世界一優しい私の主治医
夕食の片付けを終えたククイは、サナの夜の検温と水分補給のために、水の入ったグラスを手にロフトへの梯子を上がった。
部屋の扉を静かに開けた瞬間、ククイの動きがピタリと止まる。
「サナ……!?」
薄暗い部屋のなか、サナはベッドの上ではなく、板張りの床の上に直接、力なく横たわっていた。毛布も何も身に纏わず、ただ冷たい床に身体を押し付けるようにして、小さく丸まっている。
ククイは慌ててグラスをサイドテーブルに置き、彼女の傍らに膝をついた。
「どうした、サナ。ベッドから落ちたのか? 体に痛いところは……」
心配のあまり声を震わせながら、その細い肩を抱き起こそうとする。しかし、彼女の肌に触れた瞬間、掌から伝わってきたのは、尋常ではない熱の塊だった。まるで内側から燃え上がっているかのように熱い。
「はか、せ……」
サナは熱に浮かされた虚ろな瞳をうっすらと開け、掠れた声で力なく微笑んだ。
ククイは表情を険しくし、彼女を包み込むようにして抱き上げる。
「サナ、こんな冷たいところにいたら身体が余計に疲れてしまうぞ。よし、ベッドに戻って寝ようか」
「……ううん、だめ……おねがい、このままにして……」
サナはククイの白衣の袖を弱々しく掴み、拒むように首を横に振った。
「熱くて、……身体のなかが、ずっと火事みたいに熱くて……。ベッドのなかにいたら、お布団がどんどん熱くなっちゃって、苦しくて……。だから、床のすずしいところで、冷やしてたんです……」
涙目で必死に訴えるその言葉に、ククイは胸が締め付けられるような衝撃を覚えた。
これほど高い熱に晒されながら、彼女は一人で、その燃えるような苦しさに耐えかねて冷たい床を彷徨っていたのだ。
「……そうか。本当に熱かったんだな。気づいてやれなくてごめん、サナ」
ククイは彼女の小さな身体をしっかりと腕の中に抱きすくめた。床の冷たさなど微々たるもので、彼女の熱を奪うには到底足りない。
「でもな、床の上じゃ身体が痛くなって、余計に体力を奪われちゃうんだ。……よし、ベッドに特製の『氷の避難所』を作ってやるからな。だから、俺を信じてベッドに戻ろう」
ククイは彼女を優しくベッドへと横たえると、手早く動き出した。
冷凍庫から出してきたばかりの氷嚢をいくつか柔らかなタオルで包み、彼女の首の後ろ、脇の下、そして寝返りを打ってもひんやり感が続くようにシーツの下へと滑り込ませる。さらに、エアコンの風が直接当たらないよう配慮しつつ、室内の熱気を逃がすようにサーキュレーターを回した。
「ほら、どうだい? 床よりずっと冷たくて気持ちいいだろう」
ククイが濡れタオルで彼女の額を優しく拭ってやると、サナは氷の心地よさに、ようやくホッとしたように深く息を吐いた。
「……冷たくて、気持ちいい……。ありがとうございます、博士……」
「これからは、熱くて苦しい時はすぐに俺を呼ぶんだぜ。床に転がって熱と戦うなんて、そんな寂しい真似はさせないからな」
ククイは彼女の枕元に腰掛け、大きな掌で熱い手を包み込んだ。サナが完全に安心し、冷やされたシーツの中で穏やかな眠りに落ちていくまで、彼はその手を決して離さず、ずっと寄り添い続けた。
部屋の扉を静かに開けた瞬間、ククイの動きがピタリと止まる。
「サナ……!?」
薄暗い部屋のなか、サナはベッドの上ではなく、板張りの床の上に直接、力なく横たわっていた。毛布も何も身に纏わず、ただ冷たい床に身体を押し付けるようにして、小さく丸まっている。
ククイは慌ててグラスをサイドテーブルに置き、彼女の傍らに膝をついた。
「どうした、サナ。ベッドから落ちたのか? 体に痛いところは……」
心配のあまり声を震わせながら、その細い肩を抱き起こそうとする。しかし、彼女の肌に触れた瞬間、掌から伝わってきたのは、尋常ではない熱の塊だった。まるで内側から燃え上がっているかのように熱い。
「はか、せ……」
サナは熱に浮かされた虚ろな瞳をうっすらと開け、掠れた声で力なく微笑んだ。
ククイは表情を険しくし、彼女を包み込むようにして抱き上げる。
「サナ、こんな冷たいところにいたら身体が余計に疲れてしまうぞ。よし、ベッドに戻って寝ようか」
「……ううん、だめ……おねがい、このままにして……」
サナはククイの白衣の袖を弱々しく掴み、拒むように首を横に振った。
「熱くて、……身体のなかが、ずっと火事みたいに熱くて……。ベッドのなかにいたら、お布団がどんどん熱くなっちゃって、苦しくて……。だから、床のすずしいところで、冷やしてたんです……」
涙目で必死に訴えるその言葉に、ククイは胸が締め付けられるような衝撃を覚えた。
これほど高い熱に晒されながら、彼女は一人で、その燃えるような苦しさに耐えかねて冷たい床を彷徨っていたのだ。
「……そうか。本当に熱かったんだな。気づいてやれなくてごめん、サナ」
ククイは彼女の小さな身体をしっかりと腕の中に抱きすくめた。床の冷たさなど微々たるもので、彼女の熱を奪うには到底足りない。
「でもな、床の上じゃ身体が痛くなって、余計に体力を奪われちゃうんだ。……よし、ベッドに特製の『氷の避難所』を作ってやるからな。だから、俺を信じてベッドに戻ろう」
ククイは彼女を優しくベッドへと横たえると、手早く動き出した。
冷凍庫から出してきたばかりの氷嚢をいくつか柔らかなタオルで包み、彼女の首の後ろ、脇の下、そして寝返りを打ってもひんやり感が続くようにシーツの下へと滑り込ませる。さらに、エアコンの風が直接当たらないよう配慮しつつ、室内の熱気を逃がすようにサーキュレーターを回した。
「ほら、どうだい? 床よりずっと冷たくて気持ちいいだろう」
ククイが濡れタオルで彼女の額を優しく拭ってやると、サナは氷の心地よさに、ようやくホッとしたように深く息を吐いた。
「……冷たくて、気持ちいい……。ありがとうございます、博士……」
「これからは、熱くて苦しい時はすぐに俺を呼ぶんだぜ。床に転がって熱と戦うなんて、そんな寂しい真似はさせないからな」
ククイは彼女の枕元に腰掛け、大きな掌で熱い手を包み込んだ。サナが完全に安心し、冷やされたシーツの中で穏やかな眠りに落ちていくまで、彼はその手を決して離さず、ずっと寄り添い続けた。