世界一優しい私の主治医

「……はか、せ……」

サナはククイの白衣を両手で強く掴み、彼の胸に顔を埋めた。
彼の身体から伝わってくる、揺るぎない熱と規則正しい鼓動。それが、肋骨の奥で暴れる鋭い痛みを、外側からじっと抑え込んでくれているような気がした。

ククイはサナをしっかりと抱きとめたまま、空いた手で手際よく彼女の脈を測り、それからそっと胸元の手の位置を確認する。

「痛むのは、ちょうどこの辺りかい?」
ククイは指先で、彼女の胸の少し左側、肋骨の隙間を優しく、確かめるように押さえた。

「……っ、そこ……息を吸うと、チクチク、って……」

「なるほどな。深呼吸をすると響くか」
ククイはサナの身体をゆっくりとベッドへ横たわらせると、安心させるように不敵な笑みを浮かべた。その表情には、焦りや動揺は一切ない。

「結論から言うと、サナ。新しい大病なんかじゃないぜ。これはおそらく、連日の高熱と咳のしすぎで、肋骨の間の筋肉が一時的に炎症を起こしているんだ。――いわゆる『肋間(ろっかん)神経痛』、あるいは筋肉痛のようなものさ」

「え……? 病気が、進んだわけじゃ……ないの?」

サナは涙で濡れた目を丸くし、ククイを見上げた。
「ああ、違う。君の身体が、これまでの嵐を必死に耐え抜いた『勲章』みたいなものさ。ただでさえ細い身体だ、急激な熱のアップダウンで筋肉もびっくりしたんだろう」

ククイはサイドテーブルから温かいスープのボウルを手に取ると、スプーンで一口掬い、ふうふうと息を吹きかけてサナの唇へと運んだ。

「未知の痛みっていうのは、脳が勝手に恐怖を何倍にも膨らませちまう。だけどな、正体が分かればもう怖くないだろう? 痛むときは無理に深く息を吸わず、浅く、ゆっくり呼吸するんだ」

「……うん……」

スープが喉を通り、お腹の奥からじんわりと温かさが広がっていく。正体が「筋肉の痛み」だと分かった途端、あれほどサナを恐怖させていた胸の鋭い痛みは、不思議と和らいでいくようだった。

「これからはな、どんなに小さな違和感でも、すぐに俺に白状すること。いいね?」
ククイは空になったボウルを置くと、サナの額の汗を優しく拭い、その頭を大きな掌で包み込んだ。

「サナが一人で抱え込んでいい秘密なんて、この研究所には一つもないんだぜ。俺の耳は、君の SOS を拾うためにあるんだからな」

「……はい。ごめんなさい、博士。……ありがとう」

サナは今度こそ心からの安心感に包まれ、小さく微笑んだ。
夕闇が完全に夜の帳へと変わる頃、サナの呼吸は驚くほど穏やかなものになっていた。暗闇の恐怖を全て引き受けてくれる守護者が、すぐ隣で、その大きな手をずっと握りしめていてくれたからだ。
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