世界一優しい私の主治医
外はあいにくの雨で、予定していた日向ぼっこも中止になってしまった。
ベッドの上で手持ち無沙汰にしているサナを少しでも元気づけようと、ククイはリビングからノートパソコンを持ってきて、彼女の枕元に置いた。
「サナ、これを見てごらん。こないだのスクールでのバトル大会の録画データだ。カキもマオも、みんなすごく良い動きをしてただろう?」
画面の中で、色鮮やかなアローラの技が飛び交う。躍動するポケモンたちと、大声を張り上げて指示を出すクラスメイトたちの姿。ククイはいつものように、バトルの解説を交えながら楽しそうに画面を指差していた。彼なりの、精一杯の気遣いだった。
しかし、画面を見つめるサナの瞳から、次第に光が消えていく。
「……っ……、……」
ふいに、サナの小さな肩が大きく震え始めた。
「サナ? どうした、画面の光が眩しかったかい?」
ククイが慌ててパソコンを閉じようとしたその時、サナの手が画面を遮るように伸び、そのままベッドにポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「……ごめんなさい、博士。……ごめんなさい……っ」
「サナ……」
「みんな、あんなにキラキラして……自分の足で立って、ポケモンと一緒に走って……。なのに、私は……」
サナは自らの細く、力が入らない脚を毛布の上から強く掴んだ。
「私はベッドから起き上がることすらできなくて、バトルどころか、外に出ることだって……。みんなが前に進んでいるのに、私だけ、ずっと同じ場所に置き去りで……。何もできない私がこれを見るのは、……辛いよ……っ」
堰を切ったように激しい嗚咽が部屋に響く。
ククイが見せてくれた映像は、確かに素晴らしかった。だからこそ、今の自分との絶望的な距離感を、残酷なほどに突きつけてきたのだ。羨ましくて、情けなくて、心が引き裂かれそうだった。
ククイは胸を締め付けられるような痛みを覚えながら、すぐにパソコンを閉じ、サイドテーブルへと遠ざけた。そして、ベッドの縁に腰掛け、泣きじゃくるサナの身体を、毛布ごとそっと抱き寄せた。
「……すまない、サナ。俺の配慮が足りなかった」
ククイの声は低く、ひどく痛みに満ちていた。
「走れなくたって、バトルができなくたって、君の価値は一ミリも変わらない。……今はまだ、エネルギーを蓄えるときだ。みんなと比べる必要なんてどこにもないんだぜ」
「でも……私、生きてるだけで、誰の役にも立ててない……」
「そんなことはない!」
ククイはサナの顔を包み込むように両手を当て、涙に濡れた瞳を真っ直ぐに見つめた。
「君がこうして生きて、俺の帰りを待っていてくれる。俺の作ったスープを『美味しい』と食べてくれる。それだけで、俺はどれだけ救われているか分からない。君は、俺がアローラで一番守りたい、大切な教え子だ」
ククイの大きな掌から、いつもと変わらない、絶対的な温もりが伝わってくる。
「焦らなくていいんだ、サナ。今はただ、俺の胸の中で泣けばいい。いつか君が、あの画面の光を『綺麗だ』と思える日が来るまで、俺がずっと、君の隣で闇を遮ってやるからな」
サナは彼の白衣に顔を埋め、声を上げて泣き続けた。雨の音が響く静かな部屋で、ククイは彼女の心が壊れてしまわないよう、ただただ優しく、その背中を撫で続けていた。
ベッドの上で手持ち無沙汰にしているサナを少しでも元気づけようと、ククイはリビングからノートパソコンを持ってきて、彼女の枕元に置いた。
「サナ、これを見てごらん。こないだのスクールでのバトル大会の録画データだ。カキもマオも、みんなすごく良い動きをしてただろう?」
画面の中で、色鮮やかなアローラの技が飛び交う。躍動するポケモンたちと、大声を張り上げて指示を出すクラスメイトたちの姿。ククイはいつものように、バトルの解説を交えながら楽しそうに画面を指差していた。彼なりの、精一杯の気遣いだった。
しかし、画面を見つめるサナの瞳から、次第に光が消えていく。
「……っ……、……」
ふいに、サナの小さな肩が大きく震え始めた。
「サナ? どうした、画面の光が眩しかったかい?」
ククイが慌ててパソコンを閉じようとしたその時、サナの手が画面を遮るように伸び、そのままベッドにポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「……ごめんなさい、博士。……ごめんなさい……っ」
「サナ……」
「みんな、あんなにキラキラして……自分の足で立って、ポケモンと一緒に走って……。なのに、私は……」
サナは自らの細く、力が入らない脚を毛布の上から強く掴んだ。
「私はベッドから起き上がることすらできなくて、バトルどころか、外に出ることだって……。みんなが前に進んでいるのに、私だけ、ずっと同じ場所に置き去りで……。何もできない私がこれを見るのは、……辛いよ……っ」
堰を切ったように激しい嗚咽が部屋に響く。
ククイが見せてくれた映像は、確かに素晴らしかった。だからこそ、今の自分との絶望的な距離感を、残酷なほどに突きつけてきたのだ。羨ましくて、情けなくて、心が引き裂かれそうだった。
ククイは胸を締め付けられるような痛みを覚えながら、すぐにパソコンを閉じ、サイドテーブルへと遠ざけた。そして、ベッドの縁に腰掛け、泣きじゃくるサナの身体を、毛布ごとそっと抱き寄せた。
「……すまない、サナ。俺の配慮が足りなかった」
ククイの声は低く、ひどく痛みに満ちていた。
「走れなくたって、バトルができなくたって、君の価値は一ミリも変わらない。……今はまだ、エネルギーを蓄えるときだ。みんなと比べる必要なんてどこにもないんだぜ」
「でも……私、生きてるだけで、誰の役にも立ててない……」
「そんなことはない!」
ククイはサナの顔を包み込むように両手を当て、涙に濡れた瞳を真っ直ぐに見つめた。
「君がこうして生きて、俺の帰りを待っていてくれる。俺の作ったスープを『美味しい』と食べてくれる。それだけで、俺はどれだけ救われているか分からない。君は、俺がアローラで一番守りたい、大切な教え子だ」
ククイの大きな掌から、いつもと変わらない、絶対的な温もりが伝わってくる。
「焦らなくていいんだ、サナ。今はただ、俺の胸の中で泣けばいい。いつか君が、あの画面の光を『綺麗だ』と思える日が来るまで、俺がずっと、君の隣で闇を遮ってやるからな」
サナは彼の白衣に顔を埋め、声を上げて泣き続けた。雨の音が響く静かな部屋で、ククイは彼女の心が壊れてしまわないよう、ただただ優しく、その背中を撫で続けていた。