世界一優しい私の主治医
それは、熱や目眩(めまい)といった命を脅かす大病とはまた違う、ひどく地味で、けれど確実にサナの心を削いでいく憂鬱だった。
「……また、できちゃった」
薄暗いロフトのベッドの上で、サナは自分の手のひらを見つめて呟いた。
指の側面や手のひらの皮膚の奥深くに、小さな、粟粒のような水泡がいくつも透けて見えている。汗疱(かんぽう)だった。
一度これが出始めると、皮膚の奥から湧き上がるような、じりじりと焼けるような強い痒みに襲われる。引っ掻いて潰してしまえば、今度はジュクジュクとした痛みに変わり、皮がベロベロに剥けて自分の手がボロボロになっていく。女の子として、その醜くなっていく過程を見るのは耐え難い苦痛だった。
「サナ、朝の薬の時間……おや、どうしたんだい?」
階段を上がってきたククイが、サナが自分の手を隠すように布団に潜らせたのを見逃さなかった。
ククイはベッドの傍らに腰掛け、優しく、けれど拒絶を許さない丁寧さで彼女の細い手を布団から引き出す。
「見せてごらん。……あぁ、汗疱か」
小さな水泡の群れを確認し、ククイの表情がわずかに痛ましげに曇る。
今の医学をもってしても、この汗疱がなぜ突然できるのか、明確な原因は分かっておらず、確実な予防策も存在しない。体調の波やストレス、自律神経の乱れが引き金になるとは言われているが、サナのように大病を抱えている身体にとっては、防ぎようのない不可抗力のようなものだった。
「かゆい……、博士。これ、すごく嫌。手がボロボロになっちゃう……」
「あぁ、辛いな。嫌だよな。……でも、絶対に掻いちゃ駄目だぜ」
ククイはサナの手を優しく包み込み、自分の爪で皮膚を傷つけないように諭した。
今の彼らにできるのは、水泡ができた後にステロイドの軟膏を塗り、それが自然に吸収され、枯れてなくなるのをじっと待つことだけ。これという特効薬もなく、ただ時間が過ぎるのを待つしかないという事実が、サナを余計に無力感で満たしていく。
「どうして私の身体は、普通でいてくれないんだろう……」
「サナ。これは君の心が弱いからでも、何かの罰でもない。君の身体が、一生懸命に生きようとバランスを取ろうとしてもがいている証拠なんだ」
ククイは救急箱から使い慣れた軟膏を取り出すと、指先に少しだけ取った。
「少し冷たいぞ」
優しく声をかけながら、サナの指の1本1本、水泡ができている場所に、皮膚を刺激しないようゆっくりと薬を塗り込んでいく。彼の大きな指先が、痒みで火照った彼女の皮膚を穏やかに鎮めていくようだった。
「一度に出てしまったものは、薬を塗って、嵐が過ぎ去るのを待つしかない。……でもな、待っている間、君は一人じゃない。薬を塗るのも、痒くて眠れない夜に手を握っているのも、全部俺が一緒にやってやる」
薬を塗り終えたククイは、彼女の手の甲にそっと自分の額を当てた。
「だから、絶望しないでくれ。手が荒れても、ボロボロになっても、君の価値はこれっぽっちも変わらないさ」
白衣から漂う、いつもと変わらない消毒液と温かな体温の匂い。
特効薬はない。ただ待つしかない。それでも、その孤独な時間を一緒に伴走してくれる主治医が目の前にいることだけが、サナのじくじくと痛む心にとって、唯一の救いだった。
「……また、できちゃった」
薄暗いロフトのベッドの上で、サナは自分の手のひらを見つめて呟いた。
指の側面や手のひらの皮膚の奥深くに、小さな、粟粒のような水泡がいくつも透けて見えている。汗疱(かんぽう)だった。
一度これが出始めると、皮膚の奥から湧き上がるような、じりじりと焼けるような強い痒みに襲われる。引っ掻いて潰してしまえば、今度はジュクジュクとした痛みに変わり、皮がベロベロに剥けて自分の手がボロボロになっていく。女の子として、その醜くなっていく過程を見るのは耐え難い苦痛だった。
「サナ、朝の薬の時間……おや、どうしたんだい?」
階段を上がってきたククイが、サナが自分の手を隠すように布団に潜らせたのを見逃さなかった。
ククイはベッドの傍らに腰掛け、優しく、けれど拒絶を許さない丁寧さで彼女の細い手を布団から引き出す。
「見せてごらん。……あぁ、汗疱か」
小さな水泡の群れを確認し、ククイの表情がわずかに痛ましげに曇る。
今の医学をもってしても、この汗疱がなぜ突然できるのか、明確な原因は分かっておらず、確実な予防策も存在しない。体調の波やストレス、自律神経の乱れが引き金になるとは言われているが、サナのように大病を抱えている身体にとっては、防ぎようのない不可抗力のようなものだった。
「かゆい……、博士。これ、すごく嫌。手がボロボロになっちゃう……」
「あぁ、辛いな。嫌だよな。……でも、絶対に掻いちゃ駄目だぜ」
ククイはサナの手を優しく包み込み、自分の爪で皮膚を傷つけないように諭した。
今の彼らにできるのは、水泡ができた後にステロイドの軟膏を塗り、それが自然に吸収され、枯れてなくなるのをじっと待つことだけ。これという特効薬もなく、ただ時間が過ぎるのを待つしかないという事実が、サナを余計に無力感で満たしていく。
「どうして私の身体は、普通でいてくれないんだろう……」
「サナ。これは君の心が弱いからでも、何かの罰でもない。君の身体が、一生懸命に生きようとバランスを取ろうとしてもがいている証拠なんだ」
ククイは救急箱から使い慣れた軟膏を取り出すと、指先に少しだけ取った。
「少し冷たいぞ」
優しく声をかけながら、サナの指の1本1本、水泡ができている場所に、皮膚を刺激しないようゆっくりと薬を塗り込んでいく。彼の大きな指先が、痒みで火照った彼女の皮膚を穏やかに鎮めていくようだった。
「一度に出てしまったものは、薬を塗って、嵐が過ぎ去るのを待つしかない。……でもな、待っている間、君は一人じゃない。薬を塗るのも、痒くて眠れない夜に手を握っているのも、全部俺が一緒にやってやる」
薬を塗り終えたククイは、彼女の手の甲にそっと自分の額を当てた。
「だから、絶望しないでくれ。手が荒れても、ボロボロになっても、君の価値はこれっぽっちも変わらないさ」
白衣から漂う、いつもと変わらない消毒液と温かな体温の匂い。
特効薬はない。ただ待つしかない。それでも、その孤独な時間を一緒に伴走してくれる主治医が目の前にいることだけが、サナのじくじくと痛む心にとって、唯一の救いだった。