世界一優しい私の主治医
身体の不調は、まるで凪と嵐を不規則に繰り返すアローラの海のように、行ったり来たりを続けていた。
少し身体が軽くなり、「今日は調子がいいかもしれない」と胸を躍らせたのも束の間、数時間後には激しい倦怠感と重い痛みが容赦なくサナの全身を苛む。昨日の夕方には久しぶりに美味しそうに粥を口にし、ククイを喜ばせることができたのに、翌朝には胃が一切の物を受け付けず、一口の水さえ戻してしまう。
この執拗な「波」は、サナの心を少しずつ、けれど確実に削り取っていった。
(良くなったと思わせて、また落とされる……。私の体は、一体どうなっちゃってるの?)
期待しては裏切られ、前を向こうとした瞬間に足元を掬われる。そんな日々が続くうち、サナの胸の中に芽生えたのは、病魔への恐怖以上に恐ろしい「焦燥」だった。じっとしていられないほどの焦りが、彼女の呼吸を浅くする。治らないどころか、一歩進んで二歩下がるような感覚。自分だけが暗い泥沼の中で、ただただ無駄に足掻いているような気がしてならなかった。
「サナ、息を深く吐いてごらん」
ベッドの脇で、ククイが静かに彼女の手を包み込んだ。
顔を蒼白にし、ベッドの上で細い拳を強く握りしめて震えるサナの焦りを、彼はすべて見抜いていた。
「はか、せ……私、全然よくなってない……っ。昨日は食べられたのに、今日はもうダメで……こんなの、いつまで続けばいいの……?」
涙で潤んだ瞳が、助けを求めるようにククイを見つめる。
ククイは逃げ場のないその苦痛を受け止めるように、彼女の手を包む力にゆっくりと熱を込めた。
「焦らなくていいんだ、サナ。波が行ったり来たりするのは、君の身体が今まさに全力で戦っている証拠だぜ」
彼は低く、揺るぎない声で語りかける。
「潮の満ち引きと同じさ。引いた後は、必ずまた満ちてくる。ずっと良い状態が続かなくたっていい。一進一退を繰り返しながら、少しずつ、少しずつ体力を溜めていけばいいんだ。今日は食べられなくたって、明日また一口食べられればそれで大成功だろ?」
「でも……私、もう期待するのが怖いの……」
「なら、俺が代わりに期待してやる」
ククイは力強く微笑むと、サナの汗ばんだ額にそっと手を添えた。
「君が諦めそうになった時は、俺が何度でも希望を繋ぎ止めてやる。だからサナは、調子が悪い時は思いっきり弱音を吐いて、ただ身体を休めることだけを考えろ。焦る必要なんて、どこにもないんだからな」
その言葉と、掌から伝わる変わらない体温に、サナの胸を締め付けていた焦りの結び目が、少しずつ解けていくのだった。
少し身体が軽くなり、「今日は調子がいいかもしれない」と胸を躍らせたのも束の間、数時間後には激しい倦怠感と重い痛みが容赦なくサナの全身を苛む。昨日の夕方には久しぶりに美味しそうに粥を口にし、ククイを喜ばせることができたのに、翌朝には胃が一切の物を受け付けず、一口の水さえ戻してしまう。
この執拗な「波」は、サナの心を少しずつ、けれど確実に削り取っていった。
(良くなったと思わせて、また落とされる……。私の体は、一体どうなっちゃってるの?)
期待しては裏切られ、前を向こうとした瞬間に足元を掬われる。そんな日々が続くうち、サナの胸の中に芽生えたのは、病魔への恐怖以上に恐ろしい「焦燥」だった。じっとしていられないほどの焦りが、彼女の呼吸を浅くする。治らないどころか、一歩進んで二歩下がるような感覚。自分だけが暗い泥沼の中で、ただただ無駄に足掻いているような気がしてならなかった。
「サナ、息を深く吐いてごらん」
ベッドの脇で、ククイが静かに彼女の手を包み込んだ。
顔を蒼白にし、ベッドの上で細い拳を強く握りしめて震えるサナの焦りを、彼はすべて見抜いていた。
「はか、せ……私、全然よくなってない……っ。昨日は食べられたのに、今日はもうダメで……こんなの、いつまで続けばいいの……?」
涙で潤んだ瞳が、助けを求めるようにククイを見つめる。
ククイは逃げ場のないその苦痛を受け止めるように、彼女の手を包む力にゆっくりと熱を込めた。
「焦らなくていいんだ、サナ。波が行ったり来たりするのは、君の身体が今まさに全力で戦っている証拠だぜ」
彼は低く、揺るぎない声で語りかける。
「潮の満ち引きと同じさ。引いた後は、必ずまた満ちてくる。ずっと良い状態が続かなくたっていい。一進一退を繰り返しながら、少しずつ、少しずつ体力を溜めていけばいいんだ。今日は食べられなくたって、明日また一口食べられればそれで大成功だろ?」
「でも……私、もう期待するのが怖いの……」
「なら、俺が代わりに期待してやる」
ククイは力強く微笑むと、サナの汗ばんだ額にそっと手を添えた。
「君が諦めそうになった時は、俺が何度でも希望を繋ぎ止めてやる。だからサナは、調子が悪い時は思いっきり弱音を吐いて、ただ身体を休めることだけを考えろ。焦る必要なんて、どこにもないんだからな」
その言葉と、掌から伝わる変わらない体温に、サナの胸を締め付けていた焦りの結び目が、少しずつ解けていくのだった。