もしも⚪︎⚪︎だったら?
「ふふ……、博士、また大袈裟ですよ。完全に治った後、なんて」
サナは涙を拭いながら、小さく苦笑した。
「私の病気、治ったわけじゃないって……博士が一番よく知ってるはずなのに」
その言葉に、ククイは一瞬だけ表情を強張らせた。サナの言う通りだった。今の彼女は奇跡的に動けているが、それはあくまで「小康状態」が続いているだけだ。病気の根本が消え去ったわけではない。明日、あるいは一時間後には、またあの激しい高熱や目眩が彼女を襲う可能性は十分に、それも生涯にわたって付きまとってくる。
ククイが言葉を詰まらせるのを見て、サナはむしろ安心したように微笑み、彼の白衣の袖をそっと掴んだ。
「でも……だからこそ、私はここにいたいです。カントーの家じゃ、私が熱を出すと、みんな嫌な顔をした。お母さんもお父さんも、私の『次の波』が来るのを怯えて、疎ましがってた……。でも、博士は違います」
サナは顔を上げ、ククイの目を真っ直ぐに見つめた。
「博士は、私がまた動けなくなっても、当たり前みたいに美味しいスープを作ってくれる。夜が怖くなったら、ずっと隣で本を読んでてくれる。……私の身体が、ずっと『夜のまま』でも、見捨てないでいてくれる」
「サナ……」
「治らなくても、ここにいていいですか? 迷惑ばっかり、かけちゃうかもしれないけど……」
ククイの胸の奥が、熱い感情で満たされていく。
病気が治ったら愛されるのではない。五体満足で、健やかな時だけが必要とされるのではない。たとえ、一生この不自由な身体と付き合っていくのだとしても、その存在そのものを肯定される場所。それこそが、彼女が求めていた本物の「家」なのだ。
「……ああ。当たり前だぜ、サナ」
ククイはもう一度、愛おしい我が子を抱きしめるように、彼女の小さな身体を優しく、けれど強く腕の中に引き寄せた。
「君の病気が治ろうが、治るまいが、俺の覚悟は1ミリも変わらない。また熱が出たら毛布を何枚でもかけてやるし、喉が痛くなったらとっておきの蜂蜜を用意してやる。君の身体がどんな波に呑まれようと、俺が何度だってその手を掴んで、アローラの太陽の下へ引っ張り上げてやるさ」
「……うん、……ありがとう、博士」
ククイの胸に顔を埋めたサナの身体から、かつてのような強張りは消えていた。
小康状態という名の、いつ崩れるか分からない細い綱渡りの日々。それでも、この研究所には、それを一緒に歩んでくれる絶対的な守護者がいる。
窓の外では、変わらないアローラの穏やかな波の音が、二人の新しい日常の始まりを祝福するように、静かに響き渡っていた。
サナは涙を拭いながら、小さく苦笑した。
「私の病気、治ったわけじゃないって……博士が一番よく知ってるはずなのに」
その言葉に、ククイは一瞬だけ表情を強張らせた。サナの言う通りだった。今の彼女は奇跡的に動けているが、それはあくまで「小康状態」が続いているだけだ。病気の根本が消え去ったわけではない。明日、あるいは一時間後には、またあの激しい高熱や目眩が彼女を襲う可能性は十分に、それも生涯にわたって付きまとってくる。
ククイが言葉を詰まらせるのを見て、サナはむしろ安心したように微笑み、彼の白衣の袖をそっと掴んだ。
「でも……だからこそ、私はここにいたいです。カントーの家じゃ、私が熱を出すと、みんな嫌な顔をした。お母さんもお父さんも、私の『次の波』が来るのを怯えて、疎ましがってた……。でも、博士は違います」
サナは顔を上げ、ククイの目を真っ直ぐに見つめた。
「博士は、私がまた動けなくなっても、当たり前みたいに美味しいスープを作ってくれる。夜が怖くなったら、ずっと隣で本を読んでてくれる。……私の身体が、ずっと『夜のまま』でも、見捨てないでいてくれる」
「サナ……」
「治らなくても、ここにいていいですか? 迷惑ばっかり、かけちゃうかもしれないけど……」
ククイの胸の奥が、熱い感情で満たされていく。
病気が治ったら愛されるのではない。五体満足で、健やかな時だけが必要とされるのではない。たとえ、一生この不自由な身体と付き合っていくのだとしても、その存在そのものを肯定される場所。それこそが、彼女が求めていた本物の「家」なのだ。
「……ああ。当たり前だぜ、サナ」
ククイはもう一度、愛おしい我が子を抱きしめるように、彼女の小さな身体を優しく、けれど強く腕の中に引き寄せた。
「君の病気が治ろうが、治るまいが、俺の覚悟は1ミリも変わらない。また熱が出たら毛布を何枚でもかけてやるし、喉が痛くなったらとっておきの蜂蜜を用意してやる。君の身体がどんな波に呑まれようと、俺が何度だってその手を掴んで、アローラの太陽の下へ引っ張り上げてやるさ」
「……うん、……ありがとう、博士」
ククイの胸に顔を埋めたサナの身体から、かつてのような強張りは消えていた。
小康状態という名の、いつ崩れるか分からない細い綱渡りの日々。それでも、この研究所には、それを一緒に歩んでくれる絶対的な守護者がいる。
窓の外では、変わらないアローラの穏やかな波の音が、二人の新しい日常の始まりを祝福するように、静かに響き渡っていた。