世界一優しい私の主治医
高熱のせいか、頭が割れるように重い。
サナは薄やりとした意識の中で目を覚まし、瞼を押し上げようとした。
――けれど、開かない。
いくら力を込めても、瞼はピクリとも動かなかった。恐る恐る指先で触れてみると、目元がまるで別人のようにパンパンに腫れ上がり、熱を持って張りついている。高熱による強い炎症のせいだった。
(嘘……目、が開かない……)
暗闇の中でパニックになりかけたその時、階下から足音が近づいてきた。
「サナ、起きているかい? 熱の様子を見にきたぞ」
ククイの声だ。その瞬間、サナの胸を襲ったのは恐怖ではなく、猛烈な「恥ずかしさ」だった。
(ダメ、見ないで……! 今の私、絶対に不細工だもん……っ)
鏡を見なくても分かる。瞼は重く腫れ上がり、顔全体も熱で赤く浮腫んでいるはずだ。こんな痛々しくて醜い姿を、一番大好きな人に見られるなんて耐えられない。
サナは慌てて両手で顔を覆い、布団を頭まで引き被ろうとした。
「……こ、来ないで……! 博士、お願いだから、あっちに行って……っ」
「サナ? どうしたんだい、どこか痛むのか?」
サナの拒絶に、ククイの声が一気に緊迫する。足音が早まり、ベッドのすぐ脇で止まった。ククイの大きな手が、頭から被った毛布にそっと触れる。
「見ちゃダメ……! 今の私、すごく……すごく不細工なの……! 目も腫れて開かないし、変な顔だから……見ないで……っ」
布団の中から漏れる、泣きじゃくるような声。
一瞬の静寂の後、ククイの口から漏れたのは、呆れを含んだ深く優しい溜息だった。
「なんだ、そんなことか……」
「そんなことじゃないよ! 本当に酷い顔なんだから……っ」
「いいから、手を見せてくれ」
ククイは無理に布団を剥ぎ取るようなことはせず、顔を覆っているサナの冷たい手首をそっと掴んだ。そして、抵抗する彼女の手を優しく、包み込むようにして顔から遠ざける。
視界は真っ暗なままだ。ククイがどんな顔で自分を見ているのか、何も見えない。その「見えない」という事実が、サナの不安と気恥ずかしさをさらに煽った。
「不細工なもんか。……一生懸命、病気と戦ってる顔のどこが不細工なんだ?」
ククイの低く穏やかな声が、頭上から降り注ぐ。
彼は洗面所から持ってきていた冷たい濡れタオルを、手際よくサナの腫れ上がった目元にそっと沿わせた。
「ひんやりするぞ。……少し目が楽になるはずだ」
心地よい冷たさが、熱を持った瞼の痛みを和らげていく。目が見えないサナのために、ククイは次の動作に移るたび、必ず言葉をかけてくれた。
「少し身体を起こすぞ。背中を支えるからな」
「……うん」
「喉が乾いただろ。ストロー付きのコップを口元に持っていくぞ。ほら、ここだ」
唇に触れるストローの感触。サナがそれを咥えて少しずつ水を飲み干すのを、ククイは背中を大きな掌でしっかりと支えながら待ってくれた。
目を開けることができず、完全に光を奪われた世界。
だからこそ、彼の手の温もり、衣服から漂う微かな潮風の香り、そして耳元で響く力強く優しい声が、普段の何倍も鮮明にサナの心に届く。
「……ごめんなさい。目が見えないから、結局博士にやってもらわないと、何もできない……」
サナが小さく身を縮めると、ククイは目元に当てたタオルをそっと取り替え、彼女の乱れた前髪を優しくかき上げた。
「頼られるのは、俺の役目だ。何ひとつ謝る必要はないぜ」
ククイの大きな指先が、腫れたサナの頬に優しく触れる。
「目が見えなくたって、顔が少し腫れていたって、サナはサナだ。俺にとっては、いつだって一番愛おしい生徒なんだからな」
「……ほんと、に……?」
「ああ。嘘だと思うなら、早く熱を下げて、その目で俺の顔を確かめてみろ」
ククイはクスクスと喉を鳴らして笑うと、サナの額にそっと自分の額を重ね合わせた。伝わってくるのは、絶対的な安心感と、揺るぎない熱量。
「さあ、目元を冷やしながら、もう一眠りしなさい。目が覚める頃には、ちゃんと光が見えるようになっているからな」
見えない暗闇への恐怖も、顔を見られる恥ずかしさも、彼の温かな腕の中でゆっくりと溶けていく。サナはククイの手をギュッと握り返しながら、安心して再び深い眠りへと落ちていった。
サナは薄やりとした意識の中で目を覚まし、瞼を押し上げようとした。
――けれど、開かない。
いくら力を込めても、瞼はピクリとも動かなかった。恐る恐る指先で触れてみると、目元がまるで別人のようにパンパンに腫れ上がり、熱を持って張りついている。高熱による強い炎症のせいだった。
(嘘……目、が開かない……)
暗闇の中でパニックになりかけたその時、階下から足音が近づいてきた。
「サナ、起きているかい? 熱の様子を見にきたぞ」
ククイの声だ。その瞬間、サナの胸を襲ったのは恐怖ではなく、猛烈な「恥ずかしさ」だった。
(ダメ、見ないで……! 今の私、絶対に不細工だもん……っ)
鏡を見なくても分かる。瞼は重く腫れ上がり、顔全体も熱で赤く浮腫んでいるはずだ。こんな痛々しくて醜い姿を、一番大好きな人に見られるなんて耐えられない。
サナは慌てて両手で顔を覆い、布団を頭まで引き被ろうとした。
「……こ、来ないで……! 博士、お願いだから、あっちに行って……っ」
「サナ? どうしたんだい、どこか痛むのか?」
サナの拒絶に、ククイの声が一気に緊迫する。足音が早まり、ベッドのすぐ脇で止まった。ククイの大きな手が、頭から被った毛布にそっと触れる。
「見ちゃダメ……! 今の私、すごく……すごく不細工なの……! 目も腫れて開かないし、変な顔だから……見ないで……っ」
布団の中から漏れる、泣きじゃくるような声。
一瞬の静寂の後、ククイの口から漏れたのは、呆れを含んだ深く優しい溜息だった。
「なんだ、そんなことか……」
「そんなことじゃないよ! 本当に酷い顔なんだから……っ」
「いいから、手を見せてくれ」
ククイは無理に布団を剥ぎ取るようなことはせず、顔を覆っているサナの冷たい手首をそっと掴んだ。そして、抵抗する彼女の手を優しく、包み込むようにして顔から遠ざける。
視界は真っ暗なままだ。ククイがどんな顔で自分を見ているのか、何も見えない。その「見えない」という事実が、サナの不安と気恥ずかしさをさらに煽った。
「不細工なもんか。……一生懸命、病気と戦ってる顔のどこが不細工なんだ?」
ククイの低く穏やかな声が、頭上から降り注ぐ。
彼は洗面所から持ってきていた冷たい濡れタオルを、手際よくサナの腫れ上がった目元にそっと沿わせた。
「ひんやりするぞ。……少し目が楽になるはずだ」
心地よい冷たさが、熱を持った瞼の痛みを和らげていく。目が見えないサナのために、ククイは次の動作に移るたび、必ず言葉をかけてくれた。
「少し身体を起こすぞ。背中を支えるからな」
「……うん」
「喉が乾いただろ。ストロー付きのコップを口元に持っていくぞ。ほら、ここだ」
唇に触れるストローの感触。サナがそれを咥えて少しずつ水を飲み干すのを、ククイは背中を大きな掌でしっかりと支えながら待ってくれた。
目を開けることができず、完全に光を奪われた世界。
だからこそ、彼の手の温もり、衣服から漂う微かな潮風の香り、そして耳元で響く力強く優しい声が、普段の何倍も鮮明にサナの心に届く。
「……ごめんなさい。目が見えないから、結局博士にやってもらわないと、何もできない……」
サナが小さく身を縮めると、ククイは目元に当てたタオルをそっと取り替え、彼女の乱れた前髪を優しくかき上げた。
「頼られるのは、俺の役目だ。何ひとつ謝る必要はないぜ」
ククイの大きな指先が、腫れたサナの頬に優しく触れる。
「目が見えなくたって、顔が少し腫れていたって、サナはサナだ。俺にとっては、いつだって一番愛おしい生徒なんだからな」
「……ほんと、に……?」
「ああ。嘘だと思うなら、早く熱を下げて、その目で俺の顔を確かめてみろ」
ククイはクスクスと喉を鳴らして笑うと、サナの額にそっと自分の額を重ね合わせた。伝わってくるのは、絶対的な安心感と、揺るぎない熱量。
「さあ、目元を冷やしながら、もう一眠りしなさい。目が覚める頃には、ちゃんと光が見えるようになっているからな」
見えない暗闇への恐怖も、顔を見られる恥ずかしさも、彼の温かな腕の中でゆっくりと溶けていく。サナはククイの手をギュッと握り返しながら、安心して再び深い眠りへと落ちていった。