う蝶屋敷。
元花柱である胡蝶カナエは、柱を引退した後そこで隊士達を手当てする手伝いをしていた。
鬼狩りとして最後の任務になってしまった『上弦の弐』との戦闘により、カナエは重症──特に肺──を負った。幸い命は助かったものの、『上弦の弐』の血鬼術である氷によりカナエは肺に後遺症が残ってしまった。
そのため、鬼狩りの命ともいえる『呼吸』が使えなくなり、満足に鬼を狩ることさえも難しくなってしまったのだ。
カナエは、『呼吸』が使えなくとも鬼を狩ろう、と鬼殺を続ける意思を見せたのだが、それをカナエの妹であるしのぶが許さなかった。
しのぶは今回の一件でかなり動揺し、いつもの強気な態度はどこへやら、カナエに『これ以上はやめてくれ』と泣きついた。
いつも強気に振る舞う妹がそこまで憔悴していることを受け、流石のカナエも引き下がったのだ。
そういうことがあり、カナエは『せめて隊士達の助けになりたい』と蝶屋敷で働くことになったのだ。
夜、屋敷内を歩いていたカナエは、見たことのあるような顔に出会い、足を止めた。
見たことのあるような顔、その主は──『鬼を連れた隊士』が連れている鬼、禰豆子であった。
声をかけられた禰豆子は、大きな目をぱちくりとさせながら顔を傾げた。
「あなたは……禰豆子ちゃん?」
「むー!」
「そうなのね! よしよし、可愛い子ね〜」
カナエが確認のため禰豆子に問えば、禰豆子は元気よく返事をした。元気で子供らしいその様子に、カナエは思わず顔が緩む。カナエは、自分より小さい禰豆子の頭を撫で、微笑みかけた。
微笑ましく思うカナエであったが、一つだけ何か引っかかりを覚えていた。
それは、禰豆子の容姿についてであった。
自分の記憶が正しければ、禰豆子の容姿は、あの時助けてくれた『人を助ける鬼』に酷似している。
つぶらで大きな瞳も、月明かりに照らされる艶やかな髪も、その髪につけた髪飾りも──全てが“あの鬼の少女”にそっくりであった。
***
この山で蝶飾りの女の人を助けてから数日後、私はまだこの山に居座っていた。
あの白橡色の髪をした鬼が原因なのか、この山に他の鬼の気配は感じられなかった。しかし、気配を巧妙に隠しているのかもしれない為、まだ分からない。それに、またあの鬼が人を喰らおうとするのなら止めなくてはならない。
そういう理由から、私はまだこの山で日々を過ごしていた。
いくら探しても鬼は見つからない。やはりこの山には鬼はいないのかもしれない……──そう思ったその日、変化は訪れた。
その日も私は夜の暗い森の中を歩いていた。行く宛もなく夜の森をふらふらと彷徨っていたのだ。
すると、いきなり誰かに声をかけられた。
「おい、ここは鬼が出る。早く家へ帰れ」
──まったく気配のしなかったその人に、外面には出さないもののかなり動揺した。
声の主を見れば、その人はどこかで見たような黒い詰襟を着ており、半々の羽織りに──腰には刀らしきものを携えていた。
その人は私を保護しようとしていたのか、こちらへと歩み寄ってきた。
──この人……鬼を殺す人だ。
近づいてきた男の人が軽く目を見開いた。
距離が近くなったから、きっと私が鬼である証の瞳も見られた筈だ。
その瞬間、その人は凄まじい速度で私の両腕を拘束すると、青い刃の刀を私の頸に添えた。
生殺与奪の権を呆気なく握られ、心臓がひゅっと冷たくなるのを感じた。
──ああ、私の頸も遂に斬られるのか。
それを察した私は、未だ心臓は早鐘を打ち続けているものの、もはや抵抗するのも諦めてゆっくりと目を閉じた。
しかし、頸が斬られる生々しい音を予想していた耳が聞き取ったのは、
「ついてこい」
頸の肉が断たれる音でも、鮮血が吹き出る音でもなく、ただ低い男の声であった。
──ついてこい? 一体どこにいくつもりなの?
私はその言葉に目を丸くし、ぱちぱちと瞬きをした。
私に敵意がないことを認めたのか、その男の人は私の拘束を解いた。
そして背負っていた籠を地面に下ろし、蓋を開けた。
「入れ」
そう言い、その人は籠の中を指差した。私の体の半分ほどしかないその籠。とてもじゃないが、この中に入れるとは思えなかった。
私が困惑し、何も出来ずにいるとその人は真顔で「小さくなれるだろう」と言い放った。
……?? 小さく……?
それは、鬼は大怪我をしてもすぐに治るのだから、骨を折ってでも籠の中に入れ、ということなのだろうか。
私が恐る恐る籠の中に片足を入れ、籠の中に収まろうとすれば、その時何となく『小さくなる』という感覚を理解した。
小さくなる、と意識すると、自分の体がどんどん縮んでいくのが分かる。私の体は小さな籠に入れる程までに小さくなった。私は籠の中にすっぽりと収まることができた。
私が籠の中に収まったのを確認した男の人は、籠の蓋をゆっくりと閉めた。私を照らしていた月光が完全に遮断される。籠の中は真っ暗で、蓋の合間から微かに月の光が差し込んでいた。
籠の中でじっとしていると、途端に浮遊感が私を襲った。蓋の隙間から見ると、地面に置いたあったときよりも景色が高くなっている。どうやら来た時のように背負われたようだ。
そして外で男の人が誰かと話している声が聞こえた。
外には私達以外誰もいなかった筈だけど、一体誰と話しているのだろう?
再び蓋の合間から外を覗いてみるが、その声の主の姿は見えなかった。
「お館様へ報告してくれ」
「了解ジャ〜……」
二人(?)の会話が終わると、外からばさばさと羽音が聞こえた。視界の淵に、黒い鳥が飛んで行くのを見た。黒い鳥というのは、言わずもがな烏のことである。
……この人、今烏と会話してた……?
人らしき気配はやはりしないし、それがもし人だったとして、その人物が去った気配もしない。一つ分かったのは、烏が飛んでいってから男の人は話すのをやめたということだけだった。
途端、足が土を蹴る音と共に籠が激しく揺れた。いきなりの衝撃に私は驚き、何事だと外を見れば、夜の森の景色がすごい速さで通り過ぎていく。どうやら、男の人が移動を始めたようだ。
初めはその物珍しい光景に興味津々であったが、それが何時間も続けば流石に飽きてくる。
景色を見るのに飽きた私は、その後男の人が目的地に着くまでずっと籠の中でぼーっと宙を見て過ごしていた。
8
(任務成功。直ちに帰還せよ。)