世界一優しい私の主治医
「……ん、……ふぅ……」
サナが小さく息を吐き、重い瞼をゆっくりと持ち上げる。
視界がぼやける中で、最初に結ばれる像はいつも決まっていた。ベッドの脇にある使い込まれた木の椅子。そこに座り、ランプの灯を落としてカルテを整理している、逞しい背中。
「……ククイ、はかせ……」
掠れた声で呼ぶと、その背中がわずかに揺れ、聞き慣れた主治医の声が、朝の光よりも早く彼女に届く。
「……おはよう、サナ。いい目覚めだな」
ククイは振り返り、眼鏡を少し直しながら、いつもの快活な、それでいて声を落とした微笑みを向けた。
その姿を見た瞬間、サナの胸の奥に残っていた「夜の残り香」のような不安が、霧が晴れるように消えていく。
「……はい。……目が覚めたら、……やっぱり、博士がいてくれたから……」
サナはオレンジの花柄シャツの裾をぎゅっと握り、シーツに顔を半分埋めながら、はにかむように笑った。
彼女にとって、目覚めて最初に博士の姿を確認することは、自分が今日も「安全な場所」に帰ってこれたことを確かめる、何より大切な儀式だった。
「当たり前だろう? 俺の仕事は、君が目を開けたときに『あぁ、今日もアローラは平和だ』と思わせることなんだからな」
ククイは立ち上がり、サナの額にそっと手を当てた。夜の間、熱と戦い続けていた手のひらが、今は朝露のように心地よい。
「……博士。……博士は、いつ寝てるんですか……? 私がいつ起きても、……ずっと、そこにいてくれるから」
「ははっ、俺はポケモン博士だからな。イワンコみたいに、鼻が利くんだ。君が起きそうな気配がしたら、夢の中からでも戻ってくるさ」
サナは博士の手を、自分の小さな両手で包み込んだ。
「いつでもいてくれる」という奇跡。それが当たり前のように繰り返される毎日が、病と戦う彼女にとって、どんな高度な医療機器よりも頼もしい生命維持装置になっていた。
「……ありがとうございます。……私、……博士の顔を見ると、……『今日も生きててよかった』って、……心から思えるんです」
「あぁ。俺も、君の『おはよう』を聞くたびに、同じことを思っているぞ、サナ」
ククイはもう一度、満足そうに彼女の黒い三編みを撫でた。
『患者の情緒は極めて安定。
「目覚めの瞬間」における不安の欠如を確認。
主治医の常駐が、彼女にとって「世界の継続性」を担保する重要な要素となっている。
今後も、彼女が孤独を感じぬよう、覚醒時の見守りを最優先事項として継続する。』
窓の外では、アローラの太陽が力強く昇り始めていた。
サナは博士に支えられながら、今日という新しい一日を、まっすぐな瞳で見つめていた。
サナが小さく息を吐き、重い瞼をゆっくりと持ち上げる。
視界がぼやける中で、最初に結ばれる像はいつも決まっていた。ベッドの脇にある使い込まれた木の椅子。そこに座り、ランプの灯を落としてカルテを整理している、逞しい背中。
「……ククイ、はかせ……」
掠れた声で呼ぶと、その背中がわずかに揺れ、聞き慣れた主治医の声が、朝の光よりも早く彼女に届く。
「……おはよう、サナ。いい目覚めだな」
ククイは振り返り、眼鏡を少し直しながら、いつもの快活な、それでいて声を落とした微笑みを向けた。
その姿を見た瞬間、サナの胸の奥に残っていた「夜の残り香」のような不安が、霧が晴れるように消えていく。
「……はい。……目が覚めたら、……やっぱり、博士がいてくれたから……」
サナはオレンジの花柄シャツの裾をぎゅっと握り、シーツに顔を半分埋めながら、はにかむように笑った。
彼女にとって、目覚めて最初に博士の姿を確認することは、自分が今日も「安全な場所」に帰ってこれたことを確かめる、何より大切な儀式だった。
「当たり前だろう? 俺の仕事は、君が目を開けたときに『あぁ、今日もアローラは平和だ』と思わせることなんだからな」
ククイは立ち上がり、サナの額にそっと手を当てた。夜の間、熱と戦い続けていた手のひらが、今は朝露のように心地よい。
「……博士。……博士は、いつ寝てるんですか……? 私がいつ起きても、……ずっと、そこにいてくれるから」
「ははっ、俺はポケモン博士だからな。イワンコみたいに、鼻が利くんだ。君が起きそうな気配がしたら、夢の中からでも戻ってくるさ」
サナは博士の手を、自分の小さな両手で包み込んだ。
「いつでもいてくれる」という奇跡。それが当たり前のように繰り返される毎日が、病と戦う彼女にとって、どんな高度な医療機器よりも頼もしい生命維持装置になっていた。
「……ありがとうございます。……私、……博士の顔を見ると、……『今日も生きててよかった』って、……心から思えるんです」
「あぁ。俺も、君の『おはよう』を聞くたびに、同じことを思っているぞ、サナ」
ククイはもう一度、満足そうに彼女の黒い三編みを撫でた。
『患者の情緒は極めて安定。
「目覚めの瞬間」における不安の欠如を確認。
主治医の常駐が、彼女にとって「世界の継続性」を担保する重要な要素となっている。
今後も、彼女が孤独を感じぬよう、覚醒時の見守りを最優先事項として継続する。』
窓の外では、アローラの太陽が力強く昇り始めていた。
サナは博士に支えられながら、今日という新しい一日を、まっすぐな瞳で見つめていた。