世界一優しい私の主治医
パタン、と静かな音を立てて本が閉じられた。
サナはベッドの上で小さく膝を抱え、サイドテーブルの時計に目を落とす。
「……やっぱり」
漏れ出たのは、諦念の混じった深い溜息だった。
ここ1週間ほど、サナは誰にも言わずに「実験」を繰り返していた。
使うのは、お気に入りの小説やアローラの伝承が書かれた本。そして、サイドテーブルに置かれた時計の秒針。
測っていたのは、自分の脳が、意識が、ひとつの物事にどれだけ長く留まっていられるか――すなわち「集中力の持続時間」だった。
1週間前は、まだ1時間は続けて文字を追うことができていた。
それが5日前には45分になり、一昨日には30分。
そして今日は……わずか15分で、文字がチカチカと歪んで意味を結ばなくなり、激しい疲労感が脳を支配してしまった。
自分の身体が、坂道を転がり落ちるように摩耗していくのが分かる。
起き上がっていられる時間だけでなく、思考を保つための気力すらも、病魔は容赦なく蝕んでいくのだ。
(これじゃあ、あの『スクールの日』の授業だって、もうまともに受けられない……)
本をめくる手の震えを見つめながら、サナは胸の奥が冷たくなっていくのを感じていた。
いくらククイ博士が「ここにいていい」と言ってくれても、自分の『今』はこうして少しずつ、確実に削り取られていく。
また、あの深い闇の底に引きずり戻される前兆なのだろうか。
せっかく小康状態を保っていたはずの身体が告げる冷酷な現実に、サナはただ一人、薄暗いロフトの片隅で、消え入りそうな溜息を何度も繰り返すことしかできなかった。
サナはベッドの上で小さく膝を抱え、サイドテーブルの時計に目を落とす。
「……やっぱり」
漏れ出たのは、諦念の混じった深い溜息だった。
ここ1週間ほど、サナは誰にも言わずに「実験」を繰り返していた。
使うのは、お気に入りの小説やアローラの伝承が書かれた本。そして、サイドテーブルに置かれた時計の秒針。
測っていたのは、自分の脳が、意識が、ひとつの物事にどれだけ長く留まっていられるか――すなわち「集中力の持続時間」だった。
1週間前は、まだ1時間は続けて文字を追うことができていた。
それが5日前には45分になり、一昨日には30分。
そして今日は……わずか15分で、文字がチカチカと歪んで意味を結ばなくなり、激しい疲労感が脳を支配してしまった。
自分の身体が、坂道を転がり落ちるように摩耗していくのが分かる。
起き上がっていられる時間だけでなく、思考を保つための気力すらも、病魔は容赦なく蝕んでいくのだ。
(これじゃあ、あの『スクールの日』の授業だって、もうまともに受けられない……)
本をめくる手の震えを見つめながら、サナは胸の奥が冷たくなっていくのを感じていた。
いくらククイ博士が「ここにいていい」と言ってくれても、自分の『今』はこうして少しずつ、確実に削り取られていく。
また、あの深い闇の底に引きずり戻される前兆なのだろうか。
せっかく小康状態を保っていたはずの身体が告げる冷酷な現実に、サナはただ一人、薄暗いロフトの片隅で、消え入りそうな溜息を何度も繰り返すことしかできなかった。