世界一優しい私の主治医

「……あの、博士。……少しだけ、息が苦しい気がして……」

深夜の研究所。デスクで作業をしていたククイの元へ、サナが恐る恐る声をかけた。
肩をすくめ、胸元を細い手で小さく押さえている。

「激しく苦しいわけじゃないんです。ちょっと胸が重いかな、気のせいかな……って思うくらいで。でも、なんだか不安になっちゃって……」

ククイは即座にペンを置き、サナの目線に合わせてかがみ込んだ。
視線で全身の観察を始めつつ、彼女の言葉に真剣に耳を傾ける。

サナはククイの真剣な表情を見ると、急に申し訳なさでいっぱいになったように俯いた。

「ごめんなさい……! 本当に、気のせいかもしれないのに……こんな些細なことで博士の手を煩わせるなんて、良くないですよね。せっかく集中してお仕事していたのに、邪魔しちゃって……」

「サナ」

ククイは彼女の言葉を優しく遮ると、両肩をポンと力強く叩いた。そして、いつもの太陽のような笑みを爆発させた。

「何言ってるんだ! 100点満点、いや、10000点の大正解だぜ!」

「え……?」

想定外のリアクションに、サナは目を丸くした。

「いいかい、サナ! 医療や看病において、一番大事なのは『違和感の段階で察知すること』なんだ! 激しく苦しくなってからじゃ、サナの身体にも大きな負担がかかるし、俺たちも後手に回ってしまう。だが、今のタイミングで教えてくれたおかげで、酷くなる前に早く処置ができる!」

ククイは親指をグッと立てて、誇らしげに語る。

「それに、初期症状のデータが取れれば、何が原因で息苦しさが起きているのか、解明までの時間が劇的に短くなる! これはもう、良いことずくめだ! サナの素晴らしい観察力と、勇気を出して教えてくれた判断力のおかげだぜ。本当にありがとな!」

「ほ、褒めすぎです、博士……」

勢いに圧倒されつつも、サナの顔から不安の陰がすーっと消えていく。自分は迷惑をかけたのではなく、助けになる行動をしたのだと、ククイの言葉が心から納得させてくれたからだ。

「よし、じゃあさっそく『早期対応』と行こうか!」

ククイはサナを優しく椅子に座らせると、手手早く血中酸素濃度を測るパルスオキシメーターを彼女の指に装着し、聴診器で胸の音を丁寧に聴いた。

「うん、酸素の値も悪くない。ちょっと気管支が過敏になっているだけだな。温かい蒸気を吸って、ゆっくり休めばすぐに楽になるぜ」

吸入器を準備し、サナの背中を優しくさするククイ。
些細な変化を恐れずに伝えていいのだと知ったサナは、深く、穏やかな息を吸い込みながら、大きな背中にそっと感謝を深めるのだった。
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