世界一優しい私の主治医
研究所に、風が吹き抜ける静かな音だけが響いていた。
ククイが外出して数時間。サナはロフトのベッドの上で、小さく丸まりながら冷や汗を流していた。
原因は、はっきりとわかっている。
ククイは出かける前、「お腹に優しいお粥を作っておいたから、お腹が空いたら温めて食べてくれ」と優しく声をかけてくれていたのだ。けれど、少し体調が良い気がしたサナは、キッチンにあった少し固めのパンに手を伸ばしてしまった。ほんの少しの油断だった。
それが、弱り切っていたサナの胃腸にはあまりに重すぎた。
食べた直後から、胃をギュッと搾り取られるような激しい痛みが襲い、何度もトイレへ駆け込む羽目になった。
下してしまった腹部の激痛は一向に治まらず、ベッドに横になってもお腹の奥が変な感じでぐにゃぐにゃと痛み、休まることがない。かといって起き上がって座ってみても、何度も往復したせいでお尻まで痛く、体勢をどう変えても痛みの逃げ場がどこにもなかった。
(どうしよう……痛い……博士、早く帰ってきて……)
涙で視界が歪む。言うことを聞かない身体と、ククイの言いつけを守らなかった後悔が、波のように押し寄せてサナを苛んだ。
「ただいま! サナ、体調はどうだ?」
玄関の扉が開き、聞き慣れた力強い声が下に響いた瞬間、サナの緊張の糸がプツリと切れた。
「……っ、はか……せ……」
ロフトから聞こえた掠れた声に異変を察し、ククイは一気に階段を駆け上がってきた。部屋に入った彼の目に飛び込んできたのは、顔をぐしゃぐしゃにしてお腹を抱え、ベッドの上で震えているサナの姿だった。
「サナ!? どうした、急に痛むのか!?」
ククイは即座にサナの傍らに膝をつき、その肩に手を添えた。サナはククイの白衣の裾を震える指先で固く掴み、泣きじゃくりながら途切れ途切れの声で吐き出した。
「ごめ、なさい……っ。博士が作ってくれたお粥じゃなくて……パンを食べちゃって……っ。お腹が……すごく痛くて……横になっても変な感じだし……座ってもお尻が痛くて……っ」
罪悪感と苦痛でボロボロと涙をこぼす彼女を見て、ククイはすべてを理解した。
怒る気持ちなど微塵も湧かなかった。あるのは、自分が不在の間にこの小さな身体がどれほど心細く痛みに耐えていたかという胸の痛みだけだった。
「なんだ、そんなことか……。怒ったりしないから、もう謝るな」
ククイはサナの身体をそっと抱き上げ、お腹に負担がかからないよう膝の上に優しく座らせた。
「お粥を食べなかったことより、一人でそれだけ苦しんでいたことの方がずっと心配だぜ。……つらかったな、サナ」
ククイは手早く温かいタオルを用意すると、サナの服の上から痛むお腹にそっと当て、自身の大きな掌で包み込むように温めた。
「ちょっと気分が良くなると、別のものが食べたくなる時だってあるさ。胃腸がびっくりしちゃったんだな。……大丈夫、薬も用意するし、俺がずっとついててやるからな」
お腹に伝わるじんわりとした熱と、ククイの力強い心音。そして「怒っていない」という温かな言葉に、サナは彼の胸の中で声を上げて泣いた。ククイは彼女の痛みが引き、落ち着くまで、その背中をずっと優しくさすり続けていた。
ククイが外出して数時間。サナはロフトのベッドの上で、小さく丸まりながら冷や汗を流していた。
原因は、はっきりとわかっている。
ククイは出かける前、「お腹に優しいお粥を作っておいたから、お腹が空いたら温めて食べてくれ」と優しく声をかけてくれていたのだ。けれど、少し体調が良い気がしたサナは、キッチンにあった少し固めのパンに手を伸ばしてしまった。ほんの少しの油断だった。
それが、弱り切っていたサナの胃腸にはあまりに重すぎた。
食べた直後から、胃をギュッと搾り取られるような激しい痛みが襲い、何度もトイレへ駆け込む羽目になった。
下してしまった腹部の激痛は一向に治まらず、ベッドに横になってもお腹の奥が変な感じでぐにゃぐにゃと痛み、休まることがない。かといって起き上がって座ってみても、何度も往復したせいでお尻まで痛く、体勢をどう変えても痛みの逃げ場がどこにもなかった。
(どうしよう……痛い……博士、早く帰ってきて……)
涙で視界が歪む。言うことを聞かない身体と、ククイの言いつけを守らなかった後悔が、波のように押し寄せてサナを苛んだ。
「ただいま! サナ、体調はどうだ?」
玄関の扉が開き、聞き慣れた力強い声が下に響いた瞬間、サナの緊張の糸がプツリと切れた。
「……っ、はか……せ……」
ロフトから聞こえた掠れた声に異変を察し、ククイは一気に階段を駆け上がってきた。部屋に入った彼の目に飛び込んできたのは、顔をぐしゃぐしゃにしてお腹を抱え、ベッドの上で震えているサナの姿だった。
「サナ!? どうした、急に痛むのか!?」
ククイは即座にサナの傍らに膝をつき、その肩に手を添えた。サナはククイの白衣の裾を震える指先で固く掴み、泣きじゃくりながら途切れ途切れの声で吐き出した。
「ごめ、なさい……っ。博士が作ってくれたお粥じゃなくて……パンを食べちゃって……っ。お腹が……すごく痛くて……横になっても変な感じだし……座ってもお尻が痛くて……っ」
罪悪感と苦痛でボロボロと涙をこぼす彼女を見て、ククイはすべてを理解した。
怒る気持ちなど微塵も湧かなかった。あるのは、自分が不在の間にこの小さな身体がどれほど心細く痛みに耐えていたかという胸の痛みだけだった。
「なんだ、そんなことか……。怒ったりしないから、もう謝るな」
ククイはサナの身体をそっと抱き上げ、お腹に負担がかからないよう膝の上に優しく座らせた。
「お粥を食べなかったことより、一人でそれだけ苦しんでいたことの方がずっと心配だぜ。……つらかったな、サナ」
ククイは手早く温かいタオルを用意すると、サナの服の上から痛むお腹にそっと当て、自身の大きな掌で包み込むように温めた。
「ちょっと気分が良くなると、別のものが食べたくなる時だってあるさ。胃腸がびっくりしちゃったんだな。……大丈夫、薬も用意するし、俺がずっとついててやるからな」
お腹に伝わるじんわりとした熱と、ククイの力強い心音。そして「怒っていない」という温かな言葉に、サナは彼の胸の中で声を上げて泣いた。ククイは彼女の痛みが引き、落ち着くまで、その背中をずっと優しくさすり続けていた。