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カキとフィールドワーク



「……お、重い……よぉ…っ!」
大量のプリントを手に職員室へ向かって足を進める。宿題を忘れてしまった罰として、5時間目と6時間目の10分休憩の間に教材のプリントを運ぶよう頼まれてしまったのだ。
(もうっ…どうして忘れちゃったんだろう……)
新しいアクセサリーを買って浮かれていたから?見たことのないポケモンに出会って調べ物をしていたから?えーと、それとも…
駄目だ。心当たりがあり過ぎる。普段なら絶対にやらかさないミスに恥ずかしいやら情けないやら、顔に熱が集まる感覚にプリントの束を盾にして前を見ずにふらふらしていたからだったのかもしれない。
廊下の角を曲がったその瞬間…
「うわっ!」
私は人にぶつかって手にしていたプリントを廊下にぶちまけてしまっていた。
「うわぁ……」
同じ言葉なのにイントネーションでこんなにも違うんだ……なんて冷静に分析してる場合じゃない!!!沢山のプリントが廊下にばらまかれていく様子に一瞬現実逃避していたみたいだ。
「ごめんなさい…」
ぶつかってしまった人に謝罪をしながら屈んで落ちたプリントに手を伸ばす。
「いや、こっちこそ悪い。前見てなくて…って、お前か」
聞き覚えのある声に顔を上げる。
プリントをサッと拾って手渡してくれたのはクラスメイトのカキだった。
「これで全部か?」
「うーん…多分。そうみたい」 
カキは束になったプリントをひょいひょいと私の手から奪い取ると、そのままスタスタと歩き出す。
「え?…あっ!待って!!」
慌てて後を追う私に、彼は立ち止まってくれた。
「だ、駄目だよ…カキは宿題忘れてないのに……」
「気にすんな。どうせ暇だし、それにまた誰かにぶつかってプリント落としちまったら面倒だろ」
「えー…でも…」
私の言葉を待たずにさっきと同じように先に行ってしまうカキ。何を言っても止まる気のないその背中を追って教員室まで二人で歩いた。
「ありがとう、カキ」
「別にいいって。それより気を付けろよ。いつだって俺が側にいてやれる訳じゃねぇんだし」
「あはは……そうだね……」
居た堪れなくて苦笑を浮かべていると、カキは眉に皺を寄せ、ずいと顔を近づけた。
「笑い事じゃねぇぞ。お前は特にここに慣れてないし…」
目と鼻の先にある顔を見上げる。
怒っている訳じゃなく真剣な表情だ。
「いつもへにょへにょしてるし、心配なんだよ。」
「へ、へにょへにょって…っ、」
彼の口から思いもよらず可愛い言葉が出て来て思わず吹き出しそうになったけれど何とか堪えた。
「ごめんなさい。これからは気を付けるね」
素直に反省すると、彼は小さく息を吐く。
「…分かれば良いけどよ」
カキは教員室の扉を開けるとプリントを渡してくれた。
「ほら、行ってこいよ。俺が持って行くとマズいんだろ?」
「あ、ありがとう…!」
彼の優しさがくすぐったくて自然と頬が緩む。でも、それがバレてしまうときっと彼は怒ってしまうだろうから。私はプリントを抱き締めるように抱えると急いで先生の机に向かった。
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