世界一優しい私の主治医
湯気の中に溶ける緊張と、信頼の重み
【カルテ:午後】
状態: 小康状態。平熱範囲内。
処置: 清拭(せいしき)から全身入浴への切り替え。
注意: 浴室内の急激な温度変化によるヒートショック、および起立性低血圧の防止。
「……ふわぁ、……温かい……。ククイ博士、……すごく、気持ちいいです……」
サナはククイの逞しい腕に支えられながら、慎重に湯船へと体を沈めた。
肌を刺さない柔らかなお湯の感触に、サナは思わずうっとりと目を閉じた。
「あぁ。温度は38度に設定してある。君の体力を奪いすぎず、かつ芯まで温めるのに最適な温度だぞ」
ククイはサナが湯船の中で滑り落ちないよう、背中をしっかりと支えながら、手桶で優しく肩に湯をかけ続けた。
浴室には、アローラの花々を思わせる、甘く爽やかな香りの湯気が立ち込めている。
「……指先が、……じんわりします。……私、……生きてるんだなって……改めて、思います……」
サナの声は、湯気に溶けていつもより柔らかく響いた。
普段、病魔と戦うために強張っていた全身の筋肉が、温かな水圧に抱かれて、ひとつ、またひとつと解き放たれていく。
「そうだな。……清潔に保つのは医療の基本だが、それ以上に『心地よい』と感じることは、どんな薬よりも免疫力を高めてくれるんだ」
ククイは、サナの黒い髪を濡らさないようにまとめ、細い首筋に温かいタオルを当てた。
「……サナ、のぼせる前に上がるぞ。……髪を洗うのは、上がってからリビングでゆっくりやろう」
「……はい。……もうちょっとだけ、……このまま……。博士の手が、……温かいから……」
サナは、湯船を支えるククイの腕に、そっと自分の頭を預けた。
自分一人では、お風呂に入ることさえできない。けれど、その「不自由さ」を、ククイは一切の迷いなく、当たり前の「ケア」として包み込んでくれる。
「あぁ、あと1分だけな。……上がったら、冷たいジュースを用意してあるぞ」
ククイは、赤ん坊をあやすような優しい手つきで、サナの細い肩をさすり続けた。
『入浴によるリラクゼーション効果を確認。
抹消血管の拡張に伴う血流改善、および精神的な抑うつの緩和。
介助を「恥」や「負担」と感じさせないよう、常に医学的・専門的なトーンを交えつつ、情緒的な安心感を提供。
入浴後は急激な体温低下を防ぐため、速やかな更衣と水分補給を実施する。』
窓から差し込む西日が、浴室の湿った空気を黄金色に染め上げていた。
サナは、博士の腕の中で、久しぶりに自分を縛り付けていた病の鎖が、ふわりと軽くなったような錯覚を覚えていた。
【カルテ:午後】
状態: 小康状態。平熱範囲内。
処置: 清拭(せいしき)から全身入浴への切り替え。
注意: 浴室内の急激な温度変化によるヒートショック、および起立性低血圧の防止。
「……ふわぁ、……温かい……。ククイ博士、……すごく、気持ちいいです……」
サナはククイの逞しい腕に支えられながら、慎重に湯船へと体を沈めた。
肌を刺さない柔らかなお湯の感触に、サナは思わずうっとりと目を閉じた。
「あぁ。温度は38度に設定してある。君の体力を奪いすぎず、かつ芯まで温めるのに最適な温度だぞ」
ククイはサナが湯船の中で滑り落ちないよう、背中をしっかりと支えながら、手桶で優しく肩に湯をかけ続けた。
浴室には、アローラの花々を思わせる、甘く爽やかな香りの湯気が立ち込めている。
「……指先が、……じんわりします。……私、……生きてるんだなって……改めて、思います……」
サナの声は、湯気に溶けていつもより柔らかく響いた。
普段、病魔と戦うために強張っていた全身の筋肉が、温かな水圧に抱かれて、ひとつ、またひとつと解き放たれていく。
「そうだな。……清潔に保つのは医療の基本だが、それ以上に『心地よい』と感じることは、どんな薬よりも免疫力を高めてくれるんだ」
ククイは、サナの黒い髪を濡らさないようにまとめ、細い首筋に温かいタオルを当てた。
「……サナ、のぼせる前に上がるぞ。……髪を洗うのは、上がってからリビングでゆっくりやろう」
「……はい。……もうちょっとだけ、……このまま……。博士の手が、……温かいから……」
サナは、湯船を支えるククイの腕に、そっと自分の頭を預けた。
自分一人では、お風呂に入ることさえできない。けれど、その「不自由さ」を、ククイは一切の迷いなく、当たり前の「ケア」として包み込んでくれる。
「あぁ、あと1分だけな。……上がったら、冷たいジュースを用意してあるぞ」
ククイは、赤ん坊をあやすような優しい手つきで、サナの細い肩をさすり続けた。
『入浴によるリラクゼーション効果を確認。
抹消血管の拡張に伴う血流改善、および精神的な抑うつの緩和。
介助を「恥」や「負担」と感じさせないよう、常に医学的・専門的なトーンを交えつつ、情緒的な安心感を提供。
入浴後は急激な体温低下を防ぐため、速やかな更衣と水分補給を実施する。』
窓から差し込む西日が、浴室の湿った空気を黄金色に染め上げていた。
サナは、博士の腕の中で、久しぶりに自分を縛り付けていた病の鎖が、ふわりと軽くなったような錯覚を覚えていた。