世界一優しい私の主治医
「ねぇ、博士……。今日、イワンコと一緒にベッドで寝てもいい?」
ロフトのベッドから、サナが少し甘えるような、けれど切実な瞳でそんなお願いをしてきた。体調が優れない夜、大好きなポケモンにそばにいてほしいと思うのは当然の心理だ。イワンコもサナのことが大好きで、下のリビングから「わん!」と嬉しそうに尻尾を振っている。
しかし、その言葉を聞いた瞬間、ククイは顎に手を当てて「うーん……」と深く唸ってしまった。
(困ったな。気持ちは痛いほど分かるんだが……)
イワンコは非常に人懐っこく、パートナーとしては最高だ。だが、生物学的な特徴として、イワンコの首回りには硬く鋭い岩の棘(とげ)がある。
親愛の情を示すために首を擦りつける『じゃれつく』が彼らの習性なのだが、ただでさえ今のサナは体調が脆く、皮膚もデリケートだ。眠っている間にイワンコが寝返りを打ち、その鋭い棘が彼女の細い肌を傷つけてしまったら目も当てられない。自傷の痕や、こないだ作ったばかりの痣がある身体に、これ以上の傷を増やすわけにはいかないのだ。
「イワンコと寝たい、か。……サナ、気持ちはすごくよく分かるんだが、ちょっと作戦会議が必要だぜ」
ククイはベッドの傍らに腰掛け、困ったように頭を掻いた。
「イワンコの首にあるあの棘、あれは結構硬いだろ? あいつ、寝相が悪いと悪気なくグイグイ押し付けてくるからな。今のサナの身体に、もしあの棘が刺さったりしたら大変だ」
「あ……」
サナは言われて初めて気づいたように、少しだけ寂しそうに視線を落とした。
「そう、ですよね。イワンコに悪気はないのに、私が怪我しちゃったら、イワンコも悲しんじゃう……。ごめんなさい、無理なこと言って」
「謝るな、サナ。諦めるのはまだ早いぜ。俺はこれでも、アローラのポケモンの生態に一番詳しい博士だからな」
ククイはポンと胸を叩くと、悪戯っぽく微笑んだ。
何か良い方法は無いかと、脳内のデータファイルを高速で検索する。首の棘を一時的に保護する方法――。
「よし、こうしよう」
ククイは階下へ降りると、お気に入りの厚手で清潔なフリース素材のスポーツタオルと、伸縮性のある包帯を持ってきた。そしてリビングで待機していたイワンコを呼び寄せる。
「イワンコ、ちょっとの間、サナのための『特別装備』になってくれよ?」
ククイは手際よく、イワンコの首回りの棘を覆うようにフリーススカーフ風にタオルを巻き、上から優しく固定した。もこもことした襟巻きのようになったイワンコは、心なしか誇らしげに胸を張っている。
「ほら、これなら棘が直接サナに当たることはない。……それに、もう一つのアイデアだ」
ククイはイワンコを抱き上げてロフトへ戻ると、サナのベッドの『すぐ隣』に、彼のお気に入りのクッションを並べて配置した。
「イワンコはベッドのすぐ横の特等席。サナはベッドの上。これなら、サナが手を伸ばせばいつでもイワンコの柔らかい頭を撫でてやれるし、お互いの寝相で怪我をすることもない。最高のフォーメーションだろう?」
サナの目が、パッと明るくなった。
「すごい……! これなら、寂しくないし、イワンコも安全ですね」
ベッドの横に収まったイワンコは、さっそくサナの手のひらに鼻先を擦り寄せ、嬉しそうに喉を鳴らしている。サナの顔に、いつもの穏やかな笑顔が戻った。
「よし、解決だな。二人とも、仲良くおやすみ」
ククイは二人の頭を順番に撫でると、少しだけ過保護な飼い主であり主治医としての安堵を胸に、静かに部屋の明かりを消した。
ロフトのベッドから、サナが少し甘えるような、けれど切実な瞳でそんなお願いをしてきた。体調が優れない夜、大好きなポケモンにそばにいてほしいと思うのは当然の心理だ。イワンコもサナのことが大好きで、下のリビングから「わん!」と嬉しそうに尻尾を振っている。
しかし、その言葉を聞いた瞬間、ククイは顎に手を当てて「うーん……」と深く唸ってしまった。
(困ったな。気持ちは痛いほど分かるんだが……)
イワンコは非常に人懐っこく、パートナーとしては最高だ。だが、生物学的な特徴として、イワンコの首回りには硬く鋭い岩の棘(とげ)がある。
親愛の情を示すために首を擦りつける『じゃれつく』が彼らの習性なのだが、ただでさえ今のサナは体調が脆く、皮膚もデリケートだ。眠っている間にイワンコが寝返りを打ち、その鋭い棘が彼女の細い肌を傷つけてしまったら目も当てられない。自傷の痕や、こないだ作ったばかりの痣がある身体に、これ以上の傷を増やすわけにはいかないのだ。
「イワンコと寝たい、か。……サナ、気持ちはすごくよく分かるんだが、ちょっと作戦会議が必要だぜ」
ククイはベッドの傍らに腰掛け、困ったように頭を掻いた。
「イワンコの首にあるあの棘、あれは結構硬いだろ? あいつ、寝相が悪いと悪気なくグイグイ押し付けてくるからな。今のサナの身体に、もしあの棘が刺さったりしたら大変だ」
「あ……」
サナは言われて初めて気づいたように、少しだけ寂しそうに視線を落とした。
「そう、ですよね。イワンコに悪気はないのに、私が怪我しちゃったら、イワンコも悲しんじゃう……。ごめんなさい、無理なこと言って」
「謝るな、サナ。諦めるのはまだ早いぜ。俺はこれでも、アローラのポケモンの生態に一番詳しい博士だからな」
ククイはポンと胸を叩くと、悪戯っぽく微笑んだ。
何か良い方法は無いかと、脳内のデータファイルを高速で検索する。首の棘を一時的に保護する方法――。
「よし、こうしよう」
ククイは階下へ降りると、お気に入りの厚手で清潔なフリース素材のスポーツタオルと、伸縮性のある包帯を持ってきた。そしてリビングで待機していたイワンコを呼び寄せる。
「イワンコ、ちょっとの間、サナのための『特別装備』になってくれよ?」
ククイは手際よく、イワンコの首回りの棘を覆うようにフリーススカーフ風にタオルを巻き、上から優しく固定した。もこもことした襟巻きのようになったイワンコは、心なしか誇らしげに胸を張っている。
「ほら、これなら棘が直接サナに当たることはない。……それに、もう一つのアイデアだ」
ククイはイワンコを抱き上げてロフトへ戻ると、サナのベッドの『すぐ隣』に、彼のお気に入りのクッションを並べて配置した。
「イワンコはベッドのすぐ横の特等席。サナはベッドの上。これなら、サナが手を伸ばせばいつでもイワンコの柔らかい頭を撫でてやれるし、お互いの寝相で怪我をすることもない。最高のフォーメーションだろう?」
サナの目が、パッと明るくなった。
「すごい……! これなら、寂しくないし、イワンコも安全ですね」
ベッドの横に収まったイワンコは、さっそくサナの手のひらに鼻先を擦り寄せ、嬉しそうに喉を鳴らしている。サナの顔に、いつもの穏やかな笑顔が戻った。
「よし、解決だな。二人とも、仲良くおやすみ」
ククイは二人の頭を順番に撫でると、少しだけ過保護な飼い主であり主治医としての安堵を胸に、静かに部屋の明かりを消した。