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延命治療




研究所に帰るとロトム図鑑が私を見るなり泣きついてきた。
「サナーーー!!!無事だったロト!博士も僕もずっと、ずっと心配してたロト〜〜!!一体何処行ってたロト!!」
ごめんねと謝ると、ロトムはビデオカメラ機能を使ってククイ博士に連絡を取り始めた。「……もしもし!ククイ博士ー!サナが見つかったロト!今すぐ研究所に帰ってきて欲しいロトー!!」
電話越しのククイ博士は驚いたような声で何かを叫んでいたが、ロトムが一方的に通話を切り上げる。そしてすぐに私の方を向いて、真剣な顔つきで言った。
「……顔色が悪いロト。バイタルチェックするロト」
私は言われるままにロトムに体を委ねて、検査を受けた。
結果は予想通りというべきか、よくないものだった。
「……これは酷い状態ロト。こんな状態で外に出たらどうなるかわからないとは言わせないロト」
ロトムの声色には怒りが含まれていて、いつも陽気な彼が怒るだなんて……よほど心配をかけてしまったようだ。
「……ごめんなさい」
「全く、困ったものロト……」
そう言いつつも、彼は優しく微笑んでくれた。
「とりあえずお薬飲んで今日は安静にするロト」
「ありがとう……」
水の入ったコップを受け取ると錠剤を5つ飲み込む。そのまま水で薬を流し込むとロトムは心配そうな顔をしながら部屋から出て行った。
「……はぁ」
思わず漏れたため息と共に、ベッドの上に倒れ込むようにして横になる。
本当はわかっていたのだ。自分が無理をしていることくらい。でもどうしても、少しの可能性にかけてみたかった。今日私が買ったのは全て体力回復の作用があるものばかりだ。病気がほんのちょっとでも良くなるように。少しでも長く生きていられますようにって。
暫くうたた寝を繰り返していると、ドアの向こう側から声が聞こえた。
「サナ、入るよ」
返事を待たずに部屋に入ってきたのはククイ博士だった。手に持ったお盆の上からは湯気が出ているスープが見える。
「はかせ…」
ごめんなさい、と口を開こうとした瞬間、彼の手が私を包み込んだ。
「……心配した」
「えっ」
「本当に……心配したんだ……」
抱きしめられた腕の中で、彼が泣いているのがわかった。どうして……なんで……。疑問が浮かんでは消えていく。そんなことをしているうちに、自分の目からも大粒の雫がこぼれ落ちていた。
「……ごめんなさい、ごめんなさい……ごめ……なさ……」
嗚咽混じりに謝ることしかできない自分を情けなく思いながらも、ただひたすら涙を流す。そんな私をククイ博士は何も言わずにぎゅっと抱き寄せてくれた。
どれくらい経っただろうか。お互い落ち着いたところで、2人でご飯を食べながら話をすることにした。
「……さて、どうして俺とロトムに黙って外に出かけたりしたんだ?」
「それは……」
私はポツリポツリと話し始めた。
「市場に木の実を買いに行きたかったんです………」
「…うん」ククイ博士は少し間を空けて頷いてくれた。
「回復作用のあるものを沢山買いました。少しでも長生きできるようにって思って」
「……!」
ククイ博士の顔がみるみる曇っていく。
「…そうか、言ってくれればよかったのに」
「言えなかったんです。だって、言ったらきっと博士を困らせてしまうと思って」
「サナ…」
「私、アローラが好きです。博士も、ロトムも皆大好きなんです…だから、もっと…もっとここで過ごしたいと思ったんです…そしたらいてもいられなくなって…気がついたら飛び出していました」
「……そうか」
ククイ博士は俯きがちにそう呟いた。
その表情からは何を考えているのか読み取ることはできない。
「ごめんなさい、勝手なことをして」
「ああ…頼むから体調の悪い日は無茶をしないでくれ…心臓が止まるかと思ったぞ」
「はい……」
その後、私達は無言のまま食事を終えた。食器を下げに来たククイ博士が不意に立ち止まったかと思うと、振り返って口を開いた。
「食後のデザートに君が買った木の実を食べようか。どれが食べたい?」
「マゴの実が食べたいです!」
ククイ博士は頷くと、キッチンに戻っていった。
博士に気付かれないようにため息をつく。
実を言うとたかが木の実で症状が緩和するだなんて思ってはいなかった。そもそも地元のカントーで散々たらい回しにされたのに、今更完治なんてするはずがない。
それでも私は願わずにはいられなかった。
「……どうか、このままずっと元気でいれますように」
誰に向けたものでもない願い事は、静かな部屋の中に溶けて消えた。
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