世界一優しい私の主治医

午前:光の診察室
朝の光がロフトに差し込む頃、一日の始まりはククイの穏やかな診察から始まる。

「サナ、まずは今日の『音』を聴かせてくれ」

ククイは聴診器を温めてから、サナの背中にそっと当てる。サナはオレンジの花柄シャツを少しだけまくり上げ、博士のリズムに合わせてゆっくりと息を吸い込む。

「……少し、昨夜より空気の通りがいいな。いい調子だぞ」

その言葉だけで、サナの心に宿っていた朝の不安が、霧が晴れるように消えていく。ククイはカルテに「良好」の文字を書き込み、特製のパイルジュースを彼女の手渡す。それが、この部屋での「朝食の合図」だった。

午後:窓辺のフィールドワーク
午後のひととき、サナがベッドの上で図鑑を眺めていると、ククイが庭で摘んだばかりの花や、不思議な形の木の実を持って上がってくる。

「今日の標本はこれだ。ナッシーの尻尾の先にある、小さな種のような実。どうしてこんな形をしていると思う?」

「えっと……転がりやすいから、でしょうか……?」

ククイはサナの隣に座り、命の仕組みについて熱心に、けれど優しく語って聞かせる。サナは、白いパンツの膝の上に資料を広げ、博士の話を夢中で書き留める。
病室という狭い世界にいても、ククイが運んでくる「アローラの断片」が、彼女の心をどこまでも遠い海や森へと連れ出してくれた。

夕暮れ:静かな共有
夕刻、空が紫とオレンジのグラデーションに染まる時間。サナの体力が少し落ち、微熱がぶり返し始める魔の時間でもある。

「……ククイ博士。……お仕事、お休みしなくていいんですか?」

「これが俺の仕事だ。アローラの命を見守ること。……今は、目の前の君が俺の宇宙のすべてだよ」

ククイはサナの黒い三編みを優しく解き、髪を梳きながら、今日一日の出来事を静かに振り返る。
サナは博士の白衣の裾を小さく握り、沈みゆく夕日を眺める。会話が途切れても、二人の間には気まずさなどない。ただ、互いの呼吸が重なり、生きているという実感が部屋を満たしていた。

深夜:約束のカルテ
夜が深まり、サナがようやく穏やかな眠りについた後。
ククイは、月の光の下で最後の一行をカルテに書き加える。

『今日という一日を、彼女は最後まで戦い抜いた。
夜の不安に怯えることもあったが、最後には笑顔で「おやすみなさい」と言えた。
彼女の眠りが、明日の光に繋がる確かな架け橋となるよう、このまま傍で見守り続ける。』

ククイはペンを置き、眠るサナの頬にそっと触れる。
そして、明日また世界で一番大きな声で「おはよう」を言うために、静かに、けれど決して目を離すことなく、彼女の「夜」を支え続けるのだった。

アローラの波音は、昨日よりもずっと、優しく響いていた。
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