世界一優しい私の主治医

チリン、チリン――。

静まり返った深夜の研究所に、か細い金属音が響いた。
デスクライトの明かりの下、顕微鏡を覗き込んでいたククイは、即座に顔を上げた。サナの枕元に置いてある、あの小さな呼び鈴の音だ。

「……サナか」

時計の針は午前2時を回ったところだった。ククイは手早く白衣を整え、足音を殺してリビングの梯子を駆け上がる。

ロフトの部屋に入ると、案の定、サナがベッドの端で小さく身を縮めていた。毛布を肩に掛け、ひどく眠そうな、それでいて申し訳なさそうな瞳でククイを見上げる。

「ごめんなさい、博士……。また、おトイレ……」
「気にするな。さあ、つかまれ」

ククイは慣れた動作でサナの細い身体を支え、ゆっくりと立ち上がらせた。
ここ最近、サナの身体はまた別の不調に見舞われていた。病気の影響か、あるいは服用している薬の副作用か、とにかくトイレに行く回数が異常に増えているのだ。夜中も、そして夜が明けるかどうかの朝方も、こうして何度も目が覚めてしまう。

ククイが支えながら廊下のトイレまで連れて行き、用を足して戻ってくるまでの短い間にも、サナの歩調は今にも眠りこけてしまいそうなほど泥のように重かった。

ベッドへ戻し、毛布を掛け直してやると、サナは力なく目を閉じながら掠れた声で呟く。

「……いつも、夜中に起こして……ごめんなさい……。博士も、眠れない、よね……」

「俺のことは気にするな。これでも体力には自信があるんだぜ。それより、サナのほうが心配だ」

ククイは彼女の額に手を当て、熱がないことを確認しながら、そっと髪を撫でた。
ククイ自身は慣れない夜勤のようなものだと割り切れるが、病床のサナにとっては、この細切れの睡眠は確実に体力を削っていた。夜中に何度も遮られるせいで、明らかな寝不足に陥っている。その証拠に、最近の彼女は日中もずっと頭がぼんやりとしていて、生気のない顔でうとうとと眠そうにしていることが多かった。

せっかく体調が良い日でも、睡魔のせいで起き上がれない。そんな悪循環がククイとしても歯痒かった。

「サナ、明日からは昼間も遠慮なく泥のように眠るといい。今は何も考えず、もう一度目を閉じるんだ」

「……ん……、ありがと、う……博士……」

サナは限界を迎えたように、すぐに深い、けれど浅い眠りの中へと落ちていった。
ククイはしばらくその場に留まり、数時間後にまた鳴るかもしれないベルの音にいつでも備えられるよう、静かに彼女の呼吸の音を数え続けていた。
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