世界一優しい私の主治医
ククイ博士がスクールへ出かけ、静まり返った昼下がりの研究所。
サナは薄手の上着を羽織り、足元を覚束なくさせながら、ゆっくりと外のテラスへ出た。
そこには、木陰で羽根を休めているククイの手持ち――巨大で雄々しいウォーグルの姿があった。鋭い眼光と力強い翼を持つそのポケモンは、サナが近づくと気配を察し、威嚇することもなく、そっと大きな頭を低く下げた。
「……こんにちは、ウォーグル」
サナは細い手で、彼の硬く温かな風切り羽に触れた。
勇猛な鷲ポケモンである彼は、病で力が入らないサナの小さな手のひらを、静かに、優しく受け止めてくれる。博士がどれほどこのポケモンを愛し、信頼しているかが、その穏やかな佇まいから伝わってきた。
サナはウォーグルの首元にそっと頬を寄せ、その大きな体温にすがるように目を閉じた。
「ねぇ、ウォーグル……。博士には絶対、秘密にしてほしいんだけど……お願いがあるの」
囁くような声は、潮風にかき消されそうなほど儚い。
「もしもね……私の病気がどうしても治らなくて。ただベッドの上で呼吸をして、死ぬのをじっと待つだけの、からっぽな人間になっちゃったら……」
喉の奥がツンと痛み、サナはウォーグルの羽毛に顔を埋めた。
博士の優しさが痛い。彼の未来を奪いたくない。けれど、自分がただ壊れていくのを待つだけの存在になる恐怖も、どうしても消えないのだ。
「その時はね……私を背中に乗せて、誰も知らない場所へ連れて行ってほしいの。博士の手も届かない、誰も私を見つけられない、水平線のずっと遠くへ……」
ただ死を待つだけの惨めな私を、博士に見せたくない。
彼のあたたかい思い出のまま、消えてしまいたい。それが、サナが心の底に押し込めていた、一番深くて酷い我儘だった。
「……約束、してくれる?」
ウォーグルは返事の代わりに、低く、悲しげな鳴き声を漏らした。
彼はサナの悲痛な思いを理解したかのように、大きな片翼をそっと広げると、震える彼女の身体をまるごと包み込んだ。
サナは薄手の上着を羽織り、足元を覚束なくさせながら、ゆっくりと外のテラスへ出た。
そこには、木陰で羽根を休めているククイの手持ち――巨大で雄々しいウォーグルの姿があった。鋭い眼光と力強い翼を持つそのポケモンは、サナが近づくと気配を察し、威嚇することもなく、そっと大きな頭を低く下げた。
「……こんにちは、ウォーグル」
サナは細い手で、彼の硬く温かな風切り羽に触れた。
勇猛な鷲ポケモンである彼は、病で力が入らないサナの小さな手のひらを、静かに、優しく受け止めてくれる。博士がどれほどこのポケモンを愛し、信頼しているかが、その穏やかな佇まいから伝わってきた。
サナはウォーグルの首元にそっと頬を寄せ、その大きな体温にすがるように目を閉じた。
「ねぇ、ウォーグル……。博士には絶対、秘密にしてほしいんだけど……お願いがあるの」
囁くような声は、潮風にかき消されそうなほど儚い。
「もしもね……私の病気がどうしても治らなくて。ただベッドの上で呼吸をして、死ぬのをじっと待つだけの、からっぽな人間になっちゃったら……」
喉の奥がツンと痛み、サナはウォーグルの羽毛に顔を埋めた。
博士の優しさが痛い。彼の未来を奪いたくない。けれど、自分がただ壊れていくのを待つだけの存在になる恐怖も、どうしても消えないのだ。
「その時はね……私を背中に乗せて、誰も知らない場所へ連れて行ってほしいの。博士の手も届かない、誰も私を見つけられない、水平線のずっと遠くへ……」
ただ死を待つだけの惨めな私を、博士に見せたくない。
彼のあたたかい思い出のまま、消えてしまいたい。それが、サナが心の底に押し込めていた、一番深くて酷い我儘だった。
「……約束、してくれる?」
ウォーグルは返事の代わりに、低く、悲しげな鳴き声を漏らした。
彼はサナの悲痛な思いを理解したかのように、大きな片翼をそっと広げると、震える彼女の身体をまるごと包み込んだ。