世界一優しい私の主治医

(「いつもありがとうございます」じゃ、足りない。「大好きです」だけじゃ、この気持ちは伝わらない。もっと、博士が喜んでくれるような、素敵な言葉を……)

サナは、白いパンツの膝の上で何度も便箋を丸めた。
「感謝」という感情が巨大な渦となり、それを小さな文字に落とし込もうとするたびに、脳がオーバーヒートを起こしていく。視界が次第にちかちかと揺れ始め、握ったままの鉛筆が、指先から滑り落ちた。

「……あ、れ……。……なんだか、……あつい……」

トクン、トクンと、こめかみが脈打つ。
肺が苦しいわけでも、外で嵐が吹いているわけでもない。ただ、自分の心の中にある「想い」の重さに、体が耐えきれなくなったのだ。

「サナ、どうした? 静かだと思ったら……」

階下から戻ってきたククイが、机に突っ伏したサナの異変に気づき、すぐさまその額に手を当てた。

「……っ、熱いな。サナ、無理をしたのか?」

「……はかせ、……ごめんなさい。……お手紙、……書きたかったのに……。……言葉が、……見つからなくて……っ」

サナは火照った顔を伏せたまま、涙をこぼした。
ククイは、机の上に散らばった「はかせへ」とだけ書かれた何枚もの書き損じを見て、すべてを悟った。彼は大きな掌でサナの後頭部を優しく包み込み、そのまま自分の胸へと引き寄せた。

「バカだな、サナ。君の体は、嘘をつけないくらい一生懸命なんだな」

「……だって、……ちゃんと、伝えなきゃって……。……思えば思うほど、……頭が、ぐるぐるして……」

「いいか、サナ。手紙は『言葉』を贈るものじゃない。『心』を分かち合うものだ。今、こうして君が熱を出してまで俺を想ってくれたこと。その熱そのものが、俺にとってはどんな名文よりも価値のある手紙なんだぞ」

ククイはサナを抱き上げ、ゆっくりとベッドへ運んだ。
冷たいタオルで彼女の熱い額を冷やしながら、その細い指先を一本ずつ、丁寧に解きほぐしていく。

「……はかせ。……お手紙、……書けなくても、……いいですか……?」

「あぁ。言葉にするのが難しいなら、こうして手を繋いでいるだけで十分だ。俺には、君の脈拍から全部伝わっているからな」

サナは、博士の掌から伝わる絶対的な肯定感に包まれ、火照った脳がゆっくりと冷えていくのを感じた。

『知的・感情的な過負荷による一時的な発熱を確認。
高い共感性と真面目な性格が、時として彼女の脆弱な肉体に「熱」という形で負荷をかける。
今後は「何かを成し遂げること」への執着を緩和し、「ただそこに在るだけで伝わる想い」への理解を促すケアを並行する。
手紙は書けなかったが、彼女の純粋な献身を確認できたことは、主治医としての、そして一人の男としての、何よりの報酬である。』

窓の外では、アローラの夕焼けが部屋をオレンジ色に染め、サナの書けなかった便箋を優しく照らしていた。
サナは博士の手を握ったまま、想いの余韻に包まれて、穏やかな眠りへと落ちていった。
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