人見知りのサナの話
自分が自分でなければ、どれだけ幸せだっただろう。
薄暗い部屋、ベッドの海に深く沈み込みながら、私はいつもの「反省会」を始める。
今日、ククイ博士に向けてしまった怯えた視線。
街の人に声をかけられた時、喉に張り付いて出てこなかった言葉。
物心ついた時から、世界は私にとって眩しすぎた。人の視線はナイフのように心の奥を抉り、歳を重ねるごとに、普通に呼吸をすることさえ贅沢な技術のように思えてくる。
カントーからこの南国アローラへ、半ば放り出されるようにやってきた。音沙汰のない両親。きっと、持て余したのだ。話すことも、笑うことも、外に出ることさえ満足にできない「出来損ない」の娘を。
「……いっそ、消えてしまえたら」
そう呟くたび、胸の奥に冷たい刃を突き立てられたような痛みが走る。けれど、残酷なほど規則正しく刻まれる心拍が、死ぬことすら許してくれない。私は消える勇気すらない、救いようのない臆病者だ。
コンコン、と。
不意に響いたノックの音に、心臓が跳ねる。
まただ。体調が悪いと嘘をついて、一日中部屋に閉じこもっていた私を、博士は叱りに来たんだ。
「サナ? 起きているかい?」
ドア越しに届く声は、いつもより低く、重く響いた。
怖い。怒鳴られるかもしれない。見捨てられるかもしれない。謝らなきゃいけないのに、喉が痙攣して、音にならない悲鳴がせり上がる。
「っ、ぅ……あ、あう……っ」
パニックで視界が歪む。けれど、博士は決して無理にドアを開けようとはしなかった。彼は知っているのだ。踏み込まれることが、今の私にとっては何よりも鋭い凶器になることを。
「サナ、大丈夫。まずは深呼吸だ。ゆっくり吸って……そう、吐いてごらん」
暗闇の中で、その声だけが唯一の錨(いかり)だった。
言われた通りに酸素を肺に送り込むと、焼けるような胸の痛みが、ほんの少しだけ引いていく。
「……落ち着いたかい。僕は怒ってなんていないさ。ただ、少しだけ話をしたいと思ってね」
「……っ、めんなさい……ごめんなさい……」
やっと絞り出したのは、うわごとのような謝罪だった。
彼が怒っていないとしても、私の存在そのものが、彼の優しさを擦り減らしている。その罪悪感が、涙になって溢れ出した。
扉の向こうで、博士が小さく息をつく気配がした。
「謝らなくていいんだ、サナ。君がそこにいて、呼吸をしてくれている。俺にとっては、それだけで十分なんだぜ」
その言葉は、アローラの夜風のように優しく、私の凍りついた心をゆっくりと溶かしていった。
薄暗い部屋、ベッドの海に深く沈み込みながら、私はいつもの「反省会」を始める。
今日、ククイ博士に向けてしまった怯えた視線。
街の人に声をかけられた時、喉に張り付いて出てこなかった言葉。
物心ついた時から、世界は私にとって眩しすぎた。人の視線はナイフのように心の奥を抉り、歳を重ねるごとに、普通に呼吸をすることさえ贅沢な技術のように思えてくる。
カントーからこの南国アローラへ、半ば放り出されるようにやってきた。音沙汰のない両親。きっと、持て余したのだ。話すことも、笑うことも、外に出ることさえ満足にできない「出来損ない」の娘を。
「……いっそ、消えてしまえたら」
そう呟くたび、胸の奥に冷たい刃を突き立てられたような痛みが走る。けれど、残酷なほど規則正しく刻まれる心拍が、死ぬことすら許してくれない。私は消える勇気すらない、救いようのない臆病者だ。
コンコン、と。
不意に響いたノックの音に、心臓が跳ねる。
まただ。体調が悪いと嘘をついて、一日中部屋に閉じこもっていた私を、博士は叱りに来たんだ。
「サナ? 起きているかい?」
ドア越しに届く声は、いつもより低く、重く響いた。
怖い。怒鳴られるかもしれない。見捨てられるかもしれない。謝らなきゃいけないのに、喉が痙攣して、音にならない悲鳴がせり上がる。
「っ、ぅ……あ、あう……っ」
パニックで視界が歪む。けれど、博士は決して無理にドアを開けようとはしなかった。彼は知っているのだ。踏み込まれることが、今の私にとっては何よりも鋭い凶器になることを。
「サナ、大丈夫。まずは深呼吸だ。ゆっくり吸って……そう、吐いてごらん」
暗闇の中で、その声だけが唯一の錨(いかり)だった。
言われた通りに酸素を肺に送り込むと、焼けるような胸の痛みが、ほんの少しだけ引いていく。
「……落ち着いたかい。僕は怒ってなんていないさ。ただ、少しだけ話をしたいと思ってね」
「……っ、めんなさい……ごめんなさい……」
やっと絞り出したのは、うわごとのような謝罪だった。
彼が怒っていないとしても、私の存在そのものが、彼の優しさを擦り減らしている。その罪悪感が、涙になって溢れ出した。
扉の向こうで、博士が小さく息をつく気配がした。
「謝らなくていいんだ、サナ。君がそこにいて、呼吸をしてくれている。俺にとっては、それだけで十分なんだぜ」
その言葉は、アローラの夜風のように優しく、私の凍りついた心をゆっくりと溶かしていった。