世界一優しい私の主治医
「はい……っ、よろしく、お願いします……」
サナは小さく鼻をすすりながら、何度も何度も頷いた。
背伸びをして、傷つかないように、ガッカリさせないようにと張り詰めていた心の糸が、ククイの大きな掌によって優しく解きほぐされていくようだった。
「よし! いい返事だぜ。じゃあ、まずはこのややこしい相性表を全部お掃除だな」
ククイはそう言うと、ホワイトボードのイレーザーを手に取り、先ほどまでびっしりと書かれていた文字や数式を豪快に消し去っていった。真っ白に戻っていくボードを見ていると、サナの頭のモヤモヤまで一緒に消えていくような気がした。
ククイはマーカーを一本だけ手に持つと、ボードの真ん中に、丸っこくて可愛らしいポケモンの絵をひとつ、迷いのないタッチで描き出した。
「まずはアローラの基本、こいつから行こう。サナ、このポケモンの名前は分かるかい?」
サナは涙の滲む目を凝らし、その絵を見つめた。丸い体に、大きな耳。
「えっと……トゲデマル、ですか?」
「大正解! ピンポンピンポン!」
ククイはまるで世界的な大発見を祝福するかのように大袈裟に拍手をして見せた。その陽気な姿に、サナの唇から自然と小さな笑みが溢れる。
「カントーでいうピカチュウやライチュウと同じ、電気タイプのポケモンだ。だけどな、アローラのトゲデマルには、もうひとつ別のタイプがあるんだぜ」
ククイは優しく語りかけるような口調で、トゲデマルの生態や、カントーのポケモンとの違いを、おとぎ話でも聞かせるようにゆっくりと紐解いていった。専門用語を極力使わず、サナがイメージしやすいように。時折「ここまでは大丈夫かい?」と確認を挟みながら、彼女の歩幅に完全に歩調を合わせる。
サナは、ただ純粋に「知る」ということの楽しさに胸を震わせていた。
誰かと比べる必要もない、期待に怯える必要もない。ただ、目の前の優しい先生が、自分のためだけにアローラの光を分けてくれている。
「――と、いうわけで! さっきの意地悪な問題の答えは、トゲデマルの特性『ひらいしん』でした! どうだい、こうして順を追えば、そんなに難しくないだろう?」
「はい……! すごく、よく分かりました」
サナが満面の笑みで答えると、ククイは満足そうに腕を組み、これ以上ないほど誇らしげに胸を張った。
「だろ? サナは頭がいい。俺の教え方がちょっと先走りすぎちまっただけさ。これからは、どんな小さな『?』でも俺にぶつけてくれ。それを『!』に変えるのが、俺の仕事だからな」
窓から差し込むアローラの夕日が、ホワイトボードのトゲデマルの絵と、並んで座る二人の影を温かく、どこまでも優しく照らし出していた。
サナは小さく鼻をすすりながら、何度も何度も頷いた。
背伸びをして、傷つかないように、ガッカリさせないようにと張り詰めていた心の糸が、ククイの大きな掌によって優しく解きほぐされていくようだった。
「よし! いい返事だぜ。じゃあ、まずはこのややこしい相性表を全部お掃除だな」
ククイはそう言うと、ホワイトボードのイレーザーを手に取り、先ほどまでびっしりと書かれていた文字や数式を豪快に消し去っていった。真っ白に戻っていくボードを見ていると、サナの頭のモヤモヤまで一緒に消えていくような気がした。
ククイはマーカーを一本だけ手に持つと、ボードの真ん中に、丸っこくて可愛らしいポケモンの絵をひとつ、迷いのないタッチで描き出した。
「まずはアローラの基本、こいつから行こう。サナ、このポケモンの名前は分かるかい?」
サナは涙の滲む目を凝らし、その絵を見つめた。丸い体に、大きな耳。
「えっと……トゲデマル、ですか?」
「大正解! ピンポンピンポン!」
ククイはまるで世界的な大発見を祝福するかのように大袈裟に拍手をして見せた。その陽気な姿に、サナの唇から自然と小さな笑みが溢れる。
「カントーでいうピカチュウやライチュウと同じ、電気タイプのポケモンだ。だけどな、アローラのトゲデマルには、もうひとつ別のタイプがあるんだぜ」
ククイは優しく語りかけるような口調で、トゲデマルの生態や、カントーのポケモンとの違いを、おとぎ話でも聞かせるようにゆっくりと紐解いていった。専門用語を極力使わず、サナがイメージしやすいように。時折「ここまでは大丈夫かい?」と確認を挟みながら、彼女の歩幅に完全に歩調を合わせる。
サナは、ただ純粋に「知る」ということの楽しさに胸を震わせていた。
誰かと比べる必要もない、期待に怯える必要もない。ただ、目の前の優しい先生が、自分のためだけにアローラの光を分けてくれている。
「――と、いうわけで! さっきの意地悪な問題の答えは、トゲデマルの特性『ひらいしん』でした! どうだい、こうして順を追えば、そんなに難しくないだろう?」
「はい……! すごく、よく分かりました」
サナが満面の笑みで答えると、ククイは満足そうに腕を組み、これ以上ないほど誇らしげに胸を張った。
「だろ? サナは頭がいい。俺の教え方がちょっと先走りすぎちまっただけさ。これからは、どんな小さな『?』でも俺にぶつけてくれ。それを『!』に変えるのが、俺の仕事だからな」
窓から差し込むアローラの夕日が、ホワイトボードのトゲデマルの絵と、並んで座る二人の影を温かく、どこまでも優しく照らし出していた。