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デート

「わあ……きれい」
「だろ?ここならきっとお前も満足してくれると思ったんだ」
たどり着いた場所は、メレメレ島の中でも人気の観光スポットだった。
「ここはアローラ百景にも選ばれるカーラエ湾だ。晴れた日だと水平線の向こう側に太陽が沈むんだ」
「すごい!海がキラキラ光ってるよ!」
「だろ?俺もこの景色が好きなんだ。特に夕方から夜にかけての時間帯がな。ケイコウオってポケモンが発光しているんだ」
「へぇ〜!カキ、ククイ博士みたい!」
「ははっ、確かにそうかもな。まあ俺はあの人ほど物知りじゃないけど」
苦笑しながらそう言うカキを見て、私は思わずくすりと笑う。
彼のこういう飾らないところが大好きなのだ。
…大好き?自分で自分の心に浮かんだ言葉に疑問を抱く。
(どうして今、カキのことが好きだって思ったんだろう?)
まるで最初から知っていたかのように、その感情が当たり前のように存在している。今までこんな気持ちになったことなんてなかったのに。
「どうしたサナ?やっぱりぼーっとしてる。疲れたか?」
不安げな瞳でこちらを見つめてくるカキの顔を見ると、ますます鼓動が早まった。
「ううん、違うよ。ただ、カキと一緒にいられて幸せだなって」
そう答えると、カキは驚いた顔をして固まってしまう。
あれ、変なこと言っちゃったかな。
「あっ!ごめんね、急にそんなこと言われても困るよね」
慌てて謝ると、カキは何故か耳まで真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
「……」
「カキ……?」
「……そういうことは軽々しく口にするものじゃないぞ。勘違いされたら大変だ」
「えっ?それどういう意味?」
「いや、何でもない。ほら、せっかく来たんだしもう少し見ていようぜ」
そう言ってカキは話題を変えてしまい、私も口を噤むしかなくなってしまう。
それからしばらくの間、私たちは無言のまま波の音に聴き入っていた。カキと過ごす時間は心地よくてずっとこのままでいたいと思えるほどだったけれど、同時に心の奥底では何かが足りないような感覚があった。
「なあ、サナ」
ふと、カキが私の名前を呼ぶ。
「どうしたの?」
「さっき、お前…俺と一緒にいられて幸せだって言ったよな」
「うん、それがどうかしたの?」
「…もし俺もそう思ってたら嬉しいか?」
「えっ?」
一瞬何を言われたのか分からなくて戸惑っていると、カキは照れくさそうな表情で微笑む。
「……俺も同じってことだよ」
そう言って私の頭を優しく撫でてくれた。
「カキ……」
その瞬間、私の中にあった空白が満たされていく。
それはまるで欠けていたパズルの最後のピースが見つかった時のような感覚だった。
(ああ、そうだ。私が欲しかったものはこれだったんだ)
ようやく気付いた。
私はずっとこの人の隣にいたかったんだ。
他の誰よりも近くにありたかったんだ。そしてこれから先も一緒にいたいと願っていたんだ。
(好きって、こういうことだったんだ)
胸の奥から溢れ出す想いを抑えきれず、衝動的にカキへと抱きつく。すると彼は驚きながらも優しく抱きしめ返してくれた。
「好きだよ、カキ」
自然とその言葉を口にしていた。生まれて初めて口にする愛の告白。恥ずかしくて顔が熱くなる。
「ああ、俺も…好きだ」
そう言うと、彼は私の肩に手を回したまま再び黙り込んでしまう。
耳元でカキの吐息を感じる度に、心臓が大きく跳ね上がる。
今の言葉を聞いただけで頭がくらくらしてしまいそうだ。
きっと今の私はみっともないくらいに顔を赤くしているに違いない。だけどそんなことはもう気にならなくて、ただこうしていられる時間を大切にしたいと思った。
首に腕を回すと、より一層カキとの密着度が増した気がする。
「カキ、あったかいね」
「お前もな」
「えへへ、カキと同じだ」
そう呟きながら彼に寄り添う。
「カキ」
「ん?なんだ?」
「大好き」
そう伝えると、彼の身体が小さく跳ねた。
「……ありがとう」
それだけ返すと、カキは何も言わずに頭を撫でてくれたけど視線だけは合わせてくれなかった。いつもは堂々としてる彼がこんな反応をするなんて珍しい。ちょっとだけ可愛いと思ってしまった。
「カキ、顔見せて?」
「嫌だ」
「いいから、こっち向いてよ」
「断る」
「じゃあキスしちゃうよ?」
「なっ!?」
そう言うとカキは弾かれたようにこちらを振り向いた。
その隙に素早く唇を奪う。
「……こういうのは反則だろ」
口を離すと、カキは少し怒ったような口調で文句を言っていたけど頬が緩んでいるのが丸わかりで思わず笑ってしまった。
「っ、おい……笑うなよ」
「ふ、ふふっ…ごめっ…だって、言葉と表情が…合って、ないんだもんっ…」
そして、そのまま至近距離で見つめ合うと自然と唇を重ねていた。
「……サナ、」
長い口付けの後、彼は私を押し倒して馬乗りになる。
「……カキ?」
「誘ったのはお前だからな」
真剣な眼差しに見下されて、私はこくりと喉を鳴らした。
カキの手が服の中に滑り込む。
「んっ……」
脇腹に触れた手が冷たくて、反射的に声が出てしまった。
「カキ…緊張してる?」
「当たり前だろ」
ぶっきらぼうに言い放つカキの顔は赤く染まっている。
「そっか、私だけじゃなかったんだね」
彼は照れ隠しなのか私の首筋に強く噛み付いた。痛みと快感が入り交じった不思議な感覚に襲われて身を捩らせる。
もっと触れて欲しいという欲求のままに彼の背中に手を回し抱き寄せると、彼は一瞬驚いたようだったけれどすぐに優しく抱きしめ返してくれた。
お互いの体温を分け合いながら何度も何度もキスを交わす。
最後に名残惜しげに唇を食んでから離れた後、彼は私を見下ろしたまま口を開いた。
「……悪い、加減できそうにない」
彼の瞳には熱情の色が見える。
そう言うなりカキは私の胸に吸い付いた。
「ひゃ……!ちょ、ちょっと待って……あっ……」
突然の刺激に驚きつつも、彼の頭を優しく撫でる。
すると、カキは私を見上げてそれはもう悪そうに微笑んだ。
「待たない」
そんな表情を見せられたらもう抵抗する気なんて無くなっちゃうじゃん。
「カキのいじわる……」
そう呟くと、彼は私の髪を掻き分けて耳にキスをした。
「なんとでも言え」
「……っ!」
何も言い返せない私を見つめるとカキは満足げに笑みを浮かべて再び行為を再開した。
「サナ、好きだ」
「うん、私も……んんっ……!」
彼の熱い舌が私の胸を這う。
「……はぁ、サナ……もっと触れたい」
そう言った彼の瞳は熱を帯びていて、まるで獲物を狙う獣のようだった。
「……いいよ」
私は目を閉じて、そっと彼を受け入れる。
やがて訪れた甘い痺れに酔い痴れるように、私はカキの首元に腕を回した。
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