もしも⚪︎⚪︎だったら?
視界が熱でドロドロに溶け出すような、酷い高熱の夜だった。
サナはベッドの中で荒い息を吐きながら、絶え間なく襲いかかる悪寒と熱の波に耐えていた。ククイが一時的に冷やしタオルを取りに階下へ降りた、わずかな静寂の間。
ふと、ベッドの脇で小さな気配がした。
「わん……」
心配そうに前脚をベッドの縁にかけ、サナを覗き込んでいたのはイワンコだった。首の岩をカチカチと小さく鳴らし、濡れた鼻先をサナの手首にそっと押し付けてくる。
サナは朦朧とする意識の中、熱で火照った手でイワンコの頭をすがるように撫でた。
「……どこにも、行かないで……っ。……側に、いて……」
うわごとのような、消え入りそうな声。
けれど、その言葉を聞いた瞬間、イワンコはピンと耳を立て、覚悟を決めたように「くぅん」と短く鳴いた。そのままベッドの上へ飛び乗ると、サナの首元にしっかりと自身の身体を丸めて密着させ、まるで小さな守護神のように一歩も動かなくなった。
――そして、翌朝。
「……ん……」
ふっと身体が軽くなった感覚で、サナは目を覚ました。
昨夜の猛烈な熱は嘘のように引き、喉の痛みも引いている。久しぶりにまともな朝を迎えられたことにホッと胸を撫で下ろしたサナだったが、すぐに身体の右側に重い「塊」があることに気づいた。
「……え?」
見下ろすと、イワンコがサナの脇腹にこれでもかと密着していた。
ただ寄り添っているレベルではない。サナの服の裾をぎゅっと前脚で抱え込み、逃がさないとばかりに全身の体重を預けて固まっている。
サナが少しでも身体を動かそうとすると、イワンコはパチッと目を開け、「ワンッ!」と力強く鳴いて、さらにぴたりと身体を押し付けてきた。
「あ、あはは……イワンコ、どうしたの? 重いよ……?」
そこへ、朝の検温のためにククイがロフトの階段を上がってきた。ご飯の入ったボウルを手に持っている。
「おお、サナ、熱は引いたみたいだな! ……イワンコ、朝飯だぞ。いつまでそこにいるんだ?」
ククイがボウルを振って音を立てても、イワンコはサナから離れようとしない。それどころか、「俺には大事な使命があるんだぜ」と言わんばかりに胸を張り、サナのガードに徹している。
サナは首をかしげ、困惑したようにイワンコとククイを見比べた。
「なんだか今朝のイワンコ、すごく重装備というか……私にぴったりくっついて離れてくれないんです。何かあったのかな?」
サナには、昨夜の記憶がさっぱり抜け落ちていた。自分がうなされながらイワンコに何をお願いしたのか、全く覚えていないのだ。
それを見たククイは、思わず「ははっ!」と大きな声をあげて笑い出した。
「覚えてないのかい? 昨日の夜、熱で泣きそうになりながら『どこにも行かないで、側にいて』って、イワンコに必死に頼み込んでいたのはサナだぜ」
「え……っ!?」
サナの顔が、今度は熱とは違う理由で一気に真っ赤に染まった。
「わ、私、そんな恥ずかしいこと言いました……!?」
「言ったさ。だからイワンコはな、サナとの『男の約束』を守るために、一晩中ずっとこうして警護してくれていたんだよ」
ククイが可笑しそうにイワンコの頭を撫でると、イワンコは誇らしげに「ふんす!」と鼻を鳴らし、照れるサナの頬にザラリとした舌でペロリと舐めついた。
「あ、ありがとう、イワンコ……。でも、もう熱は下がったから、大丈夫だよ……?」
説得しようとするサナだったが、イワンコはどこ吹く風で、今度はサナの膝の上にどっりと丸まり直した。
朝の光が差し込む部屋で、真っ赤になって困り果てるサナと、約束を果たし続けて満足気なイワンコ。そんな二人を、ククイは心から愛おしそうに、温かな眼差しで見守っていた。
サナはベッドの中で荒い息を吐きながら、絶え間なく襲いかかる悪寒と熱の波に耐えていた。ククイが一時的に冷やしタオルを取りに階下へ降りた、わずかな静寂の間。
ふと、ベッドの脇で小さな気配がした。
「わん……」
心配そうに前脚をベッドの縁にかけ、サナを覗き込んでいたのはイワンコだった。首の岩をカチカチと小さく鳴らし、濡れた鼻先をサナの手首にそっと押し付けてくる。
サナは朦朧とする意識の中、熱で火照った手でイワンコの頭をすがるように撫でた。
「……どこにも、行かないで……っ。……側に、いて……」
うわごとのような、消え入りそうな声。
けれど、その言葉を聞いた瞬間、イワンコはピンと耳を立て、覚悟を決めたように「くぅん」と短く鳴いた。そのままベッドの上へ飛び乗ると、サナの首元にしっかりと自身の身体を丸めて密着させ、まるで小さな守護神のように一歩も動かなくなった。
――そして、翌朝。
「……ん……」
ふっと身体が軽くなった感覚で、サナは目を覚ました。
昨夜の猛烈な熱は嘘のように引き、喉の痛みも引いている。久しぶりにまともな朝を迎えられたことにホッと胸を撫で下ろしたサナだったが、すぐに身体の右側に重い「塊」があることに気づいた。
「……え?」
見下ろすと、イワンコがサナの脇腹にこれでもかと密着していた。
ただ寄り添っているレベルではない。サナの服の裾をぎゅっと前脚で抱え込み、逃がさないとばかりに全身の体重を預けて固まっている。
サナが少しでも身体を動かそうとすると、イワンコはパチッと目を開け、「ワンッ!」と力強く鳴いて、さらにぴたりと身体を押し付けてきた。
「あ、あはは……イワンコ、どうしたの? 重いよ……?」
そこへ、朝の検温のためにククイがロフトの階段を上がってきた。ご飯の入ったボウルを手に持っている。
「おお、サナ、熱は引いたみたいだな! ……イワンコ、朝飯だぞ。いつまでそこにいるんだ?」
ククイがボウルを振って音を立てても、イワンコはサナから離れようとしない。それどころか、「俺には大事な使命があるんだぜ」と言わんばかりに胸を張り、サナのガードに徹している。
サナは首をかしげ、困惑したようにイワンコとククイを見比べた。
「なんだか今朝のイワンコ、すごく重装備というか……私にぴったりくっついて離れてくれないんです。何かあったのかな?」
サナには、昨夜の記憶がさっぱり抜け落ちていた。自分がうなされながらイワンコに何をお願いしたのか、全く覚えていないのだ。
それを見たククイは、思わず「ははっ!」と大きな声をあげて笑い出した。
「覚えてないのかい? 昨日の夜、熱で泣きそうになりながら『どこにも行かないで、側にいて』って、イワンコに必死に頼み込んでいたのはサナだぜ」
「え……っ!?」
サナの顔が、今度は熱とは違う理由で一気に真っ赤に染まった。
「わ、私、そんな恥ずかしいこと言いました……!?」
「言ったさ。だからイワンコはな、サナとの『男の約束』を守るために、一晩中ずっとこうして警護してくれていたんだよ」
ククイが可笑しそうにイワンコの頭を撫でると、イワンコは誇らしげに「ふんす!」と鼻を鳴らし、照れるサナの頬にザラリとした舌でペロリと舐めついた。
「あ、ありがとう、イワンコ……。でも、もう熱は下がったから、大丈夫だよ……?」
説得しようとするサナだったが、イワンコはどこ吹く風で、今度はサナの膝の上にどっりと丸まり直した。
朝の光が差し込む部屋で、真っ赤になって困り果てるサナと、約束を果たし続けて満足気なイワンコ。そんな二人を、ククイは心から愛おしそうに、温かな眼差しで見守っていた。