世界一優しい私の主治医
陽光が差し込むリビングの床で、イワンコが気持ち良さそうに丸くなっていた。
「わあ……イワンコ、可愛い〜!」
ここ数日ずっとロフトのベッドで過ごしていたサナにとって、久しぶりに自分から動けたこの時間はとびきりのご馳走だった。素足でペタペタと階段を下り、目を細めて毛づくろいをするイワンコのもとへ駆け寄る。
膝をつき、柔らかい首元の毛にそっと手を伸ばして撫で回すと、イワンコは嬉しそうに「ワン!」と短く鳴き、サナの手首に鼻先をすり寄せた。愛おしくて、サナの顔にパッと眩しい笑顔が広がる。
――だが、その直後だった。
胃の奥が激しく痙攣し、冷たい塊が一気に喉元まで駆け上がってきた。
「っ……!? う、……っ」
前触れも何もない、暴力的なまでの嘔吐感。
サナは血の気が引くのを感じながら、咄嗟に頭を巡らせた。(イワンコにかけちゃダメ――!)
死に物狂いで顔を横へ背けた瞬間、抑えきれなかったものが激しく口から噴き出した。
「けほっ……うぇっ、……う……っ!」
フローリングの床に、酸っぱい臭いとともに胃液が飛び散る。呼吸がうまくできず、何度も喉が喉鳴りを上げて痙攣した。苦しさに視界が涙で歪み、激しい吐き気が何度もサナの小さな身体を打ちのめす。
そして何より、サナの胸を深く抉ったのは強烈な罪悪感だった。
さっきまで無邪気に甘えてくれていたイワンコが、すぐ目の前にいる。こんな汚いものを、見せてしまった。自分の身体の醜さ、情けなさが怒涛のように押し寄せてくる。
「ごめん……ごめんなさい、イワンコ……っ、汚くて……ごめん……っ」
サナは吐物で汚れた床に伏せたまま、声をつまらせてボロボロと泣き出した。急な激痛と吐き気の苦しさ、そして大好きな存在を汚してしまったような申し訳なさで、心が張り裂けそうだった。
「サナ!?」
異音を聞きつけたククイが、奥のラボから飛び出してきた。
状況を一目で把握した彼は、すぐさまサナの傍らに膝をつき、抱き寄せるようにしてその肩を強く抱きしめた。
「大丈夫だ、サナ! 呼吸を整えろ、ゆっくり吐き出せ……」
「はか……っ、ごめ、なさ……イワンコに……っ」
泣きじゃくりながら謝り続けるサナの頭を、ククイは大きな掌で優しく包み込んだ。
「謝ることなんて何一つないぜ。それよりイワンコを見てごらん」
ククイの声に促され、涙で視界を滲ませながら恐る恐る目を向けると、イワンコは逃げ出すどころか、心配そうにサナの膝に前足をかけ、くんくんと鼻を鳴らしていた。そして、泣き顔のサナの頬を、いたわるように優しく舐めたのだ。
「イワンコは怒ってなんかいないさ。サナが苦しそうだから、心配して寄り添ってくれてるんだ」
ククイは柔らかく微笑むと、サナの涙を拭い、軽々と横抱きに持ち上げた。
「さあ、まずは綺麗な場所に移動しよう。床の掃除は俺とイワンコでやっておくから、サナは何も気にしなくていいんだぜ」
腕の中でまだ小さくしゃくりあげるサナに、イワンコが「ワン」と温かなエールを送る。ククイの強い腕の温もりと、言葉にならないイワンコの優しさに包まれながら、サナは溢れる涙を彼の白衣の中にそっと沈めていった。
「わあ……イワンコ、可愛い〜!」
ここ数日ずっとロフトのベッドで過ごしていたサナにとって、久しぶりに自分から動けたこの時間はとびきりのご馳走だった。素足でペタペタと階段を下り、目を細めて毛づくろいをするイワンコのもとへ駆け寄る。
膝をつき、柔らかい首元の毛にそっと手を伸ばして撫で回すと、イワンコは嬉しそうに「ワン!」と短く鳴き、サナの手首に鼻先をすり寄せた。愛おしくて、サナの顔にパッと眩しい笑顔が広がる。
――だが、その直後だった。
胃の奥が激しく痙攣し、冷たい塊が一気に喉元まで駆け上がってきた。
「っ……!? う、……っ」
前触れも何もない、暴力的なまでの嘔吐感。
サナは血の気が引くのを感じながら、咄嗟に頭を巡らせた。(イワンコにかけちゃダメ――!)
死に物狂いで顔を横へ背けた瞬間、抑えきれなかったものが激しく口から噴き出した。
「けほっ……うぇっ、……う……っ!」
フローリングの床に、酸っぱい臭いとともに胃液が飛び散る。呼吸がうまくできず、何度も喉が喉鳴りを上げて痙攣した。苦しさに視界が涙で歪み、激しい吐き気が何度もサナの小さな身体を打ちのめす。
そして何より、サナの胸を深く抉ったのは強烈な罪悪感だった。
さっきまで無邪気に甘えてくれていたイワンコが、すぐ目の前にいる。こんな汚いものを、見せてしまった。自分の身体の醜さ、情けなさが怒涛のように押し寄せてくる。
「ごめん……ごめんなさい、イワンコ……っ、汚くて……ごめん……っ」
サナは吐物で汚れた床に伏せたまま、声をつまらせてボロボロと泣き出した。急な激痛と吐き気の苦しさ、そして大好きな存在を汚してしまったような申し訳なさで、心が張り裂けそうだった。
「サナ!?」
異音を聞きつけたククイが、奥のラボから飛び出してきた。
状況を一目で把握した彼は、すぐさまサナの傍らに膝をつき、抱き寄せるようにしてその肩を強く抱きしめた。
「大丈夫だ、サナ! 呼吸を整えろ、ゆっくり吐き出せ……」
「はか……っ、ごめ、なさ……イワンコに……っ」
泣きじゃくりながら謝り続けるサナの頭を、ククイは大きな掌で優しく包み込んだ。
「謝ることなんて何一つないぜ。それよりイワンコを見てごらん」
ククイの声に促され、涙で視界を滲ませながら恐る恐る目を向けると、イワンコは逃げ出すどころか、心配そうにサナの膝に前足をかけ、くんくんと鼻を鳴らしていた。そして、泣き顔のサナの頬を、いたわるように優しく舐めたのだ。
「イワンコは怒ってなんかいないさ。サナが苦しそうだから、心配して寄り添ってくれてるんだ」
ククイは柔らかく微笑むと、サナの涙を拭い、軽々と横抱きに持ち上げた。
「さあ、まずは綺麗な場所に移動しよう。床の掃除は俺とイワンコでやっておくから、サナは何も気にしなくていいんだぜ」
腕の中でまだ小さくしゃくりあげるサナに、イワンコが「ワン」と温かなエールを送る。ククイの強い腕の温もりと、言葉にならないイワンコの優しさに包まれながら、サナは溢れる涙を彼の白衣の中にそっと沈めていった。