もしも⚪︎⚪︎だったら?
アローラの暖かな潮風は、いつの間にかこの部屋から閉め出されていた。
窓は常に施錠され、遮光カーテンが重く下りている。サナが外界と繋がる唯一の手段は、ククイの語る「外の様子」だけになっていた。
【極秘管理記録:深夜】
状態: 完全隔離による心理的再構築。
目的: 外部刺激の排除、および「ククイ」という存在の唯一無二化。
分析: サナの脆さは、不確定な外部要素によって加速する。彼女を守るためには、俺が彼女の五感すべてを支配し、濾過された情報だけを与えるのが最も効率的かつ人道的な処置である。
「サナ、薬の時間だ。……そんなに怯えた目で見ないでくれ。俺が君に、毒なんて盛るはずがないだろう?」
ククイの声は、以前と変わらず穏やかで、太陽のような明るさを保っている。だが、その瞳の奥には、逃げ場のない執着が沈殿していた。
サナは、シャツの襟を震える指で握りしめ、差し出された水に唇を寄せた。
「……はかせ、……お外、どうなってるの……? ……みんな、……わたしのこと……」
「外か。ひどい嵐だよ。君が今外に出たら、その小さな身体なんて一瞬で壊れてしまう。……君を探している奴なんて、もう誰もいない。……悲しいけれど、それが現実なんだ。でも、安心していいぞ。俺だけは、君を絶対に捨てない」
ククイはサナの頬を、壊れ物を愛でるように指先でなぞった。
布団に包まれた彼女の脚には、自力で歩くことを忘れさせるための、あるいは「歩く必要がない」と思わせるための、過剰なほど手厚いケアが施されている。
「……わたし、……ずっとここに、……いなきゃいけないの……?」
「『いなきゃいけない』じゃない。『いていい』んだ。サナ。……君を苦しめる病気も、君を見捨てた冷たい世界も、ここには入ってこれない。ここは俺たちが作った、世界で一番安全な『カプセル』なんだからな」
ククイは、サナが飲み干したグラスを受け取ると、彼女の細い手首に指を当て、脈拍を計った。それは診察という名の、所有権の確認だった。
『外部環境との遮断に成功。
彼女の不安は、俺というフィルターを通すことで、すべて「感謝」と「服従」に変換される。
時折見せる逃避の兆候は、生理的な攪乱(微熱の付与など)によって抑制可能。
……俺の胸で泣きじゃくる彼女の温度。
この熱を、誰にも、何にも奪わせるつもりはない。
たとえ彼女が俺を憎んだとしても、死の影に怯えていたあの頃よりは、今の彼女の方がずっと幸福なはずだ。
俺が彼女の酸素になり、彼女の鼓動になる。
この実験――愛という名の完全管理――に、終わりの結末など存在しない。』
「さあ、おやすみ、サナ。明日も、明後日も、十年後も。……目を開けた時、君の前にいるのは、俺だけでいい」
ククイは、サナの意識が薬の影響でゆっくりと遠のいていくのを、満足げな微笑みを浮かべて見守り続けた。
窓の外で、本当は抜けるような青空が広がっていることを、彼女が知る必要はもう二度とない。
窓は常に施錠され、遮光カーテンが重く下りている。サナが外界と繋がる唯一の手段は、ククイの語る「外の様子」だけになっていた。
【極秘管理記録:深夜】
状態: 完全隔離による心理的再構築。
目的: 外部刺激の排除、および「ククイ」という存在の唯一無二化。
分析: サナの脆さは、不確定な外部要素によって加速する。彼女を守るためには、俺が彼女の五感すべてを支配し、濾過された情報だけを与えるのが最も効率的かつ人道的な処置である。
「サナ、薬の時間だ。……そんなに怯えた目で見ないでくれ。俺が君に、毒なんて盛るはずがないだろう?」
ククイの声は、以前と変わらず穏やかで、太陽のような明るさを保っている。だが、その瞳の奥には、逃げ場のない執着が沈殿していた。
サナは、シャツの襟を震える指で握りしめ、差し出された水に唇を寄せた。
「……はかせ、……お外、どうなってるの……? ……みんな、……わたしのこと……」
「外か。ひどい嵐だよ。君が今外に出たら、その小さな身体なんて一瞬で壊れてしまう。……君を探している奴なんて、もう誰もいない。……悲しいけれど、それが現実なんだ。でも、安心していいぞ。俺だけは、君を絶対に捨てない」
ククイはサナの頬を、壊れ物を愛でるように指先でなぞった。
布団に包まれた彼女の脚には、自力で歩くことを忘れさせるための、あるいは「歩く必要がない」と思わせるための、過剰なほど手厚いケアが施されている。
「……わたし、……ずっとここに、……いなきゃいけないの……?」
「『いなきゃいけない』じゃない。『いていい』んだ。サナ。……君を苦しめる病気も、君を見捨てた冷たい世界も、ここには入ってこれない。ここは俺たちが作った、世界で一番安全な『カプセル』なんだからな」
ククイは、サナが飲み干したグラスを受け取ると、彼女の細い手首に指を当て、脈拍を計った。それは診察という名の、所有権の確認だった。
『外部環境との遮断に成功。
彼女の不安は、俺というフィルターを通すことで、すべて「感謝」と「服従」に変換される。
時折見せる逃避の兆候は、生理的な攪乱(微熱の付与など)によって抑制可能。
……俺の胸で泣きじゃくる彼女の温度。
この熱を、誰にも、何にも奪わせるつもりはない。
たとえ彼女が俺を憎んだとしても、死の影に怯えていたあの頃よりは、今の彼女の方がずっと幸福なはずだ。
俺が彼女の酸素になり、彼女の鼓動になる。
この実験――愛という名の完全管理――に、終わりの結末など存在しない。』
「さあ、おやすみ、サナ。明日も、明後日も、十年後も。……目を開けた時、君の前にいるのは、俺だけでいい」
ククイは、サナの意識が薬の影響でゆっくりと遠のいていくのを、満足げな微笑みを浮かべて見守り続けた。
窓の外で、本当は抜けるような青空が広がっていることを、彼女が知る必要はもう二度とない。