世界一優しい私の主治医
(……このポケモンの色、さっき見たお花の色とそっくり。……こっちは、夜になると光るんだ……。すごいなぁ、アローラには不思議がいっぱい……)
サナの意識は、ページの中に描かれた深い森へと旅をしていた。背後で階段が軋む音も、扉が開く微かな気配も、今の彼女の耳には一切届いていなかった。
「おっ、熱心だな。そこは俺も好きなページだぞ」
「……っ!? ……っ、は……っ!!」
耳元で響いた、ククイの低く力強い声。
サナの肩が弾かれたように跳ね上がり、抱えていた分厚い図鑑がシーツの上に滑り落ちる。それと同時に、彼女の顔から、さっきまでの高揚した赤みが一瞬で引き、真っ白に染まった。
「……あ、……ぁ、……っ……」
サナは胸元をかきむしるように掴み、大きく口を開けて空気を求めた。
驚きによって跳ね上がった心拍に肺が追いつかず、激しい動悸が彼女の細い体を内側から揺さぶる。
「サナ!? すまない、驚かせすぎたか!」
ククイの表情が瞬時に「主治医」へと切り替わる。彼はすぐさまベッドサイドに膝をつき、倒れ込むサナの背中に手を回して、自分の胸へと引き寄せた。
「……は、かせ……、……くる、しい……っ。……しんぞう、が……とまらな、い……」
「大丈夫だ、俺のリズムに合わせろ。ゆっくり吐け、サナ。吐いて、吸うんだ。……大丈夫、俺がここにいる」
ククイの大きな掌が、サナの背中を一定のリズムでさする。彼女の足は、過呼吸気味の痙攣で小さく震えていた。
ククイは彼女の首筋に指を当て、速すぎる拍動が少しずつ凪いでいくのを、祈るような心地で確認し続けた。
数分後。
ようやくサナの呼吸が落ち着き、その瞳に焦点が戻ってきた。彼女は博士の白衣に顔を埋めたまま、情けなさに唇を噛んだ。
「……ごめんなさい、……はかせ。……びっくり、しただけで……こんなに、なっちゃって……」
「謝るな、サナ。……俺が不注意だった。君が何かに夢中になっている時は、もっとずっと手前から声をかけるべきだったな。……驚くってことは、それだけ君の心が瑞々しく動いている証拠だ。でも、今の君の体には、その『動き』が少しだけ重荷なんだな」
ククイはサナをゆっくりと横たわらせ、乱れた髪を優しく整えた。
『驚愕刺激による急激な自律神経の乱れを確認。
没頭状態にある患者への接触は、段階的なサイン(聴覚・視覚的な予兆)を伴うべきであったと猛省。
一過性の頻脈は収まったが、心筋の疲労が見られるため、本日の学習リハビリはこれにて終了とする。
驚いて目を丸くした彼女の反応に、一瞬でも「可愛い」と思ってしまった自分を恥じる。主治医として、彼女の心臓を守るための『静かなアプローチ』を徹底しなければならない。』
窓から差し込む潮風が、熱を帯びたロフトを冷やしていく。
サナは博士の手を弱々しく、けれど必死に握りしめ、落ち着きを取り戻した自分の鼓動を確かめるように、静かに目を閉じた。
サナの意識は、ページの中に描かれた深い森へと旅をしていた。背後で階段が軋む音も、扉が開く微かな気配も、今の彼女の耳には一切届いていなかった。
「おっ、熱心だな。そこは俺も好きなページだぞ」
「……っ!? ……っ、は……っ!!」
耳元で響いた、ククイの低く力強い声。
サナの肩が弾かれたように跳ね上がり、抱えていた分厚い図鑑がシーツの上に滑り落ちる。それと同時に、彼女の顔から、さっきまでの高揚した赤みが一瞬で引き、真っ白に染まった。
「……あ、……ぁ、……っ……」
サナは胸元をかきむしるように掴み、大きく口を開けて空気を求めた。
驚きによって跳ね上がった心拍に肺が追いつかず、激しい動悸が彼女の細い体を内側から揺さぶる。
「サナ!? すまない、驚かせすぎたか!」
ククイの表情が瞬時に「主治医」へと切り替わる。彼はすぐさまベッドサイドに膝をつき、倒れ込むサナの背中に手を回して、自分の胸へと引き寄せた。
「……は、かせ……、……くる、しい……っ。……しんぞう、が……とまらな、い……」
「大丈夫だ、俺のリズムに合わせろ。ゆっくり吐け、サナ。吐いて、吸うんだ。……大丈夫、俺がここにいる」
ククイの大きな掌が、サナの背中を一定のリズムでさする。彼女の足は、過呼吸気味の痙攣で小さく震えていた。
ククイは彼女の首筋に指を当て、速すぎる拍動が少しずつ凪いでいくのを、祈るような心地で確認し続けた。
数分後。
ようやくサナの呼吸が落ち着き、その瞳に焦点が戻ってきた。彼女は博士の白衣に顔を埋めたまま、情けなさに唇を噛んだ。
「……ごめんなさい、……はかせ。……びっくり、しただけで……こんなに、なっちゃって……」
「謝るな、サナ。……俺が不注意だった。君が何かに夢中になっている時は、もっとずっと手前から声をかけるべきだったな。……驚くってことは、それだけ君の心が瑞々しく動いている証拠だ。でも、今の君の体には、その『動き』が少しだけ重荷なんだな」
ククイはサナをゆっくりと横たわらせ、乱れた髪を優しく整えた。
『驚愕刺激による急激な自律神経の乱れを確認。
没頭状態にある患者への接触は、段階的なサイン(聴覚・視覚的な予兆)を伴うべきであったと猛省。
一過性の頻脈は収まったが、心筋の疲労が見られるため、本日の学習リハビリはこれにて終了とする。
驚いて目を丸くした彼女の反応に、一瞬でも「可愛い」と思ってしまった自分を恥じる。主治医として、彼女の心臓を守るための『静かなアプローチ』を徹底しなければならない。』
窓から差し込む潮風が、熱を帯びたロフトを冷やしていく。
サナは博士の手を弱々しく、けれど必死に握りしめ、落ち着きを取り戻した自分の鼓動を確かめるように、静かに目を閉じた。